D2Cモデルは進化し続け、D2Cのプレゼンスを持つ企業は現在、マーケティングコストの高騰、新しいデジタルプラットフォームへの習熟、卸売流通の複雑さを乗り越えることなど、各種の課題に直面している。
10月16日から18日にかけて、フロリダ州ネープルズで開催された米モダンリテールのD2Cサミット(DTC Summit)には、多くのeコマースエグゼクティブや専門家が集結した。もっとも大きな話題として、マーケティングのコスト削減と、特に大手小売店との小売パートナーシップの扱い方が挙げられた。また、収益性のある成長が必要だということを認識している小売の新興企業が増えてきた。これは特に、資金を見つけるのが難しい現状では重要なことだ。
イベントで得られた主な見識を以下に示す。
- 01 コンテンツ中心のブランドの構築
- 02 投資対効果の高いマーケティングのプレイブックの作成
- 03 リピート顧客による持続性のあるビジネスの構築
- 04 サミットで耳にした話題
- 05 知っておくべき統計
01
コンテンツ中心のブランドの構築
若いブランドが、よりオーガニックな顧客獲得を進めることで、マーケティング経費の最適化を試みていることは、もう周知の事実になった。
生理ケアブランドのオーガスト(August)の共同創業者ナディア・オカモト氏は、ときにはユーザー作成コンテンツがブランドの認知を広めるもっとも安価で迅速な方法になると語る。2021年6月に会社を創業したときはTikTokをまったく使用していなかったと、同氏は述べている。個人用アカウントを作成し、それが次第に成長して口コミを広めていき、やがては「TikTokのタンポンブランド」と呼ばれるようになった。この時点でオーガストは200万ドル(約3億円)の資金を調達しており、早い段階で話題にならないといけないというプレッシャーがあった。TikTokはインスタグラムほど洗練されていないため、TikTokを使うことで、生理について率直に語ることによりZ世代にリーチすることができたと、オカモト氏は述べる。現在同氏はTikTokに400万人、インスタグラムに22万4000人のフォローを抱えており、オーガストのソーシャルアカウントは各ソーシャルメディアを合わせて約50万人のフォロワーを保有している。
「創業してから半年で、CAC(顧客獲得のコスト)を5ドル(約750円)以下にすることができた」と、オカモト氏は語る。これは、数百のTikTok投稿を試し、見込み顧客よりもリターゲティングに専念した結果だ。「1日に何回もバイラル化する方法を見つける必要があった。そのため、私は6カ月にわたって毎日80〜100本の動画を自ら投稿した」。TikTokで今バイラル化するのは、2年前ほど容易ではないが、Z世代のオーディエンスは、生理のようなタブー視されるトピックについての即席のコンテンツを受け入れる傾向にあると、同氏は述べている。「今でも、どのようなコンテンツが受け入れられ、どのようなものが受け入れられないかを見極めるため、コンテンツの投稿を続けている」。
同様に、RTD(レディ・トゥ・ドリンク)スピリッツブランドのスプリッツソサエティー(Spritz Society)もまた、最新のフレイバーコラボレーションの話題づくりのために、コンテンツ作成を特に重視している。インフルエンサー主導の企業なので、共同創業者兼CEOのベン・ソファー氏は、顧客獲得の取り組みの多くは自分自身のソーシャルメディアのフォロワーや、ほかのインフルエンサーのオーディエンスに接触することを中心としていると述べる。最近では、女性向けライフスタイルメディアのザ・スキニー・コンフィデンシャル(The Skinny Confidential)とのコラボレーションでピンク色のレモネードスピリッツを出した。合計で数百万人のフォロワーがいるため、この方法によって商品を売り切り、小売業者の注目を集めることができたと、同氏は述べている。「eコマースでの成功を見て、小売業者は新しいフレイバーを楽しみにしてくれるようになった」という。続きを読む
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
D2Cモデルは進化し続け、D2Cのプレゼンスを持つ企業は現在、マーケティングコストの高騰、新しいデジタルプラットフォームへの習熟、卸売流通の複雑さを乗り越えることなど、各種の課題に直面している。
10月16日から18日にかけて、フロリダ州ネープルズで開催された米モダンリテールのD2Cサミット(DTC Summit)には、多くのeコマースエグゼクティブや専門家が集結した。もっとも大きな話題として、マーケティングのコスト削減と、特に大手小売店との小売パートナーシップの扱い方が挙げられた。また、収益性のある成長が必要だということを認識している小売の新興企業が増えてきた。これは特に、資金を見つけるのが難しい現状では重要なことだ。
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イベントで得られた主な見識を以下に示す。
- 01 コンテンツ中心のブランドの構築
- 02 投資対効果の高いマーケティングのプレイブック作成
- 03 リピート顧客による持続性のあるビジネスの構築
- 04 サミットで耳にした話題
- 05 知っておくべき統計
01
コンテンツ中心のブランドの構築
若いブランドが、よりオーガニックな顧客獲得を進めることで、マーケティング経費の最適化を試みていることは、もう周知の事実になった。
生理ケアブランドのオーガスト(August)の共同創業者ナディア・オカモト氏は、ときにはユーザー作成コンテンツがブランドの認知を広めるもっとも安価で迅速な方法になると語る。2021年6月に会社を創業したときはTikTokをまったく使用していなかったと、同氏は述べている。個人用アカウントを作成し、それが次第に成長して口コミを広めていき、やがては「TikTokのタンポンブランド」と呼ばれるようになった。この時点でオーガストは200万ドル(約3億円)の資金を調達しており、早い段階で話題にならないといけないというプレッシャーがあった。TikTokはインスタグラムほど洗練されていないため、TikTokを使うことで、生理について率直に語ることによりZ世代にリーチすることができたと、オカモト氏は述べる。現在同氏はTikTokに400万人、インスタグラムに22万4000人のフォローを抱えており、オーガストのソーシャルアカウントは各ソーシャルメディアを合わせて約50万人のフォロワーを保有している。
「創業してから半年で、CAC(顧客獲得のコスト)を5ドル(約750円)以下にすることができた」と、オカモト氏は語る。これは、数百のTikTok投稿を試し、見込み顧客よりもリターゲティングに専念した結果だ。「1日に何回もバイラル化する方法を見つける必要があった。そのため、私は6カ月にわたって毎日80〜100本の動画を自ら投稿した」。TikTokで今バイラル化するのは、2年前ほど容易ではないが、Z世代のオーディエンスは、生理のようなタブー視されるトピックについての即席のコンテンツを受け入れる傾向にあると、同氏は述べている。「今でも、どのようなコンテンツが受け入れられ、どのようなものが受け入れられないかを見極めるため、コンテンツの投稿を続けている」。
同様に、RTD(レディ・トゥ・ドリンク)スピリッツブランドのスプリッツソサエティー(Spritz Society)もまた、最新のフレイバーコラボレーションの話題づくりのために、コンテンツ作成を特に重視している。インフルエンサー主導の企業なので、共同創業者兼CEOのベン・ソファー氏は、顧客獲得の取り組みの多くは自分自身のソーシャルメディアのフォロワーや、ほかのインフルエンサーのオーディエンスに接触することを中心としていると述べる。最近では、女性向けライフスタイルメディアのザ・スキニー・コンフィデンシャル(The Skinny Confidential)とのコラボレーションでピンク色のレモネードスピリッツを出した。合計で数百万人のフォロワーがいるため、この方法によって商品を売り切り、小売業者の注目を集めることができたと、同氏は述べている。「eコマースでの成功を見て、小売業者は新しいフレイバーを楽しみにしてくれるようになった」という。
02
投資対効果の高いマーケティングのプレイブック作成
多くの立ち上げ間もない企業にとって、有料キャンペーンのテストに数千ドルを費やすのは、もはや現実的とはいえない。そのため、マーケターは収益性のある方法でマーケティングを行うことを考えている。たとえば、小規模から中規模のインフルエンサーと協力する、またはマーケティングチームのメンバーに対して、収益性を頭に留めておくよう教えるなどだ。例として、肉の配送サービスのブッチャーボックス(ButcherBox)は、創業当初からアフィリエイトマーケティングプログラムを構築してきた。これは、2015年の創業以来、収益性を維持する助けになってきた。CMOを務めるキラン・スミス氏は、クリエイターとの関係の多くを維持してきたと語る。また、自社ブランドの肉の宅配サービスと、それを料理に取り入れる方法を誠実に宣伝してくれるようなインフルエンサーと協力することで、マーケティングの成功をめざし続けている。
社内での心構えとして、トゥルークラシックス(True Classics)のマーケティングディレクターを務めるペイジ・デッカー氏は、収益性の目標を日常業務に落とし込むのが、健全なマーケティングのプレイブックを作り上げる鍵だと語る。2019年に創設された若い衣類ブランドにとって、これは、収益と利益率を理解し、費用対効果の高いキャンペーンを作り上げられるよう、マーケティング部門の従業員をトレーニングすることを意味する。
03
リピート顧客による持続性のあるビジネスの構築
D2Cの黄金時代に創設されたブランドの場合、その重点は長期的な持続性に移ってきた。顧客の注目を集める競争がますます激化するにつれ、ブランドの熱心なファンを作るのはより困難になってきた。これは、ファッションやアパレルにおいては特に重要だ。このような分野では、ブランドはほかのデジタルネイティブのブランドだけでなく、従来型小売業者のリソースや店舗とも競合を余儀なくされる。
しかし、経験を積んだD2Cブランドの経営幹部の中には、ブランドを成長させる方法は有料マーケティングだけではないと論じる。たとえば、アクセサリーブランドのダグネドーバー(Dagne Dover)の場合、顧客を維持するための方法は、顧客がリピート購入するような機能製品をデザインすることだ。
ダグネドーバーの共同創業者でCEOを務めるメリッサ・マッシュ氏は、「顧客が我々の商品を購入するのは、顧客の日常的な問題を解決できるからだ」と語る。たとえば、ストラップの適切な長さなど、デザイン上の単純な決定は、一見当然なようでも、リピーターの心に響くのだと同氏は説明する。
顧客のニーズに耳を傾けるのは、熱心な顧客ベースを育てるための、もうひとつの重要な方針だ。ハイテクメンズウェアのミニストリー・オブ・サプライ(Ministry of Supply)の共同創業者兼CEOアマン・アドバニ氏は、創業者が顧客と直接対話することで、顧客が何を望んでいるのかを学んだと述べている。
これは、パンデミックの最中、アドバニ氏が毎日5人の顧客に電話し、ブランドのデザインについてどう思うかを質問したことからはじまったものだ。「たとえば、この方法で、顧客が本当に望んでいるのは33インチのウエストだと知ることができた」と、同氏は述べている。アドバニ氏と、ミニストリー・オブ・サプライの共同創業者であるギハン・アマラシリバルデナ氏は今日まで、この方法で顧客から直接フィードバックを受け続けている。
04
サミットで耳にした話題
実店舗小売と卸売の苦悩
「毎日新しい小売パートナーが倒産するのを見ていると、この分野を監視するだけでフルタイムの仕事になりそうだ」
「卸売で最初から利益を上げるのが想像できない。ディストリビューターとプロモーションを考慮すれば不可能と思える」
「支払を受けるには戦い続けなければだめだ。私など、今は2021年のインボイスを請求している」
「短期間のポップアップ店舗ではおそらくお金にならない」
「不動産市場はもう少し待てば、もっとよい利率を得られる機会があるだろう」
インフルエンサーとコンテンツ作成の方程式を求めて
「優れたインフルエンサーと仕事をしているが、インフルエンサーに紹介リンクを使ってもらえない」
「多くのインフルエンサーと協力しているが、アフィリエイトをやっていない。プログラムはあったが、非常に使いにくかった」
「インフルエンサーを代表する代理人と協力し、インフルエンサーが自社ブランドに合っていることを確認するべきだ。特にラグジュアリーでは非常に重要なことだ」
「大規模にコンテンツを作成することについて聞きたい。広告でなくても、顧客と合致しているのは何なのかをたくさんテストする必要があるからだ」
適切なマーケティングのバランスを見つける
「上部ファネルを優先したいと思っているのだが、苦労している。認知は必ずしも定量化が可能ではなく、いつでも測定して収支決算に記載できるようなものではない。我々は常にリソースをやりくりしており、下部ファネルに偏る傾向がある」
「テレビは資産というより重荷になってきた。テレビの予算はすべてダイレクトメールに切り替えた」
「PRの観点からはテレビを勧める。少なくとも当社が十分に浸透していない中米においては、消費者を刺激して行動を促す効果がある」
「現在収益性に全力を投入しており、メタ(Meta)は今のところ、当社にとって収益性のあるチャネルではない」
注目を集めるTikTok
「TikTokの広告は、ほかのソーシャルネットワークと同じ方法ではトラッキングできない」
「TikTokの広告からは目覚ましい結果が得られていない。インフルエンサーについてはなおさらだ」
「TikTok Shopでクリエイターを見つけて協力するには多くの時間と労力が必要だ。Shopify(ショッピファイ)と統合されていないため、運営は非常に面倒だ」
05
知っておくべき統計
60%
ダグネドーバーが2013年に創設されて以来の前年比成長率。同社は卸売のプレゼンスを最小に抑え、イクイノックス(Equinox)やノードストローム(Nordstrom)のような戦略パートナー経由で販売を行ってきた。
67%
ザ・スキニー・コンフィデンシャルがドロップを行ったとき、スプリッツソサエティーの商品をはじめて購入した顧客の割合。
50
ミニストリー・オブ・サプライが1対1でフィードバックを受け取るために毎日連絡する主要顧客の数。
[原文:Modern Retail DTC Summit Recap: Brands focus on profitable growth]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)