「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2019」は6月11日、長中尺のブランデットムービーを対象とした部門「Branded Shorts 2019」の表彰式を開催。ブランデッドムービーの存在感が増していると語る同部門のスポンサー、ネスレ日本 CMO 石橋昌文氏に、その可能性を聞いた。
ブランデッドムービーは、マーケティングの課題解決に貢献し得るか。
アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(以下、SSFF & ASIA)」は6月11日、今年で第4回目となる、ブランデットムービーを対象とした部門「Branded Shorts 2019」の表彰式を開催。今年の応募作品数は開催最多の400本以上に及び、熱量の高まりが感じられた。クリエイティブ面でも、インターナショナルカテゴリーの受賞作品である『22 AGAIN』や、ナショナルカテゴリーの受賞作品『The Party Bus 好きだなんていわない』に見られるように、ユニークなアプローチに挑戦している作品が見られた。
「Branded Shortsをはじめた2016年に比べると、企業からの応募作品も増え、ブランデッドムービーの存在感が年々高まっている」。こう語るのは、同部門のスポンサーを務めるネスレ日本 CMOの石橋昌文氏だ。無料のWeb映画館「ネスレシアター」をオウンドメディア内に設けるなど、いち早くブランデッドムービーに注目し、Branded Shortsの立ち上げにも関わった同氏に、ブランデッドムービーの可能性を聞いた。
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――4回目の『Branded Shorts』、どんな変化が?
さまざまな企業がブランデッドショートという手法を通じたコミュニケーションを、拡大されていると感じます。作品数やそこに投資する金額も大きくなっており、Branded Shorts開始時に比べると、かなり認知が広がってきました。
我々自身も、作品を通じてさまざまなチャレンジをしていて、今回公開した「ネスレ ウェルネス アンバサダー」のブランデッドムービー『上田家の食卓』全5話においても、実験的な試みをしています。
――ほう。それはどんなチャレンジでしょう?
サービス訴求を、よりネイティブな形で視聴者に伝えるよう心がけました。これまで我々が手がけてきた作品は、商品訴求のメッセージを冒頭や、途中に入れたりしていました。ですが今回は、そうしたメッセージをはじめて最後の最後に持ってきています。ストーリーの進行を阻害することなく、最後に出てくる1分前後のサービス訴求をシンクロさせることで、違和感なく作品を楽しめるようにしています。
こうしたチャレンジができたのは、ひとえに監督のおかげです。はじめに我々が、「ネスレ ウェルネス アンバサダー」の訴求ポイントを5つお伝えしたところ、それを監督が咀嚼して、ああいう構造を作ってくださったんです。
我々は、監督の表現したいものやオリジナリティを生かして好きなものを作ってもらうことを非常に大事にしています。我々はそこに制作面でサポートをする。その前提のなかで、ブランドのコンセプトを生かしたり、あるいは商品の利用法を正しい形で表現するということをお願いしています。
――そもそも、ブランデッドムービーに注力した背景は?
話は16年前まで遡ります。我々がショートフィルムをはじめて手がけたのは2003年。その年は、キットカット発売から30周年のタイミングで、その記念に映画監督の岩井俊二さんと『花とアリス』というショートムービーを作りました。当時、テレビ広告におけるブランド訴求に限界を感じていたこともあり、そこからブランデッドムービーに注力しはじめました。
既に認知が取れていて、トライアル(試用)もそこそこあるブランドを、テレビ広告で訴求してもインパクトは見込めません。当時我々にとって重要だったのは、ブランドを愛用していただいている顧客のエンゲージメントレベルやロイヤリティをあげて、使用頻度、食用頻度を向上することだった。ブランデッドムービーには、その課題を解決できる可能性を感じたんです。
それから10年以上、我々は継続してブランデッドムービーを作ってきました。その取り組みを別所さん(SSFF & ASIA代表、別所哲也氏)が評価してくれて、2016年にBranded Shortsが発足しました。
――なるほど。別所さんに評価された点とは?
Branded short設立前に、高岡(ネスレ日本社長、高岡浩三氏)と私と、5〜6人の映画監督さんと食事をする機会があったのですが、彼らは自分たちのオリジナリティがある映画を作りたいのに、それだとスポンサーが付かないと嘆いていた。原作やテレビドラマがヒットして、そのあと出資者を募って映画を作る。これが国内では映画作りのスタンダードになってしまっているとおっしゃっていたんです。
前述した通り、我々はこうした監督やクリエイターのみなさんの意思を尊重するよう心がけています。彼らが作りたいものを作ってもらう、こうした姿勢が評価されたポイントかもしれません。
――素敵ですね。ビジネス面での成果はありましたか?
『上田家の食卓』を含む、弊社のブランデッドムービーを配信しているオウンドメディア「ネスレアミューズ」に来訪してくれたお客さまは、そうでないお客さまより、商品購入金額が1.3倍以上高いというデータが出ています(「購入」は、通販・店頭含む全チャネル対象)。また、実際にコンテンツを1回見た人と3回以上見た人で購買金額を比べると、やはり複数回接触されている方は購買金額が高い。
「エンゲージメントを高め、購買頻度を向上する」という観点では、やはりブランデッドムービーには可能性があると考えています。
――今後、Branded Shortをどのような賞にしたいですか?
我々は決して自身の課題を解決するためだけに、ビジネスをしているわけではありません。関わっているステイクホルダーや顧客、そして監督やクリエイターのみなさん、彼らの課題を、Branded Shortや我々の作品を通じて解決することができれば、これ以上嬉しいことはありません。
Written by Kan Murakami