マイクロソフトの TikTok 買収、「不干渉」が成功のカギ:LinkedInのときと同様に

マイクロソフト(Microsoft)がオラクル(Oracle)に競り勝ち、TikTokの買収に成功した場合、巨大テクノロジー企業であるマイクロソフトは、ソーシャル動画アプリの広告事業をどう扱うべきだろう。これについて、LinkedIn(リンクトイン)と同じように対応すべきだと、エージェンシー幹部たちは助言している。エージェンシーのアイプロスペクト(iProspect)で、イノベーション担当シニアバイスプレジデントを務めるジェレミー・ハル氏は「マイクロソフトはLinkedInを買収したあとほぼ放置し、独立した事業として運営させている」と話す。

その通りだ。マイクロソフトがTikTokを数百億ドル(数兆円)で買収できた場合、その投資を回収するためにできる最善のことは、ほとんど何もしないことかもしれない。少なくとも表面上はだ。ただし、検索エンジンBing(ビング)の広告枠を購入するダイレクトレスポンス広告主に対応してきた経験は、TikTokがパフォーマンス志向のマーケターにとって、試験的にではなく本気で予算を投じるべきプラットフォームであると証明する一助になるかもしれない。

あるブランドの幹部は以下のように話す。「TikTokはとてつもない可能性を秘めているが、広告主との関係については、方向性を見いだせていないように思う。巨大な予算を実験に投じられる企業と小さなブランドは飛び付いているが、そのほかの広告主は静観している」。

広告事業をほぼ放置

Facebookは、インスタグラム(Instagram)を自社の広告プラットフォームに取り込み、ヤフー(Yahoo!)はTumblr(タンブラー)で同じことを試みて失敗した。一方マイクロソフトは、LinkedInの広告事業をほぼ手付かずのまま放置してきた。ハル氏はこの事実を「買収後のLinkedInの成長と成功の大きな理由」に挙げている。マイクロソフトは2016年、ビジネス特化型のソーシャルネットワークであるLinkedInを買収した

買収が完了した2016年12月の時点で、LinkedInの登録ユーザー数は4億人だったが、2020年7月現在、7億600万人まで増加している。マイクロソフトは収支報告でLinkedInの売上を発表していないが、直近の四半期売上は前年比10%増、その前の第4四半期は21~25%増だったと述べている。

マイクロソフトがLinkedInをほぼ手付かずにしてきたことは、マイクロソフト自身が広告事業を縮小した影響がある可能性が高い。マイクロソフトは2010年代半ばまで、オンライン広告市場の支配権を巡り、Googleと争っていた。2007年にはアドテク企業のアクアンティブ(aQuantive)を63億ドル(約6800億円)で買収したが、5年後、投資額とほぼ同等の評価損を計上し、2013年2月、アクアンティブの広告サーバー、アトラス(Atlas)をFacebookに売却。そして2015年6月、直販部門をAOLに譲渡し、ディスプレイ広告事業から事実上撤退した

エージェンシーのPMGで、プログラマティックメディアディレクターを務めるジャスティン・スカボロー氏は「マイクロソフトの広告セールス担当者からは、何年も電話がない」と語る。

進化するチャンスは十分ある

とはいえ、マイクロソフトはLinkedInを完全に放置しているわけではないし、収入源としての広告を捨て去ったわけではない。検索エンジンのBingとゲームプラットフォームXbox(エックスボックス)の広告販売は継続しており、2018年5月には、マイクロソフト・オーディエンス・ネットワーク(Microsoft Audience Network)を立ち上げている。オーディエンス・ネットワークを利用すると、ポータルサイトのMSN、メールサービスのOutlook(アウトルック)といった、マイクロソフトのプロダクトにBingの検索キャンペーンをディスプレイ広告として表示できる。

そして、2019年8月、ダイレクトレスポンス広告を強化するため、eコマース向けの広告システムを手がける、プロモートIQ(PromoteIQ)を買収すると発表。パフォーマンス広告が強みのエージェンシー、3Qデジタル(3Q Digital)の最高戦略責任者サム・ハストン氏によれば、LinkedInの広告事業は親会社から独立して運営されているが、マイクロソフトはLinkedInのデータを利用し、オーディエンス・ネットワークで広告がどのようにターゲティングされているかの情報を提供しているという。

エージェンシー幹部たちは、TikTokにもLinkedInのモデルを適用すべきだと断言しているが、マイクロソフトがTikTokを手助けすれば、TikTokがFacebookのような手強いライバルと競い合う、成熟した広告プラットフォームに進化するチャンスは十分あると考えている。TikTokは「広告製品に関しては、とても若いプラットフォームだ」と、あるソーシャル広告バイヤーは述べている。

TikTokは主に、若いオーディエンスにリーチしたいブランド広告主を引き付けてきた。しかしその真価は、Facebook、インスタグラム、Snapchat(スナップチャット)などのよく似たプラットフォームが実証しているように、本物のパフォーマンスベースの広告をつくり上げ、広告が売上をもたらす証拠を求める広告主や、証拠が手に入れば喜んで支出を増やす広告主を相手にしたときにこそ問われるだろう。

TikTokは「パフォーマンスの観点から見れば、急成長を遂げ、広く採用されているプラットフォームではない」と、スカボロー氏は話す。

レポートの制約が課題

ダイレクトレスポンス広告主がTikTokの採用を思いとどまる要因のひとつが、広告パフォーマンスのレポートに制約があることだ。たとえば、TikTokでは、キャンペーンのアトリビューションウィンドウが1日に設定されているが、FacebookやSnapchatでは、サイト訪問などのコンバージョンを広告表示の28日後まで追跡できる。しかし、マイクロソフトの支援があれば、ダイレクトレスポンス広告の欠点は解消できるだろう。

「データとそのデータを送るためのインフラに関しては、パフォーマンスマーケターが何を求めているかを、マイクロソフトはよくわかっている。これは間違いなく、TikTokのパフォーマンス広告市場への参入を加速させるだろう」と、ハストン氏は話す。

マイクロソフトがTikTokへの関与を広告レポートや分析機能の改善といった後方支援に限定することは、TikTokの消費者向け製品が損なわれ、買収が無駄遣いに終わるという落とし穴を回避する助けにもなる。

ハル氏は次のように述べている。「ユーザーやクリエーターの邪魔にならず、広告主にとっての価値を高められる場所からはじめる方が理にかなっている」。

[原文:Microsoft’s hands-off handling of LinkedIn offers model for potential TikTok acquisition

TIM PETERSON(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:村上莞)