欧州屈指のeスポーツ団体、G2はアディダスとコラボしたジャージ発売に際し、メタル系のオリジナルソング「アウァ・ウェイ(Our Way)」を公開した。いま、eスポーツチームによるプロのミュージシャンを起用したオリジナルソング制作とシングルの発売が進展中だ。
eスポーツチームのジャージのマーケティング戦略としては、近来稀(まれ)に見る斬新な企画かもれしれない。
欧州屈指のeスポーツ団体であるG2は、アディダス(Adidas)と共同で制作した新しいジャージを発表するにあたり、メタル系のオリジナルソング「アウァ・ウェイ(Our Way)」を公開した。これだけでも十分に目新しい試みなのだが、さらに人目を引くのはパフォーマーの陣容だ。
まずは中国系アメリカ人のチェリスト、ティナ・グオ。彼女は映画音楽の巨匠ハンス・ジマーがタクトを振るう「デューン砂の惑星(Dune)」にも参加している。そして、YouTube動画で世を沸かせるドラマーのルーク・ホランド。さらにはデスコア系のギタリスト、ジェイソン・リチャードソンと、フィンランド人シンガーのノーラ・ロウヒモが名を連ねる。この多彩な顔ぶれの極めつけはリードヴォーカリストのカルロス・「オセロテ」・ロドリゲス、G2 Esportsの創業者兼最高経営責任者(CEO)その人だ。
Advertisement
オリジナルソングの企画は突然の発案だったが、期待通りの効果を発揮したようだ。ロドリゲス氏によると、公開から10日間にファンから寄せられた感想は圧倒的にポジティブだったという。同様に、ジャージの売上も大きく伸びた。当然のことながら、具体的な数字は明かされなかった。ただし、ロドリゲス氏は期待以上の数字になるのはほぼ確実だと述べている。
この成果は、G2がもっとも活動的なファン層のひとつにうまく波長を合わせた結果といえる。G2は、昨年Twitterで2番目に閲覧数の多かったチームだが、それだけではない。Twitterによると、同団体にはもっとも多くツイートされたeスポーツ選手として、ミクスウェル選手が在籍している。とはいえ、成功が確約されていたわけではない。なにしろ、コース外を走るようなプランである。そこでロドリゲス氏とそのチームは、勝てる見込みを最大限に引き上げるため、この試みに半年の時間と大金を投じた。連携の相手が自由と自主性を求めるミュージシャンたちであるため、悪くない仕事をしたと思うと、ロドリゲス氏は語った。
ロドリゲス氏は、「マーヴェル(Marvel)が構築したような、大きな世界観を描かなければならない」と述べ、自身が情熱を注ぐプロジェクトを、G2全体の方向性に合わせて進める必要があるとしている。「それは、人物、物語、大きな事件や出来事、レガシーなどを内包した世界を構築することだ。さらに、G2の世界には競技の勝敗という醍醐味もあり、そこではトーナメントという現実とキャラクターが織りなす虚構が交差する。エンターテインメント業界に、このようなIPはほかに例を見ない」。
「スポーツ団体というよりメディア企業」
ロドリゲス氏が正しいか否かはさておき。多くのCEOにとって、競争力のあるeスポーツチームというだけでは十分ではない。いかに成功していても、G2のようなチームはゲームそのものを所有していないため、稼げる収入には限りがある。
極言すれば、チームの稼ぎはIPを握るゲームの所有者(すなわちパブリッシャー)次第だ。eスポーツ団体にとって、新たな収入源を開拓するのが難しい理由もそこにある。彼らは、自らが所有するブランドや権利を深く掘り下げて、新たな金脈を探さなければならない。そのひとつの可能性がコンテンツだ。実際、フェイズクラン(Faze Clan)やワンハンドレッド・シーブス(100 Thieves)などは、純然たるeスポーツ団体とはいえない。たしかにチームは重要だが、それは事業全体の一部でしかなく、それを支えているのは、メディア収入(クリエイターによるTwitch動画の配信など)やアパレル販売の売上だ。
「純粋なスポンサーシップ契約は成功しない。eスポーツチームの資産に企業のロゴを貼り付けるだけの時代は終わった。フェイズクランが良い例だ。いまや彼らはeスポーツ団体というよりメディア企業だ」。そう語るのは、eスポーツ・エンターテインメント・グループ(Esports Entertainment Group)のeスポーツ担当プレジデントを務めるマグナス・レッパニエミ氏だ。「フェイズクランでは、インフルエンサーたちがオーディエンスの心に響くコンテンツを作成し、ブランドとチームへの親近感を高めている」。
自社のレコードレーベルが発売元
率直にいえば、このような団体にとって、eスポーツはマーケティングチャネルだ。eスポーツ団体がシングルをリリースするという考えは、もはやそれほど突飛な発想ではない。むしろG2に関する限り、シングルの発売元が同団体のレコードレーベルであることを考えれば、抜け目がないとさえいえる。しかも、このような試みはいまに始まったことではない。たとえば、ライオットゲームズ(Riot Games)は社内に作曲家チームを持ち、2013年から同社のトーナメントのテーマ曲を作っている。ロドリゲス氏はずっと注目してきた。
「我々の組織には、競技に参加するプレイヤーがいて、コンテンツを作成するクリエイターがいる。それと同じように、音楽を制作するミュージシャンも抱えるようになるだろう」と、ロドリゲス氏は言う。「そして5年もすれば、スポティファイ(Spotify)のプレイリストには、我々の制作した楽曲が60から80曲ほど登録されていることだろう」。
これらの曲のなかには、G2が制作した映画の楽曲もあるかもしれない。ロドリゲス氏はこう述べている。「我々はファンを楽しませるためにいろいろなことを考える。そのなかには確実に音楽も含まれている。将来的には、映画のみならず、動画番組やビデオゲームの楽曲も制作しているだろう」。
現時点では、なんでも検討の対象に
とはいえ、ロドリゲス氏がいま現在、レコードレーベルに関して持っている構想はこんなものだ。はじめからその役割をきっちり決める意向はないという。アーティストと契約するためのテコ入れともなるし、G2ブランドの楽曲を継続的にリリースするためのプラットフォームとなるかもしれない。現時点では、なんでも検討の対象になるとロドリゲス氏は話す。楽曲を増やすことについても同様だ。同氏によると、今後リリースする楽曲数について明確な方針があるわけではないという。しかし、リリースされるとしたら、それはロックやメタルに限らず、ほかのジャンルにも広がる可能性は大きい。
「当初はほんの数千ドル規模の小さなプロジェクトだったが、わずか数カ月のうちに規模が拡大した」とロドリゲス氏は明かす。「別のチームからジャージが発売されたときに、ファンはこう振り返るだろう。『あのころG2はジャージの発売に100万ドルをかけていた』」。
[原文:‘Music is definitely connected’: How a record label fits into a wider media ambitions for G2 Esports]
SEB JOSEPH(翻訳:英じゅんこ、編集:小玉明依)