かつてYouTubeを利用したブランデッドコンテンツ参入への先陣を切った広告主でもあるBMWが現在制作中のポッドキャストシリーズは、ソープオペラ(日本における昼ドラ)形式の長尺コンテンツだ。なぜ今BMWは「耳で楽しむNetflix(のようなコンテンツ)」の制作に取り組むのだろうか。
流行は繰り返す。BMWの場合、それはポッドキャストのリバイバルだ。BMWは2001年にBMWフィルムズ(BMW Films)でデジタルにおけるブランデッドコンテンツ参入への先陣を切った広告主である。そして、同社が現在制作中のポッドキャストシリーズは、スポンサードコンテンツの黎明期を彷彿させる形式という。その形式とは、ソープオペラ(日本における昼ドラ)だ。
BMWが手がける新作ポッドキャストシリーズのタイトルは、『ヒプノポリス(Hypnopolis)』。ホープ・ライザーという女性主人公が殺人罪で有罪とされ、30年の睡眠刑から西暦2063年の世界に覚醒するという物語だ。しかし、彼女は自分の無実を信じており、真犯人たちが彼女の目覚めを待ちつづけいまも監視の目を光らせていると疑っている。真実を追うホープの物語は全6話の構成で、1話の長さは15分から20分程度。「BMW presents」というお決まりのフレーズ以外、全話を通じて同社の存在は匂わせる程度におさえられている。
「プロダクトプレースメントもないし、派手なマーケティングメッセージもない」と、BMWの広報担当者は話す。そのかわり、BMWへの言及は「秘密のヒント」として挿入される。この広報担当者によると、このヒントに気づくのは筋金入りのBMWファンだけだろうという。「このシリーズを通じて、未来における都市やモビリティの開発についてBMWのビジョンを示したかった」。
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長尺のストーリーで注目を集める
ブランデッドポッドキャストは新しい潮流ではない。Slack(スラック)やマクドナルド、マカフィー(McAfee)から、ウェブアプリケーションを開発するベースキャンプ(Basecamp)までさまざまなブランドが独自のポッドキャスト番組を制作しているが、その成否はさまざまだ。だが、ほんの数例を除いて、フィクションやオリジナルストーリーに基づくポッドキャストはほとんど見られない。
広告主の関心は、ゲストへのインタビューというファクトベースのトーク番組に傾きがちだ。この種の番組は、有名な司会者を起用することでリスナーにインパクトを与えやすい。だがBMWはスタジオでのトークというフォーマットが飽和状態の市場で自分たちの作品に注目を集めるためには、長尺のストーリーに焦点を当てるべきだと考えた。その結果、同社はこの分野で定評のあるロバート・ヴァレンタイン氏を起用して、脚本の下敷きとなるオリジナルコンセプトの考案を依頼した。
「急成長するポッドキャスト市場で、典型的なアプローチによるブランデッドコンテンツを作っても、多くのリスナーを引きつけることはできない」。それはわかっていたと、BMWグループ(BMW Group)でデジタルマーケティングのグローバルヘッドを務めるヨルグ・ポーゲンポール氏は語る。「そこで我々はポッドキャストというメディアを耳で楽しむNetflixと位置づけ、娯楽性の高いフィクションシリーズを制作することにした」。
このシリーズが成功すれば、第2弾が後に続くだろうとポーゲンポール氏は言う。うまくいけば『ヒプノポリス』は、『チェンジング・レーンズ(Changing Lanes)』、『クリエイターズ・オブ・ア・ディファレント・ビート(Creators of a Different Beat)』、『クルチュアモビール(KulturMobile)』といったBMWの(ファクトベースの)オリジナルポッドキャスト番組群に名を連ねることになる。この4つの番組のうち一番人気は『チェンジング・レーンズ』で、10万人を超えるフォロワーがその人気を証明しているという。
同氏は、これらポッドキャストのコストについては言及を避けたが、テレビ広告を作るのに必要なコストに比べればその制作費は微々たる金額だ。実際、ポッドキャストエージェンシーのノヴェル(Novel)を創設したマックス・オブライエン氏によると、ブランッデッドポッドキャストの制作費は、1話当たり2000ポンド(約27万円)程度から、多いケースでも1万2000ポンド(約160万円)をやや超える金額という。
音声によるストーリーテリングの力
ポーゲンポール氏によると、BMWは昨年ポッドキャストの番組スポンサーとして出稿したが、この広告の効果は限定的と見ている。「ポッドキャストで広告に耳を傾けるだろうか? 私ならスキップしたい」と同氏は言う。ポーゲンポール氏の考えでは、一般的な広告よりもブランデッドポッドキャストのほうがBMWのメッセージをリスナーに伝えやすい。同社がeスポーツに大金をつぎ込むのも同じ理由で、同社のデジタルコンテンツの大部分を消費する若者層にリーチしたいと期待している。
「ポッドキャストは、動画のブランデッドコンテンツを視聴するために忙しい生活から20分や30分の時間を割くなど考えられないというオーディエンスに、長尺のコンテンツでコミュニケーションする機会を提供してくれる」。オブライエン氏はそう指摘する。とはいえ、広告付きのポッドキャスト番組を喜んで聞く人々にリーチすることには、それ相応の価値はある。そのことはオムニコム(Omnicom)がSpotify(スポティファイ)のポッドキャストに、2020年の下半期を通じて2000万ドル(約21億円)を先行投資すると決断したことからも明らかだろう。
オブライエン氏は、ポッドキャストのメリットについてこう語る。「結局のところ、多くのブランドがポッドキャストに向かう理由は、彼らが音声によるストーリーテリングの力を評価しているからだ。同時に、ポッドキャストは『隙間時間』に消費されるコンテンツという認識もある。別の作業をしながら楽しめるという音声コンテンツならではのメリットも、ブランドが注目するポイントだろう」。
BMWはこれらポッドキャストの制作費を、ほかのメディアチャネルの予算から支出している。「ポッドキャストのために追加の予算を手当てするわけではない。グローバルのマーケティング予算から新シリーズの費用を捻出した」。ポーゲンポール氏はそう説明している。
この夏、クラフトハインツ(Kraft Heinz)やボーダフォン(Vodafone)など、ほかの広告主もブランデッドポッドキャストを制作している。
[原文:‘Netflix for ears’: How a new serialized podcast is helping BMW shift into branded entertainment]
SEB JOSEPH(翻訳:英じゅんこ、編集:分島 翔平)