「マーケティングの栄光と魅力には、陰りがみられる」:マスターカードのラジャ・ラジャマナーCMO

マスターカード(Mastercard)の最高マーケティング責任者(CMO)であり、世界広告主連盟(WFA)の代表も務めるラジャ・ラジャマナー氏は、自身のチームの内部組織の改革をミッションに掲げる。

ラジャマナー氏のもとで、マスターカードは広報部門とマーケティング部門を統合。そして、この新たなマーケティング部門のなかに、ブランドセーフティとリスク管理を担当する役職を新たに創設した。

米DIGIDAYはラジャマナー氏にインタビューを行い、クリエイティブ畑のマーケターが苦戦する理由、プラットフォームが尊大な振る舞いを改めて対策に動くべき理由、ブランドセーフティのみならず社会の安全を考慮すべき理由を聞いた。

――CMOとして、またWFA代表として、優先課題は?

最優先課題は、よりよい社会を目指したマーケティングだ。マーケターは平等な社会やよりよいウェブのために仕事をすべきであり、これこそがWFAの存在意義だ。第2の課題だが、わたしがMBAを修了した35年前は、トップの卒業生たちはみなマーケティング部門に就職したものだ。だがいま、マーケティングの栄光と魅力には陰りがみられる。大手マーケティング企業は、CMOの役職を廃止し、代わりに最高成長責任者や最高売上責任者といった役職を立てている。我々は主導権とマーケティングの価値を取り戻さなければならない。

第3の課題はタレントだ。現在マーケティング部門で求められる能力は、過去のものとは違う。かつてはマーケティングに特化したタレントが重宝されたが、いまはゼネラルマネージャーである必要がある。多くのCMOは、最高技術責任者(CTO)を上回るテック関連予算を握っている。したがって、テクノロジーとPRの両方を理解する必要がある。最高経営責任者(CEO)と最高執行責任者(COO)には、四半期ごとに結果を出すという大きなプレッシャーがかかる。我々は、マーケティングに数億ドルの予算をつぎ込んでいる。一体どんな見返りが得られるだろう?

――マーケティング部門に対するCEOの信頼は低下している?

ほとんどのマーケターはクリエイティブ畑の出身で、彼らの旗色は悪い。クリエイティブ出身のCMOやマーケターに対する信頼は下がっている。だからこそ、ゼネラルマネージャーが必要であり、我々にはタレントが必要なのだ。タレントを発掘するのは容易なことではない。

――どうしてそんなことが起きた?

主な理由は3つある。第1に、デジタルメディア、データの爆発的増加、津波のように押し寄せるソーシャルメディアによって、顧客のランドスケープが激変した。これにより、マーケティングという分野も全面的に変質した。昔は、既製品を製造販売する大企業のやることを、スタートアップが真似るなど夢のまた夢だった。しかし、いまやそれが可能になり、大企業は不意を突かれている。

こうしてマーケティングの再考が必要になったが、私が思うに、多くの企業のマーケティング部門はまだ改革に着手していない。そのため時代遅れになりつつあるのだ。加えて、テクノロジー、データ、デジタルの飛躍的進歩はランドスケープを変容させているが、マーケターは何が起きているのかさえ理解できていない。彼らはプログラマティックが何かも知らないのだ。

――広告が不適切な場所に表示される問題で不意打ちをくらったのも、そのせい?

まったくその通りだ。彼らがブラックボックスを当然のものと考え、そのなかで起きていることに無関心だったことは明白だ。壊れた機械に材料を入れたら、期待通りの製品ができないのは当然だ。マーケターはもっと勉強すべきだ。最近では、ブロックチェーン、AI、5Gといった言葉を誰もが口にする。確かに聞こえはいいが、意味をきちんと理解していなければ、有象無象のたくさんの企業が「我が社のサービスはAIを利用しています」と謳って近づいてくるだろう。何を買っているかも理解せず、ただFOMO(Fear of Missing Out:取り残されることへの恐れ)から買っていれば、厄介なことになるはずだ。

問題は、従来の典型的なマーケターが、現代的なマーケティングに向いていないことだ。逆に、現代のマーケターも、古典的な手法に強いわけではない。つまり2タイプのマーケターがいて、どちらも業務に完全に適任とはいえない。CMOがクリエイティブ出身で、数字や財政に疎いと、マーケティングへの投資が正当なものだと納得させるのに苦労する。

――なるほど。でもこうした問題の多くは、マーケティング予算の浪費が原因では?

ある程度の無駄な出費は常に存在する。どの程度なら許容範囲なのか? 無駄遣いの根絶というと高望みのようだが、浪費の原因は、不正広告、ボット、望ましくないサイト、ビューアビリティ(可視性)の問題、認証の問題などさまざまで、これ以上は許容できないという点がたくさんあるのだ。

――具体的には?

不正や詐欺の割合は、10%から40%まで、調査によって幅がある。私に言わせれば、不正の割合はゼロであるべきだ。予算のかなりの部分が中間業者に渡るという非効率性の問題もある。このやり方は、システム全体を管理するには効率が悪く、その解決はWFAの役目だ。

マスターカードの不正広告対策に関していうと、我々は信頼できるパブリッシャーと直接取引を行っている。ホワイトリスト、ブラックリスト、第三者認証も活用している。プログラマティックで広告が提示される場合でも、できるかぎりの対策をとっている。メディア企業との契約においては、我々の権利と、期待する透明性のレベルについて、詳細に明記している。我々はこうした部分をコントロールしているのだ。

――マーケティング部門にブランドセーフティとリスク管理を担う役職を創設したそうですね。

広告主は戦略を考え直すべき時だ。我々はブランド構築に膨大な時間と労力を費やしてきた。それを誇りに思っているし、顧客の信頼も得ている。こうしたブランドセーフティを危険にさらすことはできない。妥協は許されない。メディアにリスクがあると判断されるなら、そこには広告を掲載しないし、安全性のためならプレミアムを支払うつもりだ。

それに、社会への安全性も忘れてはいけない。マーケターとして、またチャンネルやチャンネルの所有者として、我々はみな社会に対し、デジタルを安全な場所にする責任を負っている。マーケティング関係者が集まって話すと、誰もが自分たちはできる限りのことをしているという。ソーシャルメディアは、これに関して説明し、行動する責任がある。彼らは役目を果たす必要があるし、我々は理屈のうえでの合意の段階からステップアップしなければならない。

Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)