ナイキ(Nike)の第3四半期の売上は、前年同期比1%減だった。現在の小売業界において、これは成功にほかならない。ナイキ社長/CEOジョン・ドナヒュー氏は、最新の決算発表において「この動的環境のなか、革新的商品を我々のようなペースで発表し、消費者との深いつながりを築けるブランドは、ほかにない」と断言した。
米スポーツ用品大手ナイキ(Nike)の第3四半期の売上は、前年同期比1%減だった。現在の小売業界において、これは成功にほかならない。
同社の決算発表によれば、来店客数は依然として昨年のそれに及ばないが、実店舗の90%以上が営業を再開してもなお、デジタル売上が今年度第1四半期に比べて82%増を記録した。第1、第2四半期の売上ともに、前者は中国、後者は北米における実店舗の一時閉店により、それぞれ前年同期比で5%減、38%減とマイナスを続けていたが、第3四半期は回復に転じた。
この復活を支えた要因のひとつが、主軸であるショッピングアプリ、ナイキ・トレイン・クラブ(Nike Train Club)、ナイキ・ラン・クラブ(Nike Run Club)といった自社アプリのダウンロード数の急速な伸張だ。これにより、同社はユーザーがステイホーム期間中に関心を抱いたアクティビティに関するデータを収集し、続いてそれを利用することで、購入を迷っているユーザーに機を逃さず、より相応しい商品を推薦できている。ただ、来店客数がコロナ禍前のレベルに戻り、フィットネス分野に進出する企業が増えた場合、ナイキが引き続き同アプリから利を得ていけるかどうかは、現時点では何ともいえない。
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ナイキ社長/CEOジョン・ドナヒュー氏は、最新の決算発表において「この動的環境のなか、革新的商品を我々のようなペースで発表し、消費者との深いつながりを築けるブランドは、ほかにない」と断言した。
同社の第3四半期における収益は106億ドル(約1.1兆円)、純利益は15億ドル(約1584億円)で、前年同期比11%増を記録した。一方、ナイキ最大のライバルである2社、アンダーアーマー(Under Armour)とアディダス(Adidas)はいずれも、30%超の減収だった。
「ジャーニーをとことん追いかける」
ユーザーがそれぞれに関心を寄せるアクティビティに対応するアプリをダウンロードさせることで、ユーザーの行動に関するより詳細なデータを入手し、それを利用して商品レコメンドの精度を高めるのが、ナイキの狙いだ。
「コンシューマージャーニーをとことん追いかける。我々が行っているのは、要するにそういうことだ」と、ナイキのコンシューマー&マーケットプレイス部門トップ、ハイディ・オニール氏は5月、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(MODERN RETAIL)に語った。「我々はエクスペリエンスとジャーニーの結合を目指している。たとえば、ヨガに関心のある消費者を見つけたら、その人を弊社のヨガアパレル製品に結びつけていく」。
同社は14.99ドル(約1580円)だったアプリ、ナイキ・トレイン・クラブ(Nike Train Club)を無料にした。4月、同アプリのユーザーは1週間に500万回のワークアウトを始めていると、ドナヒュー氏は述べ、「こうした消費者との直接的なエンゲージメントにより、中国での事業が[第4四半期には]成長に転じる」と宣言した。
また、CFOマット・フレンド氏がアーニングコールで株主/投資家に語ったところによれば、ナイキは前進のためのさらなる戦略として、アプリを介して収集したデータを利用し、新規顧客ではなく既存客に狙いを絞り、デジタル広告を打っていくという。
「エンゲージメントが高い会員の保持率を上げれば、顧客獲得単価を下げ、広告費用対効果を高めていける」と、フレンド氏は述べた。
Appleと提携する可能性も
「ナイキが選択したのは、自社アプリを利用した、さまざまなタイプの顧客セグメントの強化だ」と、ケロッグ(Kellogg’s)やウルタビューティ(Ulta Beauty)も扱うデジタルコマース&マーケティング専門のコンサルティング企業、アヴィオノス(Avionos)のデジタルストラテジープラクティス部門トップ、モウスミ・ビハリ氏は指摘する。「それぞれの顧客ベースに特定のニーズがあり、そのニーズに基づいたメッセージが必要である点をナイキは理解している」。
とはいえ、ナイキのワークアウトアプリと競合するフィットネスサブスクリプションサービスの提供を始めるリテーラーやテック企業が増えていけば、同戦略の有効性は下がることになる。たとえばAppleはすでに、Apple Watchユーザーに向けたサブスクリプションワークアウトサービスを導入する旨を発表しており、その後、同サービスをApple+と名付けた。ただし、AppleのCEOティム・クック氏はナイキの社外取締役であり、今後、Apple+とナイキが提携する可能性もある。
ナイキが差異化を図るためには、現在市場に出回っている他のワークアウトアプリとは一線を画するための新たな方法をテクノロジーに求めるのもひとつの手だと、ビハリ氏は指摘する。
「その一例が拡張現実(AR)だ」と氏はいう。「ARについては、ナイキはすでにシューズの試着に利用しているが、バーチャルな場でのトレーニングなどへの応用も可能だ」。
「成長の機会は有り余るほどある」
ナイキは今後も前進を目指し、たとえば機械学習を活用して同社ウェブサイトの検索機能を高め、マーケティングおよび商品提供においてなおいっそうのパーソナライズ化を図るなど、引き続きデジタル化に注力して「顧客対応」の向上を図っていくと、ドナヒュー氏はいう。
「成長の機会はまだまだ有り余るほどある気がする」と氏は断言した。
[原文:Nike’s sales almost return to pre-coronavirus levels thanks to digital growth]
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)