NASCAR(ナスカー)は拡張現実(AR)や360度動画などの新たに出現したフォーマットへの投資を拡大している。NASCARは2019年、視聴者がレース中のさまざまなドライバーのレースカー内での様子を見ることができる360度動画をストリーミング形式で10本配信する予定だ。
2019年のシーズンに向けて、NASCAR(ナスカー)は拡張現実(AR)や360度動画などの新たに出現したフォーマットへの投資を拡大している。
NASCARは2019年、視聴者がレース中のさまざまなドライバーのレースカー内での様子を見ることができる360度動画をストリーミング形式で10本配信する予定だ。最初に配信される動画は、ドライバーであるブッバ・ウォレス氏のデイトナ500(Daytona 500)の際の車内の様子になるという。デイトナ500は知名度の高いレースで、2019年2月17日の日曜日から開催され、これを皮切りにシーズンがスタートした。
収益は度外視で展開
昨年のプレーオフ中に、NASCARは同社のモバイルアプリに新しい拡張現実機能も実装した。コカ・コーラがスポンサーとして付いたこのモバイルアプリを使用すれば、ユーザーは祝勝イベントやレース終了後のドライバーの燃えつきなど、多くの人が見たいと思う瞬間に「入り込み」、それを見ることができた。NASCARは、今年のシーズンにこの機能を復活させる予定だと、同リーグのデジタル部門担当のバイスプレジデント、ティム・クラーク氏は言う。
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NASCARは360度動画や拡張現実を同社のコンテンツやマーケティング戦略において重要なものだと認識しているが、これらやそのほかの新たに出現した技術に割り当てられる予算は、同リーグのマーケティング予算の10%未満を占めるに過ぎないと、クラーク氏は言う。誤解のないように付け加えると、メディア企業であると同時にマーケターでもあるスポーツリーグのNASCARは、新しく出現した技術への取り組みを同社のマーケティングへの取り組みの一環として認識している。
「これが収益を生むものになるとは考えていない」と、クラーク氏は言う。「知名度を飛躍的に向上させ、ファンにリーチできるマーケティングプラットフォームになることが目標だ」。
ARや360度動画の現状
NASCARは昨年、ソーシャルプラットフォームへ配信するコンテンツを1万8000本以上制作した。今年は、その数を2万5000本以上まで増やす予定だと、NASCARのコンテンツ部門担当のバイスプレジデントであるエバン・パーカー氏は言う。これらすべてのコンテンツは、ソーシャル動画であれAR機能を利用した360度動画であれ、主たる配信体験を補完するものとして扱われている。
「レースを見に行けない、あるいはレーストラックを見に行ったことのない場合、デジタルプラットフォームやソーシャルプラットフォームを介した体験は、放送を通して視聴しているものを補完するだけにとどまらない。実際にレーストラックを見に行きたくなるようにするものだ」と、クラーク氏は言った。
ARや360度動画はマーケターやメディア企業の両方のあいだで非常に人気を博している。この熱狂は一部では最近冷え込んでいる。なぜなら、ARやVRが広がるかどうかまだ疑問が残るだからだ。また、マーケターは、Appleによる同社のオペレーティングシステムに対する今後の変更が、WebベースのARやVR体験の推進を困難にするのではないか、と不安を抱いている。
「とてもユニークな機会」
「ARに関して私見を言うと、この技術が広がり、幅広いオーディエンスにリーチできるようになるかどうかという議論をするときに一部の人は間違った認識をしている」と、クラーク氏は言う。「この領域を得ることが目標ではない。ARは、私たちにとって、ファンをレーストラックにもっと引き付けるためのユニークな機会だ。私たちはARをそのような視点から見ている」。
現在、YouTubeやFacebook、そのほかの大規模なソーシャルプラットフォームを利用して簡単に視聴できる360度動画は、拡大していくことが可能だ。NASCARはこのフォーマットを活用できる。なぜなら、同社はファンに同社にしか提供できないレース中のレースカー内の様子などの領域を視聴する機会を与えられるからだ。これは、ほかのマーケターやメディア会社では提供できないという点で魅力的だ。
「360度のライブカメラをレースカーの車内に設置し、ドライバーが加速したりブレーキをかけるところを視聴したり、レースカーがどれほど壁に近いところを走行しているかを見ることができれば、これはとてもユニークな機会になる」と、クラーク氏は言う。
横断組織のメリット
NASCARは昨年、編集部門とマーケティング部門を融合し、同リーグがコンテンツを制作したり、プラットフォームを介して配信したり、これをマーケティング全体の目標に結びつけたりする仕組みに関するプロセスをより合理化するよう努めた。この融合部門には現在、65名が在籍し、編集やエンターテインメントマーケティング、NASCARプロダクションを含む部門から構成される。NASCARプロダクションは長編のプログラムを制作し、テレビ局やストリーミングプラットフォーム、そのほかのサードパーティコンテンツバイヤーに販売する。
「縦割りで作業すると、非常に質の高いソーシャルコンテンツや編集物、TVドキュメンタリーを常に制作できる。だが、現在では、それらの要素を結び付けたために、さらに効率を高めて多種多様なやり方でストーリーを語る方法をこれまで以上にコントロールすることができる」と、パーカー氏は語った。