スポーツ界のトップ選手自身がファッションアイコンになっている現状を鑑みても、スポーツのスター選手がファッション業界にも通じているというのは珍しいことではない。だが、コレット・ガンジェミ氏は、「プロゲーマー」という新しいタイプのアスリート系インフルエンサーを思い描いている。
スポーツ界のトップ選手自身がファッションアイコンになっている現状を鑑みても、スポーツのスター選手がファッション業界にも通じているというのは珍しいことではない。だが、コレット・ガンジェミ氏は、「プロゲーマー」という新しいタイプのアスリート系インフルエンサーを思い描いている。
マルチプレイヤーゲーム「オーバーウォッチ(Overwatch)」で米国有数のチームであるニューヨーク・エクセルシオール(New York Excelsior、以下NYXL)で消費者製品販売部門のトップを務めるガンジェミ氏の使命は、eスポーツとファッションの交わりを活気づけることだ。eスポーツのリーチの勢いは凄まじく、2020年までには15億ドル(約1702億円)近くの収益をもたらすと予測されている。だが、ガンジェミ氏によると、このeスポーツ業界の盛り上がりに乗じて儲けようという試みは、まだまだ生ぬるいという。
「私が指揮を取ることを決めたとき、アパレル業界で得た経験をeスポーツ業界で活かしたいと考えていた」と、ガンジェミ氏は述べる。「ほとんどのeスポーツ関連のアパレル商品には、そのゲームのIP(知的財産)があしらわれている。やや子供っぽいところもあるし、まずキャラクターありきなところもある。私はこれを変えたかった。ストリートウェアやスポーツ業界の知人に片っ端から声をかけて、コラボできないかを尋ねて回った」。
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デザイナーとコラボレーション
ガンジェミ氏は、自身が「ストリートウェアジュエリー界の寵児」と称するジェームズ・ボンド氏に連絡を取った。ボンド氏は、ストリートウェアブランドのアンデフィーテッド(Undefeated)やメロディ・エサニ(Melody Ehsani)のデザイナーだ。そこで、ボンド氏を中心とするデザイナーたちは、ブルックリン周辺のチームを取り上げ、12月末まで通して営業予定のポップアップストアにおいて、週替わりで販売されるジュエリーやアパレルをチームとのコラボで制作した。エサニは特に、NYXLのファンベースの3割を占めている女性向けの商品に貢献しているが、eスポーツアパレル業界では、いまだそれに見合うふさわしい認知が得られていない。
「我々はアパレルを通じて非常に幅広い世代にアピールしている。そして、これこそがNYXLとのパートナーシップを特別なものにしている要因だ」と、ボンド氏は語る。
そして、もちろんいかなるブランドも、マストアイテムであるナイキのスニーカーなくしては、ストリートウェア業界での信頼を得られない。NYXLは、チームの配色を施したエアフォース1(Air Force 1)を投下する予定だ。
「もっとも勢いのあるスポーツ」
ゲーム実況アプリのTwitch(ツイッチ)の「ストリーマー(実況者)」の台頭により、非常にレベルの高いゲーマーや、NYXLが戦ってきたオーバーウォッチなどeスポーツのリーグ戦は、ここ数年で大きく成長した。2018年のeスポーツ大会の全世界での観客数は3億8000万人に達する見込みだ。そして、彼らがお気に入りのプレイヤーの試合を見るために費やした時間は、2018年の第1四半期だけでも1790万時間にのぼる。
こうしたゲームプレイヤーのあいだでファッションアイコンとして見られている人物はそう多くない。だが、ガンジェミ氏は、eスポーツとファッションのギャップを埋めた人物として、フォートナイト(Fortnite)のプレイ動画を配信しているネイト・ヒル氏を挙げている。文化自体が大衆化されていないことが持つ魅力を依然として備えていながらも、こうしたストリーマーやプレイヤーは数多くのオーディエンスを抱えており、ファン層のエンゲージメントを維持できている。
「これがいまもっとも勢いのあるスポーツだと信じている」と、ガンジェミ氏。「スケートボードが90年代に一世を風靡したのと似ている。この先もまだまだ勢いを増していくだろう」。
スケートカルチャーの再来
スケートボードを引き合いに出せるのはガンジェミ氏ならではだろう。90年代後半から2000年代初頭にかけてのスケートカルチャーの全盛期に名を馳せたシューズブランド、DCシューズ(DC Shoes)の元バイスプレジデントだったガンジェミ氏は、アングラのサブカルだったスケートファッションがいまでは大きな影響力を持つようになるのを見届けてきたのだ。15年前の2003年、スケートブランドは小規模で独立したショップに限られていた。その数年後、プロのスケートボーダーはナイキ(Nike)のシグネチャーモデルのスケートシューズを作るにあたって数億円規模のスポンサー契約を交わすようになった。現在、シュプリーム(Supreme)やパレス(Palace)は大企業となり、各国の昔ながらのファッションハウスのランウェイ上でもその名前を目にするようになった。
「私はスケートボード業界の凄まじい成長期を見届けてきた」とガンジェミ氏。「ロブ・ディアデックなどが得ていた報酬は8桁台だった。いま、eスポーツで同じことが起ころうとしている。現在の成長は凄まじいが、ブランドやチームの多くは、ファッションをうまく生かし切れていない」。