男性のためのスキンケア製品は、トナーからアイクリームまで多種多様になった。これには、男性ユーザーがルーティンを取り入れて習慣化するよう、スタートアップ企業が競い合ってきた背景がある。
男性のためのスキンケア製品は、トナーからアイクリームまで多種多様になった。これには、男性ユーザーがルーティンを取り入れて習慣化するよう、スタートアップ企業が競い合ってきた背景がある。
シェービング関連ブランドから男性用グルーミングブランドへと拡大したユニコーン企業ハリーズ(Harry’s)は、7月初旬、トナー、アイクリーム、ナイトローション、ブレミッシュ(ニキビ)トリートメントを製品ラインナップに加え、洗顔料とローションのベーシックな商品展開から製品の領域を拡大した。いまやスタートアップやコングロマリット(複合企業)などさまざまな企業が、いくつものステップを踏む男性用スキンケアルーティンの普及促進に励む。ユーロモニター(Euromonitor)によると、米国の男性用スキンケア市場(シェービング製品を除く)は2020年には4028億ドル(約43.9兆円)で、2019年から2.2%増加している。
「ほとんどの男性は、洗顔すらしない」とハリーズのゼネラルマネージャー、ジェイミー・クレスポ氏は語る。だが、スキンケアに取り組む男性の数は「急速に、そしてアグレッシブに成長している」といい、その理由として「市場にどのような製品があるか、自分たちが何を必要としているかを、彼らが理解するようになった」ことを挙げる。さらに、「3年前の市場と比べて、進化があった」とも。グローバル・データ(Global Data)の調査結果によると、2019年には米国の男性の46%が、ビューティー&グルーミングに使用する製品の数を増やしたいと考えていたという。2021年には米国の男性のうち、39%がスキンケアへの支出は「高い」、24%が「中程度」、20%が「低い」と回答している。
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シェービング領域を超える
ハリーズは現在、中核となるシェービング関連事業で北米と英国に2000万人の顧客を抱えており、パーソナルケア領域やサブブランドの拡大を通じた成長を追求中だ。これらの新しい領域が、成長の原動力となっている。ハリーズのボディソープの売り上げは過去4週間で、D2Cでは前年比47%増、リテールパートナー経由では30%増を記録した。2020年の収益は前年比24%増であったと、クレスポ氏は語る。また、洗練されたスキンケアルーティンを求めるユーザーに向けた製品開発にフォーカスし、ヘイデイ(Heyday)と提携してフェイスマスクを2019年に発売している。
シェービング関連製品のマーケティングでは、男性たちが既に使用している製品ブランドからの切り替えを促す戦略をとるが、スキンケア製品の戦略は新しいカテゴリーを提案することが目的だ。そのためには「消費者を啓発し、この製品がいかに役立つか、肌がいかに健康的になるか、そしてそれがどれほど気分が良いものかを認識してもらうこと」が必要だとクレスポ氏は語る。ハリーズはD2Cの既存顧客基盤に向けてニュースレターやソーシャルメディアを通じて訴求するほか、新発売の独占小売パートナーであるターゲット(Target)の店頭ディスプレイで製品の詳細な説明を掲示する。
男性もスキンケア製品のターゲット
シェービング製品から始めた事業を拡大することでユニコーン企業としての地位を築いたハリーズだが、ほかにもセイロン(Ceylon)、ヒューロン(Huron)、ディスコ(Disco)、ジャクソン・レーン(Jaxon Lane)、ジオロジー(Geologie)、ソフト(Soft)といった男性用スタートアップブランドは、スタート時からスキンケアに重点を置いて過去3年の間に立ち上がった。これらのブランドでは基礎的な洗顔料や保湿剤以外にも、トナー、アイセラム(目元用美容液)、フェイスマスク(例えばジャクソン・レーンの「Broマスク」)といった製品を展開している。男性が利用できるスキンケア製品は、ほかにもフェンティ・スキン(Fenty Skin)、ヒューマンレース(Humanrace)、ノン・ジェンダー・スペシフィック(Non Gender Specific)、グッド・ライト(Good Light)といったジェンダー・ニュートラルなスキンケアブランド、あるいはジ・オーディナリー(The Ordinary)やジ・インキーリスト(The Inkey List)からも提供されている。
「性別に基づくポジショニングは(美容業界において)依然としてもっとも普及しており、男性をターゲットにする安全な方法を提供してくれる」とグローバルデータ(Global Data)のシニア・イノベーション・リサーチャー、ニナ・ノウァク氏は語る。「だが性別に関連させた製品のポジショニングについてはソーシャル・ノーム(社会規範)が変わってきており、その影響も既に表れ始めている」
まずはハードルを上げないこと
CBインサイツ(CB Insights)によると、今年に入ってから男性用グルーミングのスタートアップ企業に出資された1億8300万ドル(約199億円)のうち、大部分はハリーズが獲得している。今年3月には、資金調達ラウンドで1億5500万ドル(約168億円)を確保した。昨年はエッジウェル(Edgewell)による14億ドル(約1525億円)の買収ディールを、米連邦取引委員会が阻止している。
CBインサイツでインテリジェンス・アナリストを務めるケニア・ワトソン氏は次のように述べる。「ハリーズ以外にも、今年資金提供を受けた企業のうち7社が、男性向けスキンケアを少なくとも一種類提供している。男性のグルーミングがシェービングの領域を超え、セラム、マスク、フェイススクラブなどに広がっていったことを示している」。
さらに複雑なスキンケアのルーティンを男性に採り入れてもらうには、おもな戦略を「彼らにとってとても簡単にナビゲートできるもの」に策定する必要があると、クレスポ氏は語る。「なにから始めて、どの製品を使うべきか、男性は確証が持てていない。ハリーズではシンプルで採り入れやすく、明快な手順を打ち出している。製品の名前も、明らかな障壁を作らないようなものにしている」。
[原文:‘Most guys don’t even wash their face’: How Harry’s is leveling up skin care for men]
LIZ FLORA(翻訳:田崎亮子/編集:小玉明依)