マスターカード(Mastercard)など、有名企業のマーケティング統括責任者は、この困難な時期にあっても社員のモチベーション管理に妥協をしない。CMOの役割もまた、プロモーションやブランド構築から大きく拡張しており、雇用者と被雇用者の関係をより親密なものにするためのさまざまな取り組みが進められている。
マスターカード(Mastercard)やセレブリティ・クルーズ(Celebrity Cruises)など、有名企業のマーケティング統括責任者は、この困難な時期にあっても社員のモチベーション管理に妥協をしない。なかには、家庭で飼っているペットの犬をZoomコールに招待したり、アイスクリームのプレゼントといった斬新なアプローチを採用する企業も少なくない。
責任者は皆、パンデミックのさなかにあってこれまでの取り組みを再考するなど苦心しながらも、リーダーシップを発揮している。CMOの役割もまた、プロモーションやブランド構築から大きく拡張しており、雇用者と被雇用者の関係をより親密なものにするためのさまざまな取り組みが進められている。
今年、マーケティング統括責任者は、世界的に見ても過去最悪ともよべる危機のなかで、職場におけるソーシャルディスタンスやステイホームといった指針を遵守しつつ、事業を推進するという二重の課題に直面した。それだけにととまらない。チームの役割が移り変わり、重い負担が課されるなかで、自宅と職場で仕事をこなす社員の管理までも求められている。
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新型コロナウイルスの感染拡大により社会不安や精神的な負担が増大するなか、リーダーへの期待はかつてないほど大きくなっている。ソフトウェアメーカーのSAPでグローバルCMOを務めるアリシア・ティルマン氏は「今や管理職はカウンセラーとしての役割も求められるようになっている。行動する前に話を聞き、公私の両面でサポートしていく必要がある」と語る。ティルマン氏は、コロナ禍における優先事項のひとつとして、チーム内のコミュニケーションを毎週充実させることを挙げている。一人ひとりのメンバーの業務進捗管理だけでなく、人としての親密さを育むことも重要課題だ。時間の経過とともに、私生活に関するやり取りも増えていく。夏の休暇がどうだったかといった話や、SAPの最高医療責任者による健康のためのアドバイスなどだ。
午後5時以降は会議をしない
マスターカードのCMO、ラジャ・ラジャマナー氏は、感染拡大の初期段階で、各社員へ仕事を失う心配はないと伝えることから始めたという。
経営幹部には収益面で多大なプレッシャーがかかっていたが、解雇は選択肢にはなかったと同氏は語る。悪いニュースばかりの1年にあって、このニュースをチームに伝えられたのはラジャマナー氏にとっても安心できることだったと語る。「このような時にあってリーダーがまずなすべきことは、自分から、社員と積極的にコミュニケーションを取り続けることだ」と同氏は語る。「経営陣がどういった考えなのか、状況はどうなのか。良いニュース、悪いニュース、非常に悪いニュース、社員にすべて伝えるべきだ」。
ラジャマナー氏は、仕事環境を充実させるため、いくつかの方針を打ち出している。たとえば、午後5時以降は社員が家族や私生活に力を入れたいと考え、会議を実施しないことにした。同氏はさらに、まわりの人を説得させる方法といった、自助のために役立つ本を紹介するクラブも組織した。
アイスを全社員にプレゼント
サザビーズ・インターナショナル・リアリティ(Sotheby’s International Realty)のCMO、ブラッド・ネルソン氏は、チームとともに72カ国に展開する2万3000人以上の社員のサポートを行っている。同氏のチームは、これまで同社がクライアントに提供してきた体験を活用し、社員へのサポートやアドバイスを行っているという。
たとえば、7月4日(米独立記念日)に同氏のイベントチームは、バン・ルーウェン(Van Leeuwen)のアイスクリームを全社員にプレゼントした。今年のクリスマスシーズンは、プロの料理人を招き、社員向けのバーチャル料理教室を開催している。
今年、社員が精神的に落ち着かない理由のひとつがリモートワークだ。ほかの多くの企業と同様、サザビーズでもバーチャルオフィスが基本となっており、パンデミックの終息後も、リモートワークはある程度続くと考えられている。ネルソン氏は、これからリアルな職場環境が主に「コラボレーションのための空間」になると想定している。リモートワークにはメリットもあるが、デメリットも多いというのがネルソン氏の考えだ。「Zoomではフィードバックや人間関係の構築が困難だ」と同氏は語る。
会議に子供やペットの参加も
レブロン(Revlon)で新たにCMOに就任したマーティン・ウィリアムソン氏もまた、リモートワークにはまだまだ改善すべき点が多いとしている。「チームが直接顔を合わせて協力できないと、良い意味での化学反応が起きにくい」と同氏は語る。とはいえ、パンデミックによって、私たちのリアルな職場に対する考え方は根本的に変わってしまった。「これからの職場の構築を計画していくうえで、柔軟性と即応性がもっとも重要になっていく」と同氏は語る。
セレブリティ・クルーズ(Celebrity Cruises)のCMO、ピーター・ジョージ氏もまた、同じ部屋で仕事をすることで育まれた信頼関係や協力関係を惜しんでいる。そこで同僚同士の関係を保ち、士気を高めるため、同氏は毎月行われる部門の会議に、各社員の子供やペットを連れてきて良いことにした。
時間の管理はこれまでも常に課題だったが、今年はそれがより顕著となっている。スケジュールがZoom会議で埋めつくされることへの不満の声も大きい。さらには、Zoom会議では自発的な参加や情報収集が行いにくいことをジョージ氏は指摘している。
確かにSlackやMessengerといったツールは、同僚や上司とのつながりを維持するために重要な役割を果たしてきたのも事実だ。しかし同氏は金曜の午後は動画会議を禁止するなど、いくつかのコミュニケーション手法を禁じている。「金曜までに、すでに嫌というほどZoom会議を行っている。そこで昔ながらの電話会議を行うと、非常にリラックス効果が高い」。
[原文:The CMO as therapist Marketing chiefs take on more intimate workplace role in pandemic]
TONY CASE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)