OOHは、良くも悪くも特殊なメディアとして見られてきた。だが近年、デジタルインベントリへの転換が進み、多様なフォーマットを組み込んだことで、今ではその売買プロセスにプログラマティックを組み込めるまでになり、ロケーションベースではなく、オーディエンスドリブンなメディアだと評価されるようになりつつある。
OOH(屋外広告)は、売る側、買う側のいずれからも、よくも悪くもテレビやデジタルデバイスよりも特殊なメディアとして見られてきた。これまでのOOHはいわばローカルメディアとして存在し、オーディエンスの質というより、場所的な価値にその活路が見出されていた。
だが近年、OOHメディア企業はデジタルインベントリへの転換を着実に進めてきた。デジタル動画やダイナミックサイネージ、そのほかのフォーマットを組み込んだことで、今ではその売買プロセスにプログラマティックを組み込めるまでになった。また、プログラマティックがデジタルOOH(DOOH)に定着したことで、オムニチャネルメディアのバイイングやプランニングにおいてOOHはロケーションベースのバイイングだけでなく、オーディエンスドリブンなメディアであると評価されるようになりつつある。
OOHメディア企業のある幹部は、「プログラマティックが導入されたことで、バイサイドに『DOOHは、ほかのメディアに近いレベルで効果測定とターゲティングが可能』という認識が生まれた」と話す。
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現在、DOOHインベントリ全体でプログラマティックは10%程度にとどまっているが、メディアエージェンシーがプログラマティックのプロバイダーやデマンドサイトプラットフォーム(DSP)と提携すればこの割合も急速に増えていくと考えられる。
「OOHの重要性は大きく増す」
デジタルマーケティング領域のコンサルティング企業であるプロハスカ・コンサルティング(Prohaska Consulting)の共同経営者でパブリッシャーオペレーションおよびテクノロジー戦略担当VPを務めるアミート・シャー氏は、「DOOHにおいて、今後プログラムマティックの重要性は大きく増していくだろう」と話す。「これまでオーディエンスはOOHの測定基準のひとつではあったものの、追跡が容易ではないことから、優先度が低かった」。
大手エージェンシーのなかにも、OOHにプログラマティックを導入してクライアントと相互利益を得ているところがある。グループエム(GroupM)は、OOHソリューションのサイトライン(Sightline)との提携を密かに進めていた。これはOOHメディアエージェンシーのキネティック・ワールドワイド(Kinetic Worldwide)と提携し、WWPのプログラマティックユニットであるザクシス(Xaxis)の機能を活用したサービスだ。ただし、提携の発表がコロナ禍によるロックダウンの直前というタイミングだったこともあり、サービス開始後、最近になってようやく軌道に乗り始めた。
キネティックのCEO、マイケル・リーバーマン氏は「サイトラインは2021年に入ってから、(具体名は明かせないが)消費財や小売、金融、米国の自動車メーカーなど、すでにクライアントを22社獲得している」と、自信に満ちた口調で話す。「これまで当社を単にひとつふたつの限られたエリアにおけるマーケットリーダーと考えてきた広告主が、オーディエンスプラットフォームとして捉えはじめている。これはOOHが動画やディスプレイ広告、スマートテレビ、オーディオコンテンツなどと同列に扱われるまでに成長していることを示している」。
ザクシスのプレジデント、ジラ・ウィレンスキー氏は「相互補完的ないい提携だ」と話す。「我々のクライアントはOOHに、キネティックのクライアントはプログラマティックに、両面からアプローチできる」と話す。
プログラマティックが急速に浸透
OOHメディアエージェンシーのあいだでも、プログラマティックの普及が進んでいる。IPG傘下のOOHメディアエージェンシー、ラポート(Rapport)で米国プレジデントを務めるクリス・オルセン氏は、「我々は通常、DSPとの提携はマネージドサービスを利用するためだ。だが今年に入ってからは、プログラマティックで購入したインベントリがすでに通年購入数を上回っている」と話す。「2021年の下半期に向けて、ラポート内でプログラマティック部門の立ち上げも検討している」という。
インハウスのテクノロジーを強化するDOOH企業が増えたことでバイサイドでもほかのメディアとともにOOHを検討する企業が増えている。ここでプログラマティックが大きな役割を果たしているのは言うまでもない。
ガソリンスタンドの給油機のモニターやデジタルサイネージ画面へのコンテンツ提供を運営するGSTVのCEO、ショーン・マカフリー氏は「(プログラマティックの浸透が)購入者の思考、行動プロセスの『リバースエンジニアリング』に役立つ」と話す。「また成長や需要を牽引する要因にもなる。(全米で屈指の混雑率を誇る)ラガーディア空港や(カリフォルニアの主要な高速道路)405フリーウェイなどの利用者はもちろん、シボレーのドライバーや同乗している子供、ゴルファーなどのデモグラフィックについても、ほかのデジタルメディアと同様に扱っていいだろう」。
データの面では不安も
しかしながら、課題も残されている。OOHインベントリーの大半(60%以上とも言われる)はいまだデジタル化されていない。また、サードパーティデータに対する制限や、モバイルプロバイダーがユーザーのトラッキング規制を強化していることも障害になり得る。DOOHにプログラマティックが普及する一方で、データソースへの使用制限の波が着実に動き出しているのだ。
規制の影響の大きさについて、業界関係者の間で見解が別れている。
キネティックのリーバーマン氏とラポートのオルセン氏は「サードパーティデータ(特に位置情報データ)が減ると、プログラマティックの効果的な活用に必要な分析に支障が生じかねない」と話す。
一方、プロハスカのシャー氏は、ほかのデジタルメディアほどの影響はないと見ている。「重要なのはコンテキストであり、価値、オーディエンスだ。DOOHは必要なデータ面で根本的に変わるわけではない。インベントリーの価値は上積みされるだろう」。
MICHAEL BÜRGI(翻訳:SI Japan、編集: 分島 翔平)