6月下旬、アドテクベンダーのメディアマス(MediaMath)が危ないというニュースが広がった。このニュースに業界が浮き足立つなか、すぐに動いたのはパブマティック(PubMatic)だった。
そして6月30日(金)、メディアマスの破産が発表されたわずか数時間後、パブマティックは同社からの入札をただちに差し止めた。
積み上がる負債額
パブマティックの各種サービスを利用するパブリッシャー各社は、売上に近々影響が出るであろうことを即座に知らされた。顧客に宛てたメールのなかでパブマティックは、今後30日間にわたってメディアマスと協力して、未払い金の正確な額の把握に努めると記している。しかし、現実的に考え、支払いは行われるのだろうか? それに、そこに至るまでには1カ月以上の時間がかかるはずだ。
ほかのアドテク各社と同じように、パブマティックも支払いを待つ列の最後尾に並ばなければならない。彼らの前には、賃金、給料、そしてゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)といったメディアマスの主要有担保債権者への支払いがあるのだ。
また、これらの負債がすべて清算されても、パブマティックらの企業が自分たちの取り分をすぐに手にできるとはかぎらない。何しろ、上位30の債権者に対して抱えるメディアマスの負債額は、7300万ドル(約103億1700万円)にも上るのだ。この30社のなかには、パブマティックやマグナイト(Magnite)、ソノビ(Sonobi)、マイクロソフト(Microsoft)のXandr(ザンダー)、アズウィズ(AdsWizz)も含まれている。負債額はそれぞれ、1040万ドル(約14億6980万円)、1260万ドル(約17億8070万円)、530万ドル(約7億4900万円)、400万ドル(約5億6530万円)、340万ドル(約4億8050万円)となっている。
彼らはこの負債をすべて(あるいは、たとえ一部でも)回収できるのだろうか? それは、メディアマスの監督者が債務再編を進め、残されたビジネスを復旧ができるかどうかにかかっている。
広告キャンペーンは別のアドテクベンダーへ
そうしたなかで、関係者の誰もが予測に尽力している。当のメディアマスは申立書のなかで、自社の資産を1億~5億ドル(約141~707億円)と見積もっている。
投資会社ファーストパーティキャピタル(First Party Capital)のパートナーであるケビン・フラッド氏は、「顧客のデータベースなどの資産が関係者の興味をひく可能性はある。しかし、キャンペーンが打ち切られれば、人はすぐに(GoogleのDSPである)DV 360やアドフォーム(Adform)、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)といったライバルのもとへと流れる。その瞬間にその興味も失われる」と語る。
この移行はすでに始まりつつある。メディアマスが即座の閉鎖を発表するや、同プラットフォームに予約されていた広告キャンペーンはただちに別のルートに変更され、ほかのアドテクベンダー各社はその恩恵を受けた。
そのなかの1社がアド360(Ad360)だ。同社はこれをチャンスと捉え、フラストレーションを抱えるマーケターの気を引くべく、週末の祭日休みに無料のセットアップサービスを提供した。アドフォームも同様に、メディアマスの終焉が公になったわずか数日後に、すでにメディアマスの一部広告主の獲得に成功していた。
6月下旬、アドテクベンダーのメディアマス(MediaMath)が危ないというニュースが広がった。このニュースに業界が浮き足立つなか、すぐに動いたのはパブマティック(PubMatic)だった。
そして6月30日(金)、メディアマスの破産が発表されたわずか数時間後、パブマティックは同社からの入札をただちに差し止めた。
積み上がる負債額
パブマティックの各種サービスを利用するパブリッシャー各社は、売上に近々影響が出るであろうことを即座に知らされた。顧客に宛てたメールのなかでパブマティックは、今後30日間にわたってメディアマスと協力して、未払い金の正確な額の把握に努めると記している。しかし、現実的に考え、支払いは行われるのだろうか? それに、そこに至るまでには1カ月以上の時間がかかるはずだ。
