ナイキ 、アプリ戦略を「実店舗」に統合:直販を伸ばすため

ナイキが、同社のアプリであるナイキプラス(Nike+)の利用者向けに新しい体験を提供している。同アプリの店舗内モードでは、カスタマーが試着室や靴のサイズのリクエストを瞬時に行えるほか、特別価格での購入や限定商品の購入、レジに並ぶ必要のないアプリ内での精算も可能となっている。

ナイキはモバイルアプリを実店舗で利用できるようにしていた。その結果、モバイルアプリが顧客ロイヤルティと売上を向上させることが分かり、店舗とアプリの結びつきをさらに強めようとしているのだ。ナイキのデジタル事業とDTC事業の成功の裏にあるのが、こうしたアプリと店舗戦略の結びつきだ。

ナイキのグローバルデジタル商品部門でトップを務めるマイケル・マーティン氏は、「我々はデジタルと実店舗について、別々のチャネル、お互いを高め合うチャネルという見方はしていない。ポケットのなかにスマホを入れている人が、どうすれば店舗に足を運ぶのかという全体的な観点から構築した」と明かし、次のように述べた。「当社と結びつきのもっとも強いカスタマーがいるのは当社の店舗だ。そこで、最高の体験を提供したい。これと逆の考えをもつ企業もいるだろう。アプリで買ってもらえるなら、店舗は必要ない、とね。だが、当社と当社のカスタマーにとって、これこそが最適なアプローチなのだ」。

店舗におけるアプリの役割

マーティン氏は同社の主要アプリである、NIKEアプリ、Nike SNKRSアプリ、Nike Run Clubアプリ、ナイキのWeChat(微信)におけるストア以外にも、デジタル小売の体験やサービスも監督する立場にある。1年半ほど前にナイキが直接販売を増やすための社内戦略を固めるなかで、同氏はナイキのストアにおけるデジタル統合をはじめ、より幅広い業務を担当するようになった。2017年にナイキは「トリプルダブル戦略(Triple Double Strategy)」を発表。同戦略は一連の取り組みを通じて同社のイノベーション、市場投入速度、カスタマーとのつながりをそれぞれ倍にすることを目標としている。

カスタマーとの直接的なつながりを倍加させるため、ナイキは同社店舗内におけるアプリの役割を考え直した。ナイキプラスのアプリ会員向けに店舗で使える特典や限定機能を提供し、直接販売を増やそうと試みたのだ。

昨年にかけて、ナイキはアプリから実店舗に流れ込むカスタマーデータをフィードバックするループを構築した。これはナイキの新型店舗としてニューヨークと上海にオープンしたハウス・オブ・イノベーション(House of Innovation)や昨年ロサンゼルスにオープンしたナイキ・ライブ(Nike Live)でもコンセプトとして採用されている。これらの店舗ではアプリによるスニーカーの予約やスマホを用いた会計、オンライン購入、実店舗のロッカーで商品の受け取りといったデジタルな新機能が導入されている。マーティン氏は、アプリと店舗というふたつのチャネルをつなげてカスタマーとの接点とすることで売上が伸びたと語る。

チャネルの壁を取り払う

その影響は店舗における体験全体から感じられる。店舗はその地域でアプリを使うユーザーから得られる情報をもとに、どの商品がよく売れるかを予測するなどして、販売戦略を立てる。また、よりスムーズな買い物体験として、カスタマーは購入可能なサイズやスタイルを調べて、アプリ内で会計を済ませられるようになっている。

ナイキは社内のチャネル戦略として、デジタルと小売販売チャネルでサイロの壁を取り払っている。その根底にあるのは、ひとつのチャネルでの成功は、もう一方のチャネルでの成功にも結びつくという考えだ。同社の取り組みから、従来型の小売ブランドが直接販売やカスタマーとのつながりを向上させるには、カスタマーが会員プログラムに参加したい、アプリをダウンロードしたいと思うように、その他のあらゆる小売チャネルを改善するのが有効だという結論が導き出される。

ヒュージ(Huge)で小売部門のバイスプレジデントを務めるロビン・コプランド氏は「ナイキは、直接販売やカスタマーとのつながりが新たに重要となった小売業界に、たとえ巨大ブランドであっても適応できるということを示した」と指摘する。

デジタル収益は36%増

ナイキの販売成績はデジタルでも、直接販売でも好調だ。3月21日に同社は2019年度第3四半期の業績を発表した。総収益は7%増の96億ドル(約1兆円)で、デジタル収益は36%増となり、ナイキのデジタル部門の四半期収益ではじめて10億ドル(約1100億円)を超えた。ナイキのCEO、マーク・パーカー氏は、ナイキプラスの熱心な会員や利用者は、ナイキの店舗で支払額がより多くなっており、こうした利用者を増やすため投資を行ったことを強調している。パーカー氏は、新しくオープンしたハウス・オブ・イノベーションにおける買い物の50%以上はナイキ会員によるもので、同アプリを使わない人と比べて、使う人の購入単価は平均で40%高いものとなっていると明かしている。

マーティン氏によると、同氏のチームがデジタル商品と店舗コンセプトのあいだにあった溝を埋めたことで、アプリユーザーによるナイキ実店舗での購入が促進されているという。

同氏は次のように語る。「デジタルへの移行は以前から重要な関心事ではあったが、戦略上、大規模にわたって消費者との1対1の関係性を重視するようになった。それによって消費者関連の決定に関する全データを回転率の高いフィードバックサイクルで活用できるようになり、できることの幅が増えた。私はデジタルイノベーションチームも担当している。これはただの研究所ではなく、ナイキ全体の中核部にイノベーションを波及させようとしている組織だ」。

小売パートナーにも注力

ナイキはまた、戦略に基づいて小売におけるパートナー企業を増やしている。マーティン氏はチームとともにナイキアプリによるデジタル機能をフットロッカー(Foot Locker)やディックズ・スポーティング・グッズ(Dick’s Sporting Goods)と協力してテストしていることを明かし、次のように述べた。

「ナイキは自社店舗での体験を、デジタルでの体験と同様に設計している。それによってカスタマーにより良いサービスを届けられるような体験を構築できる。そして、そこで得られた経験を小売パートナー企業に伝えている。目指しているのは強力なパートナーシップだ」。

Hilary Milnes(原文 / 訳:SI Japan)