マスターカードでグローバルメディア担当シニアバイスプレジデントを務めるベン・ジャンコフスキー氏へ、全米広告主協会(Association of National Advertisers:以下、ANA)がこの夏、鳴り物入りで公開した、エージェンシーのメディアバイイングに関するレポートについて聞いた。
全米広告主協会(Association of National Advertisers:以下、ANA)はこの夏、エージェンシーのメディアバイイングに関する鳴り物入りのレポートを公開した。そのおかげで、マーケターたちはようやく透明性の問題を意識し始めたようだ。「ビジネスインサイダー(Business Insider)」や「ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)」が報じたとおり、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(JP Morgan Chase)、ゼネラル・エレクトリック(General Electric:GE)、シアーズ(Sears)など、いくつかのブランドが広告予算の執行を中止し、外部監査を始めた。
マスターカード(MasterCard)は、自社のアプローチについて語ることに慎重な企業だ。だが米DIGIDAYは、そのマスターカードでグローバルメディア担当シニアバイスプレジデントを務めるベン・ジャンコフスキー氏へ、9月末にニューヨークで開催された広告の祭典「アドバタイジングウィーク」で話を聞いた。ジャンコフスキー氏は、ANAのタスクフォースのメンバーを務めていたほか、オムニコム・グループ(Omnicom Group)、WPP、ハバス(Havas)といった広告エージェンシーの側で仕事をした経験もある。
なお、回答内容については、わかりやすさのために編集を若干加えている。
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――レポートに書かれていた主な提案内容のひとつに、クライアントは最高メディア責任者を配置するべきだというものがありました。こうした役職には、どのような価値があるのでしょうか?
私はマスターカードで、世界のすべてのペイドメディアを管理する仕事に携わっている。この市場で起こった変化はあまりにも大きいものだ。自社の(雇っている)メディアエージェンシーがエージェントとして活動しているのか、主導権を握って動いているのか、わからないとすれば、これは大きな問題だ。どちらなのかはっきりさせる必要がある。
また、メディア経験が長い人材が不足している。昔は、エージェンシーを雇えば、こうした仕事をすべてやってくれるという理解でよかった。いまは、メディア担当者を抱えていたとしても、多くの人は経験が極めて少ない。仕事を統括する経験豊富なメディアの人間がいないために、機会を逃し、莫大なお金が無駄になっている。
――広告主は監査を行う権利をもつべきでしょうか?
リサーチ会社のK2インテリジェンス(K2 Intelligence)が明らかにしたように、起こっていることの多くは、エージェンシーレベルで起こったのではない。親会社レベルで起こったり、子会社が原因で起こったりしている。私たちは、全体の状況を監査できる能力を備える必要があるのだ。
重要なのは、自分たちにどのような権利があるのかを理解することだ。なぜなら、一緒に仕事をしているエージェンシーからはっきり見える場所に、その親会社や子会社がいることはないからだ。
――「Lumascape(ディスプレイ広告の業界地図[カオスマップ])」については、どうお考えですか?
あれほど多くのプレイヤーがいる必然性はない。その複雑さには困惑するばかりだ。だが、儲ける機会を得るために物事を複雑にしようとする人たちがいる。Lumascapeの図を見るのに、私はひと晩かかってしまったが、この図には5つのグループがある。デジタル向け、ソーシャル向けといった具合にだ。私たちはこれを単純化する必要がある。
――透明性が欠けていることについて、責任は誰が負うべきでしょうか?
これは非常に大きな問題なので、責任を負うべきは、マーケターも含め、そこらじゅうに大勢いる。私はカンヌで、当時モンデリーズ・インターナショナル(Mondelez International)にいた同業者のボニン・バウ氏とパネルディスカッションを行ったことがある。そのときの話題は、メディアの経験が豊富な人材が十分にいないという問題だった。
何が起こっているのかを理解できる人材を十分に揃えていないのは、マーケターの責任だ。ただそのあたりに座って「ああ、それはエージェンシーの責任ですよ」ということなどできない。なぜなら、それは真実ではないからだ。それにフェアでもない。
――しかし、エージェンシーは、あなたたちが公平に報酬を支払ってくれないからだというでしょう。
エージェンシーは公平な報酬をもらうべきだ。エージェンシーからありとあらゆる利益を搾り取るべきなどという人は、誰もいない。
だが、私たちは、つまり業界はそのようなことをしている。支払期限を延ばしたり、彼らへの支払額を圧縮したりといった方法でだ。残念な話ではあるが。そこで、エージェンシーたちはやり方を変え、これが利益を上げる方法なのだと言ったわけだ。
――エージェンシーに同情しているのですか?
もちろんだ。彼らは利益を搾り取られてきた。それに彼らは公開会社であり、株主を抱えている。一部のマーケターが、支払期間を180日に設定しようとしたときに、私が同情するかといわれれば、答えはイエスだ。しかし、だからといって、クライアントに気づかれないやり方で、お金を儲けるそのほかの方法を見つけ出す権利がエージェンシーにあるのかと言われれば、答えはノーだ。
――リベートについてはどのような意見をお持ちですか?
リベートは問題ではない。リベートが存在するのは事実であり、この国のメディア業界がいままでこのことを問題視したことはなかった。人々がこれを問題だと認めるようになれば、解決策が出てくるだろう。
相手がいくら儲けているのかわからないのに、公平な報酬を支払うことは困難だ。したがって、こうしたメディア契約で不透明な利益を得ているエージェンシーに公平な報酬を支払うことは難しいのだ。
――マスターカードが最優先に取り組んでいることは何でしょうか? 契約交渉をしなおすことですか? それとも監査役を雇うことでしょうか?
JPモルガン・チェースなど、自社の取り組みを公表しているマーケターは多いが、私たちはそうしたことを明らかにするつもりはない。そんなことをしても誰のためにもならない。
私たちはエージェンシーを信頼しており、彼らと良好な協力関係を築き、ともに仕事をしている。そのような話をすることに価値があるとは個人的に思えないし、会社としても詳細を語る予定はない。なぜなら、それは微妙な問題であり、パートナーに対してフェアな行為でもないからだ。
――つまり、話をすることはできないが、改善策を実施しているということですね?
マスターカードはANAの調査結果を支持している。抑制と均衡を図るための通常の取り組みとして、エージェンシーの会計監査は常に実施している。これは長年やっていることで、今後も続けていく予定だ。
何らかの監査を行っていないマーケターがいるなどとは、私には想像もできない。監査を行う権利を獲得し、K2が明らかにしたような何らかの証拠を見つけるために詳しい調査を行う機会は、目の前にあるのだ。
Tanya Dua(原文 / 訳:ガリレオ)
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