2010年よりオウンドメディア「ネスレアミューズ」を運営しているネスレ日本は、デジタルブランディングの先駆者といえる存在のひとつだ。ネスレ日本で専務執行役員CMOを務める石橋昌文氏は、「エモーショナルなコミュニケーションには、長尺なムービーが必要だ」と語る。

ネスレ日本CMO 石橋昌文氏
デジタル空間における企業のブランディング活動は、長年の課題だった。しかし、スマートフォンの普及により、インターネットユーザーが急速に拡大し、さまざまなテクノロジーが進化したいま、それが可能になってきた。
2010年よりオウンドメディア「ネスレアミューズ」を運営しているネスレ日本は、そんなデジタルブランディングの先駆者的存在のひとつだ。特に注目すべきは、そのデジタル動画の活用方法だろう。同オウンドメディア内に「ネスレシアター」という専門コーナーを設け、動画によるブランデッドコンテンツを多数掲載している。なお、「ネスレアミューズ」には、現状、約500万人以上もの会員が存在するという。
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デジタルでブランドを育成
「ブランドのエンゲージメントを高めるには、長尺ムービーが必要だ」と、ネスレ日本で専務執行役員CMOを務める石橋昌文氏は語る。「1時間もの長さが必要なわけではない。エンターテインメントとして成立する、10〜15分程度の作品を通して、ブランドの価値観・世界観を伝えている」。
石橋氏はなにも従来のテレビCMを否定しているわけではない。たとえば、新規のブランドを立ち上げるような場合であれば、マス広告がベストだと認める。しかし、ネスカフェやキットカットという同社の主力ブランドの認知度は、すでにほぼ100%に近い。
「こうしたブランドでテレビCMを打っても、もはや売上に貢献はしない。そういう状況では、既存の方法とは異なるコミュニケーションを実施しないとブランドは育てられない」。
15年前から開始された、キットカットの受験キャンペーンもそうした想いから実施された。マーケターなら誰でも一度は見聞きしたことがあるだろう、この有名な事例は、マーケティングの神様フィリップ・コトラーにも称賛されたという。
必要なのは意思と熱意
とはいえ、オウンドメディア運営はまだしも、デジタル動画の製作には、及び腰となるマーケターも多い。コモディティ化してきたとはいえ、ブランドの顔となる動画を製作するには、それなりに先立つものが必要だからだ。そんな見方に対して石橋氏は、「意思と熱意さえあれば、実現できる」と言い切る。
「10分のショートムービーと30秒のテレビCM、実は制作費はほとんど変わらない」と、石橋氏。「テレビCMに何億円も必要になるのは媒体費部分。それがYouTubeなら無料だ。もちろん、ディストリビューションにはメディア投資は必要だが、何億も必要になることはない」。
こうした施策は、代理店任せにすると、実現しないことが多い。トラディショナルメディアのビジネスと比較して、手間の割に儲からないからだ。そのため、すでにデジタルシフトしているマーケターは、自らデジタルエージェンシーのように動いている。
「ブランドサイドが制作サイドに、伝えたいことをきちんと説明して、理解をしてもらい、巻き込んでいかないと進まない。予算の前に、意思と熱意があれば実現できるはずだ」。
来る8月の3日・4日にヒルトン福岡シーホークで開催される「DIGIDAY BRAND LEADERS」では、ネスレ日本のCMO石橋昌文氏のセッションが行われる予定だ。
Written by 長田真
Photo by GettyImage