かつてスーパーボウルのような大きなイベントの際に、さまざまなブランドで設けられた、リアルタイムマーケティングための「司令室」は、いまや過去のものとなってきた。
いま、ブランドは「司令室」に代えて、大きな出来事に限らない日々のリアルタイムデータを理解しようと戦っている。そんななか、ホテルグループのマリオット・インターナショナル(Marriott International)が欧州で戦端を開いた。
かつてスーパーボウルのような大きなイベントの際に、さまざまなブランドで設けられた、リアルタイムマーケティングための「司令室」は、いまや過去のものとなってきた。
現在、ブランドは「司令室」に代えて、大きな出来事に限らない日々のリアルタイムデータを理解しようと戦っている。そんななか、ホテルグループのマリオット・インターナショナル(Marriott International)が欧州で戦端を開いた。
ロンドンの欧州本社に、4カ所目となるソーシャルメディア指令センター「Mライブ(M Live)」を設置したのだ。同グループはこれまで、米国のメリーランド州とフロリダ州、そして香港にMライブを設けている。2017年に、最後のMライブがドバイにオープンすると、マリオットはすべてのタイムゾーンをカバーすることになる。
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「すべてを見る目」として
コンテンツプロデューサー2名、データアナリスト1名、グラフィックデザイナー1名からなるロンドンのチーム。マリオットのほかのフルタイム司令室と同様に、同グループ傘下にある19のホテルブランドのソーシャルチャネルを統括する。
ここから、トレンドの発見、特別なコンテンツの制作、マリオットのさまざまなブランドチャネルを横断するコンテンツの相互交流という3つの機能を提供するという。「すべてを見る目」として、マリオットが所有するサイトで使われている、もっとも人気のある絵文字のことから、レディット(Reddit)で流行っている話題の発掘まで、グループ内外のソースから集まるデータの「奔流」をふるいにかけるわけだ。
Mライブはまた、リアルタイムの成果を示す非公開のデータともつながっている。たとえば「マリオット・リワード」プログラムの登録人数を示すページだ。将来的には、コンテンツと予約の直接的な相関関係がわかる、専用のダッシュボードを用意することになっている。
トレンドに数時間で対応
「これまでは、キャンペーンが効果を挙げているのかを誰もが知りたいと思っても、レポートが届くのは2週間後だった。届いたときには、みんな次の任務に移っており、レポートはそのまま忘れ去られてしまう」と説明するのは、マリオット・インターナショナルでグローバルクリエイティブおよびコンテンツマーケティング担当のシニアディレクターを務めるマシュー・グリック氏だ。同氏は2015年にCBSから移ってきた。
Mライブのおかげで、マリオットは数時間もあれば、話題になっているコンテンツに便乗して既存のキャンペーンにアレンジを加えられるようになった。たとえば、Twitterやインスタグラムで流行している「ランニングマンチャレンジ(#RunningManChallenge)」に急遽対応し、ルネッサンス(Renaissance)ブランドの閲覧数を6万2000件以上にした。また、世界中のルネッサンスブランドのホテルが6月16日に実施するイベント「グローバル・デイ・オブ・ディスカバリー(Global Day of Discovery)」では、そのコンテンツをシェアしたTwitterで、4850万のインプレッションを獲得している。
マリオットはジオロケーションに対応しており、世界中に約4500軒あるグループ傘下のホテルがソーシャルメディアに投稿した内容を、ハイパー(HYP3R)という企業の技術を使って、すべて追跡することが可能だ。先述のイベント「グローバル・デイ・オブ・ディスカバリー」の期間中、ルネッサンスブランドのホテルはツールを利用しはじめてから、インスタグラムの会話が420%増加した。
グリック氏は、「当グループのブランドチャネルはどこも、コンテンツの種が毎日のようにある。それは懐中電灯がついたり消えたりしているようなものだが、我々はそうした懐中電灯を同時に点灯して、1本の光線にすることができる。その光線がお金をかけずに雑音を突破する」と語った。
フローチャートも大切だが
しかし、ロンドンの「Mライブ」は、マリオットのハブ・アンド・スポーク・モデルを構成する、ほかの拠点の単なるコピーにはならないだろう。他国のスタジオとは異なり、ロンドンには複数の言語を扱うという余分な課題が課されるのだ。ありがたいことに、各地のソーシャルチームがその地域の母語話者なのに対し、ロンドンに在籍するふたりのコンテンツプロデューサーは、複数の言語に堪能だという。
グリッチ氏が米国のワシントンD.C.に帰国した後には、オンラインで発生するさまざまなシナリオに、ロンドンのチームがどう取り組むべきかを説明したフローチャートがいっぱい詰まった膨大なバインダーが、残されることになるだろう。たとえば、マリオットの独立した危機管理チームに問題を報告する手順などだ。とはいえ、自然発生的な現象に対する対処法がたくさん用意されていると(かなり皮肉なことだが)、スタッフはその範囲内でしか動けなくなってしまう。
「会社からの指示に反しても、その地域特有のトレンドを中心に動けるくらい力をつけてほしい。こうしたものを地域に構築して、柔軟にやっていけるようにしなくてはならない」と、グリッチ氏は語った。
次世代の旅行者獲得に向けて
この「常にオン」を追求するマリオットの姿勢から得られる大きな見返りは、ミレニアル世代と呼ばれる次世代の旅行者たちだ。メディア企業(グリッチ氏がこの言葉そのものを使ったわけではないが)になるというマリオットの変化は、ひとつには従来とは違うチャネルで、若い利用者たちの動向を追うためだった。
「次世代の旅行者たちには、強制ができないし、商魂丸出しで接してもならない。ブランドを強く押し出すこともできない。そこら中をプロモーションで塗り固めることなく、楽しく魅力的なものになるように骨を折ってきた」とグリッチ氏。同氏によると、マリオットが頻繁にバイラルコンテンツを拡散させるのは、ソーシャルではそうすることを求められることを知っているからだという。
内製化するもうひとつの理由
マリオットがコンテンツを内製化するもうひとつの理由はコストの削減だ。これまでのところ、このプロジェクトの費用は、マリオットが以前にエージェンシーに使っていたのと同じ程度になっている。その意味では、マリオットにとって大きな投資ではない。また同社は、先述の「ハイパー」のようなシリコンバレーの新興企業と提携するための予算を確保している。
マリオットにはほかに、タイムズスクエアの看板などメディア資産の巨大なポートフォリオがある。さらにメディアエージェンシーのMECと共同で、さらなるインパクトを目指したキャンペーンを順調に展開している。
「メディア分野とソーシャル分野の専門家を社内に抱えて専念もらうほうがずっと効率がよい」とグリッチ氏は語った。
Grace Caffyn (原文 / 訳:ガリレオ)