SurfaceなどB2C商材でのデジタルマーケティングを推進する日本マイクロソフト。店舗売上が90%を占めるため、デジタルで得た顧客とのタッチポイントを、いかに実店舗に送客するかがカギだ。同社が有するオーディエンスデータと量販店がもつ顧客の購買データを連携させ、売上に貢献するデジタルマーケティングを追求する。
来る11月22日にザ・リッツ・カールトン東京で開催される「DIGIDAY HOT TOPIC」では、日本マイクロソフト 上代晃久氏のセッションが行われる。参加登録はこちらから!
B2Bのイメージが強いマイクロソフトだが、タブレット端末のSurfaceシリーズやOffice、Xboxなど、一般コンシューマー向けのブランドも多く扱っている。PCのような高単価で差別化が難しいカテゴリーでは、実店舗での販売シェアは高く、ほとんどの顧客が依然として店舗で購入しているという。
日本マイクロソフトでは、家電量販店各社と協力して、同社が展開するオンラインコミュニケーションと、オンとオフの店頭体験のデータを用いて、より売り上げに貢献するコンテンツの開発・提供に活かしている。オンラインとオフライン、ブランドとリテールで分断されがちなデータやコンテンツを連動させることで、マーケティングの全体最適化を実現し、売上の最大化に貢献することをめざしている。
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日本マイクロソフト 上代晃久氏
日本マイクロソフトのコンシューマー&パートナーグループ マーケティング統括本部で、デジタルリードを務める上代晃久氏。同社の家電量販店をパートナーとした営業部門や各ブランド担当、さらに量販店との「ハブ役」となり、デジタル化を推進する。メーカーである日本マイクロソフトがもつデータの強みを最大限に活用して、家電量販店や社内を巻き込みながら新たな施策に挑戦している。
オンからオフへ
「高単価かつ買い替え期間が数年以上、というデジタルだけで購買行動が完結しない耐久消費材では、デジタルマーケティングの役割を見直す必要があると感じている」と上代氏は語る。同氏は、キリンのデジタルマーケティング部でオウンドメディアの運用やブランド横断型のプラットフォーム構築を担った実績を有する。
キリンでの経験も踏まえて、「ブランドがもつマーケティングコミュニケーションを通して獲得した潜在顧客、購買意向が高まったお客様を、いかにリアル店舗に送客するのかがカギだ」と、上代氏は指摘する。
「顧客との接点で触れた体験をデータとして蓄積し、コンテンツとしてすぐに提供できるのがデジタルの強み」。デジタルを含むタッチポイントが、購買の意思決定にどれだけ関わっているのか? 購買動機に影響を与えた因子は何か? を分析して次のアクションプランを考える。
「デジタル広告からのサイト誘引だけのジャーニーをいくら強化しても、インパクトのある売り上げが作れないことは明らか。Twitterでの評判形成の貢献度が認知経路に貢献していることが見えていれば、家電量販店の特性も考えながら、Twitterを軸とした打ち手を企画・実験しながら、次へとスケールさせていく」と、同氏は説明する。
オフからオンへ
店頭での最終購買が大半を占める一方、検討段階では、ほとんどの顧客はほぼオンラインに触れている。ブランド好意度を上げることで、Surfaceの指名買いまで作れるのか? 新しいマーケットを開拓する材料を得ることができるのか? まで見通して施策を考える。
「デジタルの広告や自社メディアでのコンテンツで、検討段階で何の情報を、どこまで、どのように与えるべきか。それが、顧客の来店・購買行動を左右する」と、同氏は語る。販売員が売り場で聞いた顧客のフィードバックを参考に、デジタルのどこで接触したのか、そこでどのようなコンテンツを打てば効果的なのかを検証する。
「これまでのリテールサイドにおける販促支援だけでなく、ブランドによるコミュニケーションの活動と、売り場での顧客体験を連携させていく。オンとオフを渡り歩く生活者のカスタマージャーニーがあって、それぞれの顧客の購買体験を進化させる。新しい売上の機会をつくりだすことができるデジタルトランスフォーメーションに、大きな可能性を感じている」と上代氏は言う。
データ起点でPDCA
これまでのマイクロソフトでは、トリプルメディアによるコミュニケーションで得られたデータを活用して、売り場へと送客する、またはリテールマーケティングのセグメントに応用するという概念はなかったという。現在は、上代氏がデジタルリードとして、「各家電量販店をパートナーとした営業担当と各ブランドのマーケティング担当と協力して進めている」と言う。
「セールスへの貢献度がもっとも重視される組織で、デジタルメディアにおける行動の数値だけでなく、データで成果を証明すること、実感の持てる売り上げを作ることが課題」と、同氏は述べる。「当り前なんですが、パソコンやタブレット端末などの耐久消費財は、コンビニで立ち寄って買える商品ではないので、デジタルでの刹那的なコンテンツ体験では、売り上げは作れない」。
「一方、半年ぐらいの間、生活者との体験を作り続けることで、店舗に行かなかった顧客の態度変容を促せられるのがデジタルの強み。その過程で得られた体験・接点をデータとして、店舗での体験に活用することで、売り上げの確率をあげていくことが取り組むべき課題」と、指摘する。データを分析して自社メディアと店舗側のコンテンツを入れ替え、売上への貢献度を計測する。データをもとに試行錯誤を積み重ね、PDCAを回すことが肝心だ。
さまざまな施策を試す
たとえば、現在進めている取り組みとして、日本マイクロソフトが有するファーストパーティデータや、広告セグメントといったデータを、家電量販店の位置情報やPOSデータとの連携、さらにはオンラインの主要パブリッシャーとの連携を模索している。
「バナー広告からのサイト送客ではインパクトのある売り上げは作れません。店舗で製品に触れて、説明を受けて、納得してから買いたいという購買行動があって、その事前の検討段階に影響を与えることができるのは、信頼あるパブリッシャーが読者に届けているコンテンツがカギ。それをPVが多かったよねといったデータではなく、その購読データがリテールへの送客にどのように影響を与えられたかまでを見ることで、新しい売り上げになるのかをみたい」と、上代氏は説明する。
上代氏は、量販店各社とマイクロソフトのブランドの両方を横断して見ることで、全顧客接点を通したマーケティングの最適化を実現できるという。「いまは量販店各社とさまざまな取り組みを試しているが、ゆくゆくは、それぞれで得られたノウハウを横展開して、自社製品だけでなく、量販店を通じて業界を越えた新しい売り上げの機会を相互に作り上げたい」。
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Written by 亀山愛
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