物流センターは近年に小売業者から膨大な量の投資を受けてきた分野だが、現在ではコスト削減の標的になりつつある。
スティッチフィックス(Stitch Fix)は、ペンシルバニアのベツレヘムにある物流センターを閉鎖してから数カ月後に、テキサスのダラスにある別の物流センターも閉鎖すると今月初頭に発表した。ビッグロッツ(Big Lots)やAmazonもまた、パンデミックのあいだにサプライチェーンへの投資を加速してからそれほど期間が過ぎていないが、経費を削減するため、いくつかの物流センターを閉鎖すると発表した。
パンデミックの頃に、小売業者がオンラインショッピングの増加に対応するため、より新しく大規模な物流センターに多額の投資を行っていたことを考えれば、これは完全な方針の転換だ。しかしここ数カ月、消費者の支出低迷から、小売業者の優先度は拡大から経費削減へと移ってきた。小売業者は、物流ネットワークを縮小することで数百万ドルを節約できると語る。しかし、その決定は小売業者の配送を遅らせ、予期せずに需要が急増したときに対応が不可能になる恐れもある。続きを読む
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
物流センターは近年に小売業者から膨大な量の投資を受けてきた分野だが、現在ではコスト削減の標的になりつつある。
スティッチフィックス(Stitch Fix)は、ペンシルバニアのベツレヘムにある物流センターを閉鎖してから数カ月後に、テキサスのダラスにある別の物流センターも閉鎖すると今月初頭に発表した。ビッグロッツ(Big Lots)やAmazonもまた、パンデミックのあいだにサプライチェーンへの投資を加速してからそれほど期間が過ぎていないが、経費を削減するため、いくつかの物流センターを閉鎖すると発表した。
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パンデミックの頃に、小売業者がオンラインショッピングの増加に対応するため、より新しく大規模な物流センターに多額の投資を行っていたことを考えれば、これは完全な方針の転換だ。しかしここ数カ月、消費者の支出低迷から、小売業者の優先度は拡大から経費削減へと移ってきた。小売業者は、物流ネットワークを縮小することで数百万ドルを節約できると語る。しかし、その決定は小売業者の配送を遅らせ、予期せずに需要が急増したときに対応が不可能になる恐れもある。
Amazonも倉庫開設を中止
最近閉鎖されたこれらの倉庫の多くが開設されたのはそれほど前ではない。たとえばアシュレイファーニチャー(Ashley Furniture)は、パンデミックのあいだに開設したオハイオの物流センターを閉鎖した。またゴーパフ(Gopuff)は、パンデミックにより促進された需要から勢いを得て、2021年には600ものマイクロフルフィルメントセンターを運営していたが、2022年の中盤には76のウェアハウスを閉鎖した。
ウェアハウスの拡大の多くは、パンデミックのあいだにオンライン売上の大きな増加を経験した企業により推進されたが、それ以降は、売上の成長は鈍化したか、減少に転じた。Amazonは2020年に、成長を支えるため300に近い新施設を開設した。しかし昨年後半から今年前半にかけて、Amazonは運用の経費を抑制するため、計画された倉庫の開設を中止し続けてきた。
オンラインの家具小売業者のウェイフェア(Wayfair)も、テキサスのヒューストンに1億3300万ドル(約200億円)のフルフィルメントセンターを開設し、400人を雇用する最初の計画を中止した。この倉庫開設の取り消しは、昨年13億ドル(約1950億円)の純損失が生み出され、売上が122億ドル(約1兆8300億円)と11%近くも減少したのを受けたものだ。
配送スピードへの期待値も下がっている
物流センターの閉鎖は容量を減らすだけでなく、配送の速度も遅くなる恐れがある。「小売業者がこれらの物流センターを開設した主な理由は、品物を早く手にしたいという顧客の願望だった。それがずっとスローガンとして使われてきたが、今ではそれが変化してきた」と、ピュブリシスサピエント(Publicis Sapient)の北米小売業界リーダーを務めるスディップ・マズムダー氏は語る。
小売業者は迅速な配送を競合上の優位点とみなしてきたが、迅速な配送のために余分なコストを払うことを望む買い物客は減少している。シップステーション(ShipStation)の最近の調査によれば、オンラインで注文するとき、配送の早さをもっとも重要な要素にしている買い物客は22%しかいない。これは、前年の29%より減少している。
買い物客は配送の遅さに失望するかもしれないが、コストの削減はそれに見合う価値があるかもしれない。ジョージタウン大学(Georgetown University)のマクドノウビジネススクール(McDonough School of Business)で運営およびアナリティクスの教授を務めているリカルド・アーンスト氏は、フルフィルメントセンターには自動化に必要な面積や、施設を動かすため使用される電気など、巨大な固定コストがあると語る。
「フルフィルメントへの期待が大幅に損なわれたら、企業は応策を講じる必要がある。しかし現在のところ、小売業者はブランド価値をもって、消費者のロイヤルティを活用し、フルフィルメントへの期待に変動が生じるリスクを受け入れている」と、同氏は述べている。
将来の成長への足かせになる可能性
たしかにウェアハウスは高価なものだ。スティッチフィックスは、物流施設を5つから3つに削減したことで、年間1000万ドル(約15億円)から1500万ドル(約22億5000万円)の節約になると語る。「この統合されたネットワークにより、特定の位置からより多くの在庫にアクセスできるため、より優れたクライアントエクスペリエンスを提供するとともに、もっと資金に対して効率的で少ない在庫レベルで運営することが可能になる」と、6月の決算発表で、その当時スティッチフィックスの暫定CEOだったカトリーナ・レイク氏は語った。
ビッグロッツの経営幹部は、物流センターの閉鎖やそのほかの取り組みにより、年間のコストを1億ドル(約150億円)削減したと、第1四半期の決算発表で語った。同社はジョージア、ペンシルバニア、ワシントン、インディアナにある4つの物流施設を閉鎖した。
「1億ドルを超える構造的なSG&A(販売および一般管理費)削減を社内で確認し、これは2023年の予測に組み入れられている。これには、コストを削減し過剰の容量を取り除くため、4つの前線物流センターをすべて閉鎖するという決定の影響も含まれている」と、ビッグロッツのCEOを務めるブルース・ソーン氏は5月の決算発表で語った。
しかし、節約を優先することにより、小売業者は需要が復活したとき、特にホリデーシーズンが到来し、売上が予想よりはるかに大きく上昇したときに対応準備が整っていない可能性もあると、アリックスパートナーズ(AlixPartners)で小売プラクティスのパートナーを務めているスティーブ・スケールズ氏は語る。物流センターを減らすことで、ピークのホリデーショッピング期間に注文を充足する柔軟性とオプションが減少すると、同氏は述べている。
「将来の成長への足かせになる。ビジネスに上向きの大きな変化があった場合、対処できない状態で、対応までに長い時間を要する可能性もある」と、同氏は述べている。
[原文:More retailers are paring back on distribution centers as part of their cost-cutting initiatives]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Illustaration by Ivy Liu