AppleのモバイルIDを使ってユーザーを追跡できる企業が少なくなれば、コストは上昇すると考えられている。ユーザーの追跡が困難になるほど、誰がどの広告をクリックしたのか、何がユーザーのアクションを促したのかを計測するためのコストが増えるからだ。しかし、それ以外にどのようなことが起こるのかは、誰にもわからない。
Appleによるトラッキング防止機能の導入が迫っている。だが、この機能がAppleにとって広告費の流入をもたらすものになるのか、妨げるものになるのかはわからない。その答えは、尋ねる相手によって変わってくるだろう。
一般的に、AppleのモバイルIDを使ったターゲティングが難しくなると、コストは上昇すると考えられている。ユーザーの追跡が困難になるほど、誰がどの広告をクリックしたのか、何がユーザーのアクションを促したのかを計測するためのコストが増えるからだ。しかし、それ以外にどのようなことが起こるのかは、誰にもわからない。
「誰もが将来に不安を感じており、Appleによる何かしらの変更が発表されるたびに、広告のパフォーマンスにどんな影響がもたらされるのかと、神経質になっている」と、パフォーマンスマーケティングの支援を行う、プレイブック・メディア(Playbook Media)のCEO、ブライアン・カラス氏はいう。「不確定な要素が多すぎるため、予算を前倒ししたり、別のプラットフォームに大きくコミットしたりしようとする企業はいないだろう」。
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とはいえ、短期的な対策は必要だ。アプリ内広告に依存して、インストールや購入を増やしてきたマーケターは特にそうだ。彼らは、Appleでのキャンペーンをすべて中止するわけにはいかない。より高いLTV(Life Time Value)の顧客を抱え、利用金額が他社のモバイルデバイスより多い場合はその限りではないが、いまのような不確実な状況では、「iOS」デバイスへのメディア予算の投入は慎重にならざるを得ない。従って、場合によっては、もうひとつの支配的なモバイルプラットフォーム、つまりAndroidに予算の一部を移すことになるだろう。
揺らぐiOSの投資優先度
「そのようなトレンドは、確実に見られている」。こう語るのは、アドテクベンダーのインモビ(InMobi)で、SSP(サプライサイドプラットフォーム)戦略事業部門のシニア製品マネージャーを務める、セルジオ・セラ氏だ。「iOSに関する一貫した識別子を利用できなくなれば、GoogleがAppleと同じような方式への移行を正式にはじめるまで、マーケターはメディア計画におけるiOSの優先度を一時的に引き下げる可能性が高い」。
iOSでの支出を減らせば、少なくともAppleでの広告を巡る混乱が収まるまでのあいだ、緊急対策を迫られることが少なくなる可能性がある。これはその場しのぎの策ともいえるが、Appleがアプリでのトラッキングを制限しはじめれば避けられない、パフォーマンスの低下を防ぐ防御策になるかもしれない。
「Appleの動きがもたらす影響には不明な点が多いため、一部のマーケターは、Androidといったよりコントローラブルな場所に予算を振り向けはじめている」と、アドテクベンダーのビガビッド(Bigabid)の創業者で、プレジデントを務めるイド・ラズ氏は述べる。「どちらかといえば、Androidに予算が流れる傾向が高いようだ」。
また、一部のアプリパブリッシャーも、iOSにマーケターの予算が振り向けられなくなっている状況に、焦りを感じている。
「この状況は、パブリッシャーのeCPMをたちまち悪化させ、その結果パブリッシャーのあいだでiOSへの投資が軽視されるようになった」と、セラ氏は指摘する。「そのため、iOSファーストだったパブリッシャーらがAndroidアプリの重要性を再評価しはじめている。歴史的にiOSが重視されてきた、米国のような市場でもだ」。
冷静に状況を眺めるマーケターも
一方マーケターのなかには、状況をもっと現実的、かつ冷静に眺めているマーケターもいる。彼らから見れば、iOSデバイスとAndroidデバイスのあいだで資金を行き来させることは、ゼロサムゲームではない。このふたつのプラットフォームは、オーディエンスが大きく異なるからだ。そのため、このようなマーケターは、IDFAの利用が減りはじめるまでAppleデバイスでの支出を続けるだろう。ほかのことをスタートするには、まだ時期尚早ということだ。
「我々が見てきた限りでは、DSP(デマンドサイドプラットフォーム)がiOSから予算を引き上げている様子はない」と、アプリ収益化サービスを手がけるファイバー(Fyber)のプレジデント、オファー・イエフダイ氏は述べている。「IDFAに対する規制が行われれば、マーケターはiOSへの支出をしばらく遅らせるかもしれないが、プライバシーに配慮したコンテクスチュアルターゲティングを利用して、再び支出を増やすだろう」。
イエフダイ氏の発言が正しいとすれば、マーケターたちは、支出を送らせているあいだ、新たなアプローチをテストする時間を得ることになる。
LATにかかる期待
たとえば、Limit Ad Tracking(LAT)のテストができるだろう。この機能は、Appleが導入を予定しているプライバシー重視の機能と同様、ターゲティング広告をオプトアウトするオプションを、iOSユーザーに提供するものだ。そのため、一部のマーケティング担当者は、この機能を有効にしたキャンペーンをすでに実施している。トラフィックがパーソナライズされていない状況で、モバイル広告がどの程度パフォーマンスを上げられるのか、テストしているのだ。
「準備の様子を見てみると、変化に対応するために、IDFAを使わないLATインベントリーで、キャンペーンを成功させるための移行作業に多額の投資を行っているDSPもあれば、対応が遅く、このようなインベントリーに見向きもしないDSPもいる」と、イエフダイ氏は指摘した。「IDFAを使わないインベントリーの割合が増えるにつれて、技術的な調整を行っていない企業は、ユーザーの識別がまだそれなりにできるプラットフォームに軸足を移すことが必要になるだろう」。
もちろん、Appleによる変更がはじまれば、企業の計画も変わる可能性が高い。しかしそれまでのあいだ、マーケターたちは自分たちにとって最適な方法を試そうとするはずだ。
覚悟が必要
「マーケターは、IDFAを使わないAppleでのはじめてのキャンペーンについて、上層部に自信を持って報告できるかどうかを自問する必要がある」と、コンサルティング企業カントン・マーケティング・ソリューション(Canton Marketing Solutions)の創業者、ニック・キング氏はいう。
「ブランドによっては、売り上げが半減したことを報告せざるを得なくなる可能性があるため、マーケターは今後の計画を説明できるよう覚悟しておく必要があるだろう」。
SEB JOSEPH(翻訳:佐藤卓/ガリレオ、編集:村上莞)