「サティスファイング動画」は、ある特定の作業の繰り返しや、完全にパターン化された動作や機械作業を、ゆったりとした音楽に合わせて流すビデオクリップのこと。SNS調査企業、ブランドウォッチによると、インスタグラム上では#satisfyingvideosのハッシュタグがついた投稿が約28万件以上存在するという。
「サティスファイング動画」が流行の兆しを見せている。
「サティスファイング動画」とは、ある特定の作業の繰り返しや、完全にパターン化された動作や機械作業を、ゆったりとした音楽に合わせて流す、ビデオクリップのことだ。
ソーシャルメディア分析会社のブランドウォッチ(Brandwatch)によると、インスタグラム上では#satisfyingvideosのハッシュタグがついた投稿が、28万件以上も存在する。そうこうしている、わずか2分のあいだにも、13件ずつ投稿が増えているという。
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ネット上で謎の人気を呼ぶ
米掲示板サイトReddit(レディット)には、「mildlysatisfying(まあまあ満足)」「oddlysatisfying(不思議と満足)」というカテゴリが設けられ、ユーザー同士がおすすめの「サティスファイング動画」について語り合っている。また、Twitterではモデルのクリスシー・テイゲンなどの有名人も、こういった動画に言及していた。
my heart is racing and yet i feel and overwhelming sense of peace and calm !??!?!?!?!?!?!!? https://t.co/26FAOSV5z7
— christine teigen (@chrissyteigen) 2017年4月10日
胸はドキドキするのに、心は穏やかなの!??!?!?!?!?!?!!? twitter.com/ocdvids/status…
ビュー数の多いパブリッシャーも、いち早くこのトレンドを紹介している。たとえばBuzzFeedは、インスタグラムやYouTubeの「サティスファイング動画」をまとめた記事や特集を頻繁に掲載。「不思議と心が落ち着くサティスファイング動画11選」「心を満たすには、物が溶けていく動画を1日中見ているのが一番」などだ。
なぜこういった動画が人気なのか、その理由は不明である。だが、いまは心を無にする「禅」が必要とされる時代であり、人々がそれを得る場所を求めているからかもしれない。
ブランドもそそくさと参戦
自然と、ブランドもそこに参入しようとする。最近では、エージェンシーのアーノルド・ワールドワイド(Arnold Worldwide)がテレコム会社センチュリーリンク(CenturyLink)の新サービス「プリズムテレビ(Prism TV)」のプロモーション動画として「カラー理論」という塗り絵動画シリーズを制作した。このスローモーション動画では、画家とインスタグラムのインフルエンサー、アネット・ラベスキー氏がペインティングナイフを使って、青やピンク、オレンジやグリーンといった色を混ぜ合わせていく様子が描かれている。
「絵具の色を混ぜ合わせる動画がインスタグラムで流行っているのは、知っている。普段ニュースフィードで目にする動画などに、あのようなゆったり感はない」と話すのは、広告エージェンシーのアーノルド(Arnold)でソーシャルコンテンツシステム担当マネージャーを務める、ジュリエット・ティアニー氏だ。「このような動画は、忙しい毎日のなかでホッとひと息ついて瞑想できる場なのだ。視聴完了率も非常に高い」。
不思議な魅力で閲覧者を魅了
一方、クリエイディブエージェンシーのコルネット(Cornett)でチーフクリエイティブオフィサーを務めるデビッドクーマー氏は、広告主が広告作品を作る際、常に「サティスファクション」の要素を取り入れてきたと考える。消費者と直感的にコミュニケーションをとり、また感情レベルでつながるためだ。
また、テレビCMから屋外広告まで、幅広く展開されたコカ・コーラの「Taste The Feeling(テイスト・ザ・フィーリング)」キャンペーンは、神経科学をもっとも効果的にマーケティングに活用した例のひとつだろう。同氏は、「写真から幸福感が溢れ、コーラのおいしさが伝わってくる。太陽の光までがブランドを象徴する赤を表現し、暖かさと遊び心を感じさせる」と、語った。
インタラクティブエージェンシーのR/GAでマネージングディレクターを務めるチェーピン・クラーク氏が、サティスファイング動画のなかでももっとも記憶に残る広告として挙げるのが、シーガルブックス(Seagull Books)という小さな出版社が出した一連のバナー広告だ。昨夏、ニューヨーク・タイムズに掲載されていたという広告の内容は、カモメが浜辺で羽を動かしたり、羽を風になびかせながら遠くを見つめる、といったシンプルなものであったという。特定の本のタイトルに関する広告コピーや説明は一切なかった。
「不思議と催眠効果があり、妙に面白い」とクラーク氏は語る。「カモメたちの姿と広告主の名前はいまでも忘れられない」。
いまだから、視聴者の感情に響く
「サティスファイング動画」は、「ASMR(autonomous sensory meridian response:自律的感覚絶頂反応)コンテンツ」によく似ている。ASMRはささやき声や紙がこすれるような優しい音によって心を穏やかにし、幸福感を高めていくものだ。KFCやダブ(Dove)チョコレートなどのブランドが、消費者の心を掴むため、ASMRで広告を制作した。
クラーク氏は、「サティスファイング動画」が視聴者の感情に響くと考えている。誰もが物事について議論したり、世界の出来事ついて多くの情報を得、またそれに対して意見をもつべき、という日常に疲れている。ほとんどの場合、すべてのことに選択肢をもつ必要はない。インターネットは論争が起こりやすく、恐怖や怒りが発生しやすい。アメリカの現在の政治情勢から、過去にないほど、その傾向が強くなっていると、クラーク氏は見る。
「SNSのフィード上にも、ときにはひと息つける場が必要とされている」と、同氏は語った。「これらの動画は自己完結していて、主張も反論もない。ただ、ありのままなのだ」。
Yuyu Chen(原文 / 訳:Conyac)
Image from 米DIGIDAY