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ほかのアドテク各社と同じように、パブマティックも支払いを待つ列の最後尾に並ばなければならない。彼らの前には、賃金、給料、そしてゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)といったメディアマスの主要有担保債権者への支払いがあるのだ。
また、これらの負債がすべて清算されても、パブマティックらの企業が自分たちの取り分をすぐに手にできるとはかぎらない。何しろ、上位30の債権者に対して抱えるメディアマスの負債額は、7300万ドル(約103億1700万円)にも上るのだ。この30社のなかには、パブマティックやマグナイト(Magnite)、ソノビ(Sonobi)、マイクロソフト(Microsoft)のXandr(ザンダー)、アズウィズ(AdsWizz)も含まれている。負債額はそれぞれ、1040万ドル(約14億6980万円)、1260万ドル(約17億8070万円)、530万ドル(約7億4900万円)、400万ドル(約5億6530万円)、340万ドル(約4億8050万円)となっている。
彼らはこの負債をすべて(あるいは、たとえ一部でも)回収できるのだろうか? それは、メディアマスの監督者が債務再編を進め、残されたビジネスを復旧ができるかどうかにかかっている。
広告キャンペーンは別のアドテクベンダーへ
そうしたなかで、関係者の誰もが予測に尽力している。当のメディアマスは申立書のなかで、自社の資産を1億~5億ドル(約141~707億円)と見積もっている。
投資会社ファーストパーティキャピタル(First Party Capital)のパートナーであるケビン・フラッド氏は、「顧客のデータベースなどの資産が関係者の興味をひく可能性はある。しかし、キャンペーンが打ち切られれば、人はすぐに(GoogleのDSPである)DV 360やアドフォーム(Adform)、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)といったライバルのもとへと流れる。その瞬間にその興味も失われる」と語る。
この移行はすでに始まりつつある。メディアマスが即座の閉鎖を発表するや、同プラットフォームに予約されていた広告キャンペーンはただちに別のルートに変更され、ほかのアドテクベンダー各社はその恩恵を受けた。
そのなかの1社がアド360(Ad360)だ。同社はこれをチャンスと捉え、フラストレーションを抱えるマーケターの気を引くべく、週末の祭日休みに無料のセットアップサービスを提供した。アドフォームも同様に、メディアマスの終焉が公になったわずか数日後に、すでにメディアマスの一部広告主の獲得に成功していた。
厄介なのは支払いの流れ
「週明けの月曜日には、すでに最初のクライアントを獲得した」と、アドフォームの最高技術責任者であるジョーケン・シュロッサー氏は語る。「とくにヨーロッパでは、移行先のパートナーとして自然なのがアドフォームだ。アドフォームなら、プライバシー重視型のターンキーソリューションをはじめとするターンキーセットアップを、初日から利用できる。それもあって、依頼が数多く舞い込んできている」。
これが進めば、メディアマスが出口を見い出すのはさらに難しくなる。解決策はあったはずだ。米連邦破産法11条(いわゆるチャプターイレブン、日本の民事再生法のようなもの)による保護を申請して業務を縮小すれば、裁判所の監督の下で負債を整理しながら、事業運営を継続することは可能だ。しかし、クライアントは離れつつあり、同プラットフォームへのアクセスも絶たれてしまっているようだ。それを考えると、事業運営の対象自体がない可能性もある。
かつてメディアマスが存在していたところには、未払いの請求書、支払いの遅れ、契約をめぐる混乱、砕け散った信頼で埋め尽くされている。関係者の誰の目にも、そこは手がつけられないほど混乱している。メディアマス最大の大口債権者のうち、ある1社の上級幹部は「これに取り組む誰にとっても厄介な問題になるのは、支払いの流れだろう」と語る。
破産を予見していた企業も
ただし、「誰にとっても」とまでは言い切れないかもしれない。アドテク各社のなかには、何カ月も前にメディアマスの行く末を予見して、自社を守る具体的対策を講じていた企業もある。
主要債権者のなかのある関係者(会社から取材許可が降りなかったため、匿名)によると、同社がメディアマスへの露出を大幅に制限し始めるようになったのは、今年の2月のことだったという。アドテク各社の首脳陣が世界経済というパズルの意味を理解するようになりつつあったのも、ちょうどそのころだった。
そしてその結果、負債やキャッシュフローといったメディアマスが抱えるさまざまな問題の輪郭があらわになった。ほかのアドテク各社の幹部の多くがそうしたように、同社でも撤退を決めた。もしそうしていなかったら、「会社の損失は100万ドル(約1億4100万円)をゆうに超えていた」と、前述のある関係者は話す。
別の債権者の上級幹部も、同様のことを述べている。同幹部は苦境に追い込まれたメディアマスへの与信拡大を検討していたが、結局は支払い条件についての交渉が行われ、未払い金の額に上限が設けられたという。その結果、メディアマスは同幹部の会社のトップパートナーの地位を占める1社ではなくなった。このような状況にもかかわらず、同幹部は同社の経営陣が議論を通じて「プロ意識と財政責任を持って運営していた」と言う。
根本的な原因は
財務に対する責任感についていえば、今回の出来事が浮き彫りにするのは、アドテク市場の過酷な現実だ。常に順応し、差別化をはかり、十分なリソースを確保できなければ、企業は生き残れない。これができなければ、メディアマスが不幸にも身をもって体験したように、市場から締め出されることにもなりかねない。
こうなったのは、メディアマスの経営陣が後ろ盾であるプライベートエクイティ(PE)と結んだ、売上と流動性に関する約束を果たせなかったことが原因だった。2018年、同社の事業に陰りが見えると、その重圧は限度を超え、それが敵対的買収、投資家と社員の喪失、そしてついには破産へとつながった。
メディアマス経営陣の考えの甘さが、このどん底を招いたのだ――などと言っているわけではない。新たなオーナーを探していたことを考えれば、むしろ彼らはその低迷を払拭しようとしていた。しかし、負債の比率がここまで大きくなると、出口を見出すのは困難になる。
メディアマスが提出した破産申立書によると、同社の負債は1~5億ドル(約141~707億円)にまでかさんでいたという。これは、見積もられている同社の資産価値と同程度だ。メディアマスは200~999の債権者に対して支払いの義務があることを考えると、この点は好材料かもしれない。
アドテクビジネスにとって不可欠なこと
メディアマスの没落は、アドテク業界におけるキャッシュフロー管理や与信監視の重要性を痛いほど思い出させてくれる。とりわけ、長引くインフレや、資金が容易に調達できる時代の終わりに直面しているときにはそうだ。
かつてはエクイティに頼っていた企業が、いまはデットファイナンスに目を向けるようになっている。そうしたなかで、アドテクビジネスにとって不可欠なのは、「収益性を示すこと」「リスクをうまく管理すること」「売上の多角化を取り入れること」だ。これらができてはじめて、成功の継続が確かなものとなる。
「いま思うと、メディアマスがPEパートナーの罠にはまったと後から言うのは簡単だが、残念ながら今回のようなことは、アドテクの世界ではよくあることだ」と、インボイスファクタリング企業のオーレックス(OAREX)で、エグゼクティブバイスプレジデントを務めるニック・カラビア氏は言う。「企業は評価や資本コスト、希薄化に目がくらみ、ほかのリスクを見落としてしまう。他人を食いものにするファイナンスパートナーはどこにでもいる。大切なのは、但し書きをよく読み、手を組もうとしている相手の正体をよく知ることだ」。
[原文:MediaMath’s bankruptcy exposes ad tech’s cash flow and credit management challenges]
Seb Joseph and Ronan Shields(翻訳:ガリレオ、編集:島田涼平)