経験豊かなマーケターたちは長年、高額なCM料金を払わずにスーパーボウルを活用してきた。自分のブランドにちゃんと注目を集められるのであれば、30秒のCM枠にわざわざ650万ドル(約7.5億円)払う理由はない。今、ブランドたちはメタバースやNFTなどを利用してスーパーボウル用の広告に取り組んでいる。
アメリカでもっとも注目を集めるスポーツイベントであるスーパーボウル(Super Bowl)は、マーケターたちにとって多くの消費者の注目を獲得するチャンスであり、その開催中に流される30秒のCM枠には高額な価格が付けられている。しかし経験豊かなマーケターたちは長年、高額なCM料金を払わずにスーパーボウルを活用してきた。自分のブランドにちゃんと注目を集められるのであれば、30秒のCM枠にわざわざ650万ドル(約7.5億円)払う理由はない。今、ブランドたちはメタバースやNFTなどを利用してスーパーボウル用の広告に取り組んでいる。
スーパーボウルのビール広告といえばアンハイザー・ブッシュ(Anheuser-Busch)の独壇場となっているが、同じくビールメーカーのミラー・ライト (Miller Lite) は、メタバース上のバーを使ってスーパーボウル関連の広告を展開している。アニマル・プラネット(Animal Planet)は、彼らが主催する「パピーボウル(the Puppy Bowl)」のNFTを提供。フランクズ・ホットソース(Frank’s Hot Sauce)は、「食べられる」NFTなるものを展開している。これら以外にも複数のブランドが、スーパーボウルのCM広告費を払わずに、メタバースやNFTを活用してスーパーボウル関連の広告を出し「スーパーボウル・ハック」を行なっている。このことは驚くにあたらない。
スーパーボウル・ハックは「多くの場合、新しいテクノロジーやプラットフォームを中心としており、そこでは人々の注目を集めることに大きなプレミアム費用を必要としておらず、かつブランドは先行者であることを示すPRと信用を得ることができる」と、米イノーシャン(Innocean USA)のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターであるボブ・レイバーン氏は言う。
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頼ることでリスクを伴うことも
その一方で、これらのブランドがスーパーボウルのアクティベーションにメタバースやNFTの実験を持ち込んだ功績を認められる可能性は高いものの、マーケターや広告代理店の幹部たちは、人々の注意を引くために新しいテクノロジーやプラットフォームに頼ることはリスクを伴うことも警告している。ブランド企業が持つパーパスとちゃんと結びついていなかったり、人々が与えるアテンションに対する何らかの報酬がなければ、この動きは、最新のトレンドに飛び乗るためのただの仕掛けにすぎないと認識される可能性もあるだろう。
ドイチェ・ニューヨーク(Deutsch New York)の副戦略ディレクターであるイーサン・レヒッチシャッフェン氏は「メタバースという新しい流りに飛びついているマーケターたちの取り組み方は、あるべき方向と真逆になっている。また、ウェブ3.0における存在感を構築しようとしているブランドのほとんどが、ブロックチェーンベースによる一時的な盛り上がりのなかで素早い成功を得ようとしているだけだ」と述べた。「それは、戦略代わりとしてのバズワードだ。地道に消費者の注目を獲得するのではなく、瞬時に注目度を優先する行為となっている」。
「現在、『メタバースに隣接した』取り組みに携わっているブランドは、どのような要素によってディズニーワールドが長年愛されるのかを考えるのではなく、ただ単にバーチャルなディズニーワールドを作ろうとしている」とレヒッチシャッフェン氏は付け加えた。
マーケティング担当者や広告代理店の幹部によると、今年のスーパーボウルの広告をハックするつもりなら、人気があるからというだけの理由でメタバースやNFTに飛び飛びつくのではなく、広告主は単なる見出しレベル以上に意味のあるものにする方法を見つける必要があるという。
「NFTやメタバースで鍵となるのは」
とはいえ、マーケティング担当者がその際に失敗するのは避けられないと考える人もいる。「ブランドが最初にマーケティング計画にソーシャルメディアを統合したときと同じように、本当に創造的で驚くべき体験がいくつか生まれる一方で、なかには失敗するものもあるだろう」とスラッシュMGMT(Slash MGMT)の共同ファウンダーで社長のジェイク・ウェブ氏は語った。「NFTやメタバースのプロジェクトで鍵となるのは、実用性と現実世界の価値とのつながりを生み出すことだ」。
ベルリン・キャメロン(Berlin Cameron)のソーシャルコンテンツ・ストラテジストであるペイジ・レイチック氏もこの意見に同調して、「スーパーボウル中に流れる面白いCMでなくとも、価値を与えれば人々は注目するだろう」と述べた。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU