広告業界のニューノーマルは、観測筋が当初に思っていたよりは、オールドノーマルに近いようだ。
最初のころのパニックとは裏腹に、いまのところ広告不況は起きていない。むしろ、広告費は、まるで過去3年間の大混乱などなかったかのように、2010年代の一桁半ばの水準に戻りつつあるような感さえある。
成長率は4~5%の範囲で安定予測
ニュースレター「マディソン・アンド・ウォール(Madison and Wall)」の執筆者であるメディアアナリストのブライアン・ウィーザー氏によれば、米国内における今年の広告費は3600億ドル(約52兆7700億円)に到達し、前年から5%の増加となることが見込まれているという。同氏の調査は徹底している。約80の企業を分析して、その公的文書を確認するだけでなく、米国政府のデータの海にも飛び込んで、この数字を出している。
市場は、その比較対象が過酷そのものだった各四半期を一周した。こうしたことを踏まえて同氏は、今後の状況はポストコロナのノーマルに落ち着くのではと予測している。さらに細かく分析すると、今年の第3四半期に6%、第4四半期に8%の成長を記録したのちは(昨年の第3、第4四半期の成長率は、それぞれ3.5%、0.1%というパッとしない数字だった)、政治広告の影響を除外すると、成長率は4~5%の範囲で安定すると、ウィーザー氏は予測している。
この回復効果のかなりの部分は、この1年間に相当量の投機的資金が市場から出ていったという事実に起因すると考えることができる。特に顕著なのが、暗号通貨やD2C(direct-to-consumer)モデルなどのセクターで、これらはこの異常ともいえる時期にその全盛期を迎えていた。
その一方で、消費財(CPG)メーカーなどの広告主の支出も増加している。こうした企業は、物価上昇の重荷を消費者に背負わせるという戦略的決断を下し、追加収入を再投資して、さらなる個人消費を刺激した。すべてをつなぎ合わせると、明らかなのは、確実に変わったものがある一方で、驚くほど変わらないままのものもあるという事実だ。
広告とはゴムバンドのようなもの
「多額のあぶく銭が蒸発したのち、広告市場は前年比で見ると弱気に傾いていたが、このことは驚くに値しない」と、ウィーザー氏は語る。「もしコロナ禍がなかったら、そこにいたであろう地点のはるか上に、我々はいる。それは新たな資金が大量に流れ込んできたからであり、インフレも追い風になっている」。
ウィーザー氏の分析がそうであるように、簡単にいえば、広告とはゴムバンドのようなものと考えるといい。さまざまな方向に引っぱられれば引っぱられるほど(パンデミックや戦争、高金利への対処がそうだ)、それだけ元の位置に跳ね戻ろうとするのだ。
広告費の見通しに関するここ最近のアップデートが、この見方の正しさを裏付けているといっていいだろう。
メタ(Meta)が第3四半期の広告売上の成長率を10%台後半と予測する一方、今年のデジタル広告費の成長率は1桁台後半かそれ以上を記録することが見込まれている。この見通しは、グループエム(GroupM)とマグナ(Magna)がそれぞれ6月に出した、約8%という予測を若干上回っている。広告業界がスピードアップしていないのは明らかだが、かといってスピードダウンもしていない。見通しを修正すると、こうなるだろう。インフレの後押しはあるものの、支出はほぼコロナ禍前の水準で行われている。
市場は古き良き時代に完全に戻ると、断言することはできない。いまもそこにはいくつもの課題が転がっている。ストリーミングサービスは収益性を見いだそうと必死になっており、広告によって支えられるジャーナリズムの苦闘はいまなお続いている。しかし、すべてとは言わないが、こうした変化の大半は、観測筋の多くが当初に予測していた猛烈な勢いでは起きていない。この点を認めることが重要だろう。
広告業界のニューノーマルは、観測筋が当初に思っていたよりは、オールドノーマルに近いようだ。
最初のころのパニックとは裏腹に、いまのところ広告不況は起きていない。むしろ、広告費は、まるで過去3年間の大混乱などなかったかのように、2010年代の一桁半ばの水準に戻りつつあるような感さえある。
成長率は4~5%の範囲で安定予測
ニュースレター「マディソン・アンド・ウォール(Madison and Wall)」の執筆者であるメディアアナリストのブライアン・ウィーザー氏によれば、米国内における今年の広告費は3600億ドル(約52兆7700億円)に到達し、前年から5%の増加となることが見込まれているという。同氏の調査は徹底している。約80の企業を分析して、その公的文書を確認するだけでなく、米国政府のデータの海にも飛び込んで、この数字を出している。
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市場は、その比較対象が過酷そのものだった各四半期を一周した。こうしたことを踏まえて同氏は、今後の状況はポストコロナのノーマルに落ち着くのではと予測している。さらに細かく分析すると、今年の第3四半期に6%、第4四半期に8%の成長を記録したのちは(昨年の第3、第4四半期の成長率は、それぞれ3.5%、0.1%というパッとしない数字だった)、政治広告の影響を除外すると、成長率は4~5%の範囲で安定すると、ウィーザー氏は予測している。
この回復効果のかなりの部分は、この1年間に相当量の投機的資金が市場から出ていったという事実に起因すると考えることができる。特に顕著なのが、暗号通貨やD2C(direct-to-consumer)モデルなどのセクターで、これらはこの異常ともいえる時期にその全盛期を迎えていた。
その一方で、消費財(CPG)メーカーなどの広告主の支出も増加している。こうした企業は、物価上昇の重荷を消費者に背負わせるという戦略的決断を下し、追加収入を再投資して、さらなる個人消費を刺激した。すべてをつなぎ合わせると、明らかなのは、確実に変わったものがある一方で、驚くほど変わらないままのものもあるという事実だ。
広告とはゴムバンドのようなもの
「多額のあぶく銭が蒸発したのち、広告市場は前年比で見ると弱気に傾いていたが、このことは驚くに値しない」と、ウィーザー氏は語る。「もしコロナ禍がなかったら、そこにいたであろう地点のはるか上に、我々はいる。それは新たな資金が大量に流れ込んできたからであり、インフレも追い風になっている」。
ウィーザー氏の分析がそうであるように、簡単にいえば、広告とはゴムバンドのようなものと考えるといい。さまざまな方向に引っぱられれば引っぱられるほど(パンデミックや戦争、高金利への対処がそうだ)、それだけ元の位置に跳ね戻ろうとするのだ。
広告費の見通しに関するここ最近のアップデートが、この見方の正しさを裏付けているといっていいだろう。
メタ(Meta)が第3四半期の広告売上の成長率を10%台後半と予測する一方、今年のデジタル広告費の成長率は1桁台後半かそれ以上を記録することが見込まれている。この見通しは、グループエム(GroupM)とマグナ(Magna)がそれぞれ6月に出した、約8%という予測を若干上回っている。広告業界がスピードアップしていないのは明らかだが、かといってスピードダウンもしていない。見通しを修正すると、こうなるだろう。インフレの後押しはあるものの、支出はほぼコロナ禍前の水準で行われている。
市場は古き良き時代に完全に戻ると、断言することはできない。いまもそこにはいくつもの課題が転がっている。ストリーミングサービスは収益性を見いだそうと必死になっており、広告によって支えられるジャーナリズムの苦闘はいまなお続いている。しかし、すべてとは言わないが、こうした変化の大半は、観測筋の多くが当初に予測していた猛烈な勢いでは起きていない。この点を認めることが重要だろう。
「一桁半ばの成長が戻ってきた。これが現実だ」と、ウィーザー氏は語る。「市場は2000年台半ばの成長率に戻ると、私は予測している。今年の後半はそのお膳立てだ」。
リテールメディアとOOHも伸長の兆し
事実、リテールメディアと屋外広告はどちらも、今後数カ月間でさらに力をつける態勢を整えている。前者の代表格はP&Gだ。
同社の最高財務責任者、アンドレ・シュルテン氏は先日、アナリストにこう語っている。「他のチャネルと同じように、リテールメディアに必要なのは、それが提供し得る相対的なリターンに基づき、マーケティングミックスモデルのなかにそのポジションを築くことだ。我々はいま、リテールパートナーと協力して、このリターンを最大化することに取り組んでいるか? もちろんそうだ。取引データとメディアデータを組み合わせて最適化するデータ共有の機会は数多くあり。そしてこれこそが、リテーラーベースのマーケティング支出が意味をなし得る大きな理由だ」。
米国をはじめ世界の多くの地域では、本物といっていい経済成長が続いている。にもかかわらず、必ずしもすべてのマーケターが危険は過ぎ去ったと確信しているわけではない。そして残念ながら、予算に対する完全なコミットへのこのためらいが、多くのメディアオーナーに対して不確実性を生み出してきた。マーケターみずからが不況を口にする状況が長引けば、それによって企業の成長力もそれだけ阻害される。この点は、各社の直近の収支報告でも、CEOによって繰り返し指摘された。
クロロックス(Clorox)のCEO、リチャード・フェアバンク氏は8月、アナリストに向けてこう語っている。 「我々はこれまで、売上の約10%を広告と販促に投じてきた。場合によっては、それよりも多くを投じてきた。今年の目標は11%で、マクロ経済の観点から消費者が直面するであろう苦境を考えると、これは賢明な投資なのではないだろうか(中略)我々はこれからも苦境に立たされている消費者を支えていきたい。したがって、11%という数字は妥当な数字だと認識している」。
TV広告は厳しい状況に
一方、TVの場合、こうした視点を持ち続けるのはかなり難しいことが明らかになりつつある。TVはいま、ウィーザー氏が指摘するように、存亡の危機としか形容できない苦難の波に飲み込まれている。TV離れが加速し、多額の資金がストリーミングサービスのコンテンツへと流れ込んでいる。多くの場合、その犠牲になっているのは、従来型のTVネットワークだ。ストライキもまた、TV業界の主要ステークホルダーに業界の未来をいままで以上に考えさせるようになっている。
ストライキといえば、それが広告に及ぼす影響はいまだに不確かだ。いまはまだ、広告費の流入をキープできるだけの新たなコンテンツは残っている。しかし、労働組合と制作会社のあいだで起きているこのストライキが長引けば、マーケターも広告費をTVから引き揚げて、もっと採算の取れる分野へと回すことを考えるようになるだろう。そうなれば、TVの損失は、(はじめてのことではないが)YouTubeやTikTokの利益になるだろう。
「もしそうなれば、すでにそうしている広告主のあいだで、この流れはさらに加速するだろう」と、ウィーザー氏は語る。
とりわけそうなのが、TVの必要性を疑問視するマーケターだ。TV広告の多くが空気としてしか見られないことを知りながら、大量に出稿せざるを得なかった時代は過ぎ去った。いまや動画を見るという行為は、かつてのような受動的なものではなくなり、より意図的なものになった。であれば、マーケターが会得すべきは、この体験を活用する方法なのだ。
[原文:‘Mid, single digit growth is back’: ad spending’s new normal looks strikingly familiar]
Seb Joseph(翻訳:ガリレオ、編集:分島翔平)