ヨーロッパでシェア拡大をめざす全米フットボールリーグ(NFL)が、新たな会員制ストリーミングサービスで大きな勝負に出る。アメリカというホームグラウンドから離れた市場で戦うために、テックの巨人とも提携。取材から見えてきたのは、リスクを恐れない攻めの姿勢だった。
ヨーロッパでシェア拡大をめざす全米フットボールリーグ(NFL)が、新たな会員制ストリーミングサービスで大きな勝負に出ている。
過去10年で、ロンドンで中継されるアメリカンフットボールの試合数は、年間1試合から4試合までしか増えなかった。だが今回NFLは、年間139.99ポンド(約2万1000円)で300試合以上をオンデマンド視聴できるストリーミングサービスの普及に乗り出した。
Netflix(ネットフリックス)風の配信サービス「NFL Game Pass」が、9月7日開始の新シーズンに先立ち、ヨーロッパの61の市場に向けてリニューアル。会員登録すると、全試合を見られるオプションに加え、授賞式やNFLの舞台裏を収めたコンテンツが視聴可能になる。Game PassのオーナーはNFLだが、サービスの運営者はブルーイン・スポーツ・キャピタル(Bruin Sports Capital)のジョイントベンチャー、子会社のスポーツメディア企業デルタトレ(Deltatre)、広告ホールディングス世界最大手WPPだ。
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テックの巨人とも提携
生き残るためには、スポーツ団体はファンとのつながりが不可欠だ。そう語ったのは、NFL英国法人のマネージング・ディレクター、アリステア・カークウッド氏。「NFLはこれまでストリーミングをビジネスの最前線に位置づけてこなかったが、今後5年間でGame Passは次第に我々のビジネス戦略でより大きな役割を担うようになる」。
違法ストリーミングがはびこる時代に、アメリカというホームグラウンドから離れて市場競争に加わるNFLにとって、これは非常に高い目標だ。カークウッド氏はそれでも、ファンのデータベースの獲得には大きな価値があると信じている。プレシーズンのあいだに、サービス上でテストしたコンテンツの結果は上々。NFLは登録者数を公開していないが、記録的な人数が7日間の無償体験を経て、有料会員登録に至ったという。なかにはプレシーズンの数日で最大12試合を視聴する人もいたと、Game PassジョイントベンチャーのCEO、サム・ジョーンズ氏は語った。カークウッド氏はまた、今年はじめにAmazon Primeと行った会合で、Prime会員向けに11試合の配信が決まったことからも弾みを得たと語った。
一方、スポーツパブリッシャーのコパ90(Copa90)を率いるジェームズ・カーカム氏は、シェア拡大を本当にめざすなら、試合に関連したストリーミング専用コンテンツが必要だと語った。「視聴者が押し寄せてくるほどの、魅力的な目玉コンテンツが必要だ」。
NFLの人気は米国の外ではさほど高くない。それでもGame PassとAmazonの提携は、スポーツのデータがどれほど素早く収益につながるかの試金石となる。Amazonは、収集したNFLファンのデータを使った関連商品の販売やスポンサー集めが可能だ。一方NFLは、6600万人以上の会員がいるプラットフォームにリーチし、スポーツファンをターゲットとする広告主の関心を引くことができる。
「手に入るものを重視」
Amazonのポテンシャルは計り知れないが、カークウッド氏は、ストリーミング提携は実験に過ぎないと強調。そしてAmazonやFacebookがスポーツ放送に参入すると、視聴者層拡大をめざすNFLにとって脅威となるのではないかという懸念を一蹴した。同氏によると、NFLは、ファンが求めるときに、求める方法で、一番見たいコンテンツを届けることができるという。
「考えが甘いかもしれないが、テック企業と提携することで何を失うかは問題ではない。私が重視しているのは、何を手に入れられるか、我々が手がけるほかのプラットフォームに生かせるものを手に入れられるかということだ。たとえばGame PassやBBCでは手に入らないものが、Facebookライブ動画では手に入るかもしれない。その逆も起こりうる」。
NFLがヨーロッパでのストリーミング事業5カ年計画を終える2022年、莫大な収益をもたらすNFLのテレビ放映権は誰の手に渡っているだろうか。少なくともそのころには、ヨーロッパの61の市場におけるNFL幹部らが、ニューヨークのNFLのメインチームと多くの情報を共有することで、AmazonやFacebookのような企業がどのように関与しても、収益につなげられるようになっているだろう。
Seb Joseph(原文 / 訳:SI Japan)
Photo courtesy of NFL UK