かつてパブリッシャーはアドテクベンダーとの関係性に多くの時間を費やしていた。これは今でも基本的に変わらないが、酒造メーカーのディアジオをはじめ、広告主の間では過度の依存関係と必要以上のコストに対し、不満が高まっている。すでに同社は現状取引のあるアドテクベンダー特にSSPの絞り込みを始めたという。
かつてパブリッシャーはアドテクベンダーとの関係性に多くの時間を費やしていた。これは今でも基本的に変わらない。だが、酒造メーカーのディアジオ(Diageo)をはじめ、広告主のあいだではベンダーとの過度の依存関係と、そこから生じる必要以上のコストに対し、不満が高まっている。
メディアエージェンシーのゼニス(Zenith)によると、米国でのオンライン広告支出の69%がプログラマティック取引に当てられている。それゆえ、メディア各社にとってアドテクベンダーは非常に重要な存在だと言える。問題は、広告主もパブリッシャーほどではないにしても、広告の販売方法について把握し、目を光らせるべきかという点だ。
2016年に初めてプログラマティックメディア責任者を据えたディアジオにとって、その答えは明らかに「イエス」だ。内情を知る関係者によると、同社は現状取引のあるアドテクベンダーの絞り込みを始めたという。とりわけ対象となっているのが、パブリッシャーに代わりインプレッションを担当するサプライサイドプラットフォーム(SSP)だ。
Advertisement
信頼できるベンダーを見極める
「ディアジオはプログラマティックメディアの購入ルートの最適化を進めている。これは数週間で終わるプロセスではない。少なくとも数カ月はかかるだろう」と、関係者は語る。「このプロセスのポイントは、プログラマティック広告の予算は増やしたうえで、より厳選したSSPに投資することだ」。
この取り組みには大きくわけて3つのメリットがある。まず、ディアジオにとって広告予算と引き換えに、アドテクベンダーによるオークションについてより高度な透明性を要求できるようになる。次に、入札額のうちパブリッシャーに届く額についてより詳細な情報を要求できる。そして最後に、ベンダーから請求される手数料の抑制だ。これにより、以前より多くの額がパブリッシャーに届くようになり、他の広告主よりもオークションにおける優位性を確保できる。
だが、アドテクベンダーを限定する以上、ディアジオのマーケターには信頼できるベンダーを見極める力が求められることも事実だ。上述の関係者によると、ディアジオのマーケターはこの夏から、アドテクベンダーによるプログラマティック広告のオークションの実施方法を把握・確認するため、ベンダー各社との話し合いを開始したという。
ディアジオのマーケターは少なくとも10社のSSPに対し、広告案件ごとのインベントリーの内訳を要求したと伝えられている。この「話し合い」は、つまるところ、各SSPに対しアドテクベンダーとしての存在意義を示せというものだ。これにより、ディアジオはロードマップの改善や一部手数料の割引といった形で、SSPから何らかの好条件を引き出すことも考えられる。
価値を判断し、不要なものを排除する
ディアジオはメディアバイイングにおいてもっとも優位な業者と最適なルートを探し出し、適正なインプレッション単価を把握しようとしている。オークションの内部事情に通じていなければ、ディアジオのメディアバイヤーが同じインプレッションを複数回入札してしまう確率も高まる。
Webサイト上の広告枠購入チャンスを1回に限定しないヘッダー入札において、広告主はアドテクベンダーを通じて異なるSSPやアドエクスチェンジから約20回ほどの「チャンス」を目にする。一方でベンダーは互いにインプレッションを売買しているため、サプライチェーン全体が複雑になり、非効率な入札が行われているのが事実だ。実際、今やさまざまなベンダーが同じ広告を販売、再販売するようになっている。
ディアジオは、メディアへの透明性を高めるため複数の計画を進めているとしつつも、各計画の具体的な情報については明かしていない。同社の広報担当は、「当社のメディア戦略においては、各技術分野の専門家を結集することが中核となる。当社はブランドを成長させるメディア投資について、品質、効率、効果を常に最大化させるべく、グローバルなメディア運用について定期的に見直しをおこなっている」と語る。
コストカットが重視される現在の状況下において、マーケターは価値がいかに提供されるかについて分析し、不要なものを排除することの意義はとりわけ大きい。ディアジオによるアドテクの統合は、メディアに投じる広告支出の収益性を維持するための施策として注目に値すると言えるだろう。
広告主が積極的に取り組む時代
アドテクベンダーのアデルフィック(Adelphic)でプログラマティック戦略担当バイスプレジデントを務めるアレックス・ペリン氏は「サプライパス最適化(SPO)の主目的は、広告主に対して多様化している入札状況について透明性を提供することで、不要な供給元をはじめ、広告主やエージェンシーにとって価値が低いにもかかわらずコストをかさ増しするような者の存在を明らかにすることにある」と語る。「さらには広告主がより低コストでありながら、インプレッションの規模やパフォーマンス面で結果を出せる仕組みか否かを見極めるため、実験やテストをおこなうことは可能だ」。
こういったプロセスは、企業ごとに時間をかけてテストや学習を実施する必要であり、最初から万能なソリューションは存在しない。SSPとの交渉に臨む広告主が少ないのもそのためだ。そのため、これまではエージェンシーやデマンドサイドプラットフォーム(DSP)がSSPを絞り込んで、メディア予算を統合するケースがこれまでは多かった。
ただし、広告主側がサプライチェーンの検証と精査に十分な設備や人員を割いてこなかったのも事実だ。そして、実施する際もキャンペーンへの影響を確認するためにエクスチェンジ全体を停止したり、再開したりといった手間をかけていた。だが最近になってads.txtやsellers.jsonといったツールが登場し、こういった取り組みがやりやすくなったのは、広告主にとって歓迎すべき状況だ。
ネスレ(Nestle)も昨年11月から、サプライチェーンに存在するアドテクの中間業者を排除する取り組みを開始した。既にSSPを65社から10社に減らしており、ここからさらに減らしていく予定だ。またBTグループ(BT Group)のメディア部長を務めるグレイム・アダムズ氏も、同様の取り組みの実施を示唆している。
[原文:‘More into less’ Diageo to consolidate ad tech spending]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)