米DIGIDAYは、3人のアドバイヤーと4人のプラットフォーム幹部に取材を行い、DSPは以下の3つのやり方で巧妙さを発揮していることを知った。1) 請求時に、決済価格を自社で独自に定義する、2) オーディエンスセグメントをこっそり追加して不透明な評価の格上げを行う、 3) インベントリーの鞘取りを行うだ。
なぞなぞをひとつ。売り手と買い手で値段の違う取引が成り立つのはどこ? 答えはもちろん、デジタルアドの世界だ。
売り手側のプラットフォームはこのところ、インベントリー(在庫)の再販や、パブリッシャーに対して公開されていない手数料を請求することで批判を浴びているが、プログラマティック価格設定の不可解さは買い手側にも及んでいる。アドバイヤーは、契約書の片隅に小さく書かれた細則によって、デマンドサイドプラットフォーム(以下DSP)に金を巧妙に搾取されている場合があるのだ。
米DIGIDAYは、3人のアドバイヤーと4人のプログラマティックプラットフォーム幹部にインタビューを行った。彼らによると、DSPは以下の3つのやり方で巧妙さを発揮している。1) 請求時に、決済価格を自社で独自に定義する、2) オーディエンスセグメントをこっそり追加して不透明な評価の格上げを行う、 3) インベントリーの鞘取りを行う。
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「料金体系はますます複雑になり、状況は悪化している」と、あるアドバイヤーは匿名を条件に語った。「プログラマティック企業に対するGoogleやFacebookの圧力が高まるなか、プログラマティック企業の多くが、『なんてこった、金がどんどん吸い取られていく。キャッシュフローを生み出す別の方法を考えなくては』といった心境に追い込まれている」。
不透明な決済価格:決済価格の一般的な定義は、公開オークションでの落札価格だ。しかし一部のDSPは、決済価格を自分たちに有利になるように定義し、アドバイヤーがその割を食っていると、あるDSP幹部は匿名を条件に語った。そのやり方では、DSPプラットフォーム内部でおこなわれるオークションでの落札価格が、公開オークションでのインプレッションの落札価格よりも、ときに高くなることを利用する。つまりDSPは、内部でおこなわれるオークションに基づいて請求を行うことで、差額を手にしているのだ。
公開オークションで入札を行う前に、DSPは自前のプラットフォーム上でオークションを実施し、最高入札額を決定する。そのあとDSPは、最高入札額だけを開示して公開取引を開始する(各々の取引について、すべての入札データを移転するのはDSPへの大きな負担になるため)。だが、多くの取引でセカンドプライスオークション(2番目に高い入札額が決済価格になる)方式を採用しているため、公開オークションの決済価格は、内部オークションの決済価格より安くなることがあるのだ。
たとえば、バイヤーがDSP内部オークションで10ドルで入札し、2番目に低い入札価格が9ドルなら、バイヤーは内部オークションで9.01ドルで落札できる。だが、公開オークションでの2番目に高い入札額が5ドルなら、決済価格は5.01ドルになる。このとき、DSPはインプレッションを5.01ドルで買ったことを報告せず、バイヤーには9.01ドルとだけ報告し、差額の4ドルをほとんどのアドバイヤーに知られることなく懐に入れるのだと、DSP幹部は説明する。
「多くのバイヤーは、DSPがどうやって利益を得ているのか知らない」と、あるDSP幹部は言う。「(全米広告主協会によって)エージェンシーの内情が明らかになり、ルビコン(Rubicon)対ガーディアン(Guardian)訴訟でサプライサイドプラットフォーム(以下SSP)にもメスが入った。だが、第2のガーディアンとしてDSPに挑もうとするブランドはまだいない」。
アドオンの値上げ:DSPは、プログラマティックバイイングに加えて、アドサービングやターゲティングなどの付加的サービスも提供している。しかし、これらのサービスからDSPがどれだけ利益を得ているかは不透明だと、プログラマティックプラットフォーム企業ハドルド・マシズ(Huddled Masses)のCEO、チャールズ・カントゥ氏は指摘する。
「あなたがあるDSPと、ブルーカイ(BlueKai)データセグメントの利用契約を結び、DSPが1.5ドルのCPMを請求することになったとする。このとき、ブルーカイが本当はDSPにいくら請求しているのかはわからない。DSPはブルーカイに1ドルしか支払っていないが、DSPが50セント上乗せしている可能性もある」と、同氏は言う。
匿名希望のあるアドバイヤーは、DSPが契約の文言を数語いじって、こうしたセグメントを挿入しようとすると証言する。「利潤(margin)」を「手数料(fee)」に変更することで、DSPはターゲティングに関する入札前コストを上乗せできるようになる。「メディアコスト(media cost)」のあとに「および(plus)」を付け加えることで、DSPはアドバイヤーに対し、「メディアコストおよびデータ」への対価を、それがどんなサードパーティデータであっても、支払うよう要求できるようになると、このバイヤーは話した。
インベントリーの鞘取り:DSPはときにSSPと結託し、これによってバイヤーが追加費用を払わされることがある。これは必ずしも不正とはいえないと話すのは、DSPとSSP両方のプロダクトを提供しているアップネクサス(AppNexus)の最高戦略責任者トム・シールズ氏だ。その理由は、SSPはパブリッシャーと組んで仕事をしているため、クライアントのインプレッションの質と量を熟知していることだ。SSPと直接提携を行うことで、DSPはインベントリーに関する詳細な情報を得ることができ、入札の重複を避けるのに役立つ。
DSPとSSPの直接提携のもうひとつのやり方として、SSPがプライベートマーケットプレイス(以下PMP)の取引をDSPに持ちかけ、DSPはパブリッシャーに報告するよりも高い価格をバイヤーに請求するというものがある。手数料そのものには問題はない。アドテク企業はサービスへの正当な対価を受け取るべきであり、PMPのおかげでバイヤーは、公開取引の場にあるブランドにとって危険なコンテンツ(ギャンブルやヘイトスピーチなど)を避けることができるからだ。こうした取引が問題なのは、PMPでの値上げがたいていバイヤーに通知されないことだと、あるDSPの元幹部は匿名を条件に語る。
匿名のあるSSP幹部は、SSPにも鞘取り問題があることを認めつつも、「一部のDSPでは鞘取りの関係が常態化している」と指摘する。こうした例では、DSPはかつてのアドネットワークのように、ただ包装し直すだけで手数料を要求していると、同幹部は言う。
DSPはさまざまなサービスを提供しており、手数料や価格設定は多様だ。米DIGIDAYがインタビューした4人のプログラマティックプラットフォーム幹部によれば、セルフサービスのDSPでは通常、手数料は決済価格の7~25%。管理サービスを提供するDSPでは25%が最低ラインになる。
米DIGIDAYがインタビューした3人のアドバイヤーは、営業ミーティングでDSPが提示する低い手数料率と、最終的にDSPが手にする高収益との乖離に腹を立てている。株式公開のあとで、ロケットフューエル(Rocket Fuel)の粗利益率は44%、チューブモーグル(TubeMogul)は66%と判明した。財務情報の公開義務のない、非公開DSPの利益率はさらに高いだろうと、バイヤーは疑いの目を向けている。
あるDSP幹部は、プログラマティックプラットフォームは、法的に可能な限り、利益を増大させなければならないというプレッシャーにさらされていると話す。プラットフォームはたくさんあり、相互にほとんど違いはないため、競争は苛烈だ。デジタル広告費の大半がGoogleとFacebookに費やされるという状況のなかで、売り上げを伸ばすひとつの方法が、策を張り巡らした契約を結び、DSPに戻ってくる金額を最大化することなのだ。
「デジタルメディアは複雑なプロセスだ。大勢が言うように、アドテクが特別荒稼ぎしているわけではない」と、匿名希望のあるアドテク幹部は言う。「しかし、その複雑さに加え、厳しい監督体制がなく、技術的側面が理解されていないことで、多くのベンダーが、言葉とは裏腹に可能な限り利幅を大きくする余地が生まれている」。
Ross Benes(原文 / 訳:ガリレオ)