オフィスの給水機の周りで行われる井戸端会議で、人々の話題になるようなイベントやニュース。現代のブランドは、そんな存在になるよう、ただ話題のものの周りに広告を表示するのではなく、自らが話題そのものとなることを求めている。 […]
オフィスの給水機の周りで行われる井戸端会議で、人々の話題になるようなイベントやニュース。現代のブランドは、そんな存在になるよう、ただ話題のものの周りに広告を表示するのではなく、自らが話題そのものとなることを求めている。
もちろん、ますます断片化し、政治的に分断されたメディアとマーケティングの今日の状況では、そのようなチャンスを掴むことが一層困難になってきている。しかし、それこそがウェンディーズ(Wendy’s)やペプシ(Pepsi)などの一部のブランドが、バッド・バニーやT‐ペインなどのミュージシャンとの深いパートナーシップを視野に入れている理由かもしれない。
ミュージシャンやセレブとのコラボは消費者との繋がりを助ける
マーケターやエージェンシーのエグゼクティブたちは、「2022年春にタコベル(Taco Bell)とドージャ・キャットのコラボレーションによる大成功を見て、多くのブランドが同じようなコラボレーションを求めるようになったのだろう」と話している。
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このほど、ペプシはバッド・バニーとのコラボレーションを発表し、ウェンディーズはT-ペインと提携してブランドにさらなるカルチャー面でのパワーを加えた。
「ミュージシャンやセレブとコラボをすることで、ブランドたちは潜在的にさらなる注目を集め、テレビCMのような何かを中断するようなかたちで、注目を得る広告を減らすことができる」とエージェンシーのエグゼクティブたちは言い、ブランドは消費者、とくに若い層とより深く、嘘のないアプローチでつながる手段を求めているという。
「ブランドは夕食の会話の一部になりたい。それがブランドにとっての究極のかたちだ」と、クリエイティブエージェンシーのザンベジ(Zambezi)で戦略責任者を務めるマット・ババザデ氏は述べ、セレブとのコラボレーションでは、ただCMにセレブが登場する以上の何か特別なものを提供したい旨を説明した。「ただカルチャーに便乗するだけでなく、消費者と繋がること。それがブランドが求めていることだ。セレブはそれを実現するのを助けることができる」。
「音楽」が重要な要素に
たとえば、バッド・バニーとT-ペインとブランドのコラボレーションは、具体的な経験を提供する。バッド・バニーとペプシは消費者に無料のAppleミュージック(Apple Music)を提供し、T-ペインとウェンディーズは同社の新しいフローズンヨーグルト商品をアピールするためにリミックスしたT-ペインの「Buy U A Drank」(T-ペインの代表曲のひとつ)を作り、キャッチーな音楽を使って商品と絡ませながら思い出を甦らせる手法をとっている。
「音楽は、休眠状態にあった思い出を呼び覚ましてくれる」と、クリエイティブおよびメディアエージェンシーのカーマイケルリンチ(Carmichael Lynch)でソーシャル戦略ディレクターを務めるケイティ・テネロヴィッチ氏は述べた。「ミュージシャンとのコラボレーションを正しく行って人々の耳に残るものを作り、人々が口ずさんだり歌ったりするような現象になれば、ブランドがカルチャーに浸透する手助けとなる」。
だが、そのカルチャーへの浸透は、単にアーティストから曲のライセンスを取得したり、マーケティングキャンペーンでの出演を取り付けたりするだけで起こるわけではない。たとえば、ドージャ・キャットにタコベルのテーマ・メロディ(ジングル)を作らせたり、トラヴィス・スコットにマクドナルドの新規メニューを作らせたりすることで、ブランドはアーティストとのパートナーシップを深めている。それらは全て、「彼らが求めているブレイクスルーの瞬間を手に入れるためだ」とエージェンシーのエグゼクティブたちは言う。
一方で、「セレブや音楽アーティストによる最小限のエンドースメントの(レベル)を超えている」と、ワンダーマン・トンプソン(Wunderman Thompson)の音楽とオーディオ制作部門のエグゼクティブディレクターであるポール・グレコ氏は話す。「今、(アーティストたち)は創造的なプロセス全体にますます関与している。それはもっと大きなアイデア、もっと大きな参加を意味している」。
このほか、「マーケターたちはTikTokの台頭により、『音楽』という要素が近年ますます重要になったと考えており、ミュージシャンや音楽アーティストとの作業を優先している」と、クリエイティブエージェンシーのノーフィックスドアドレス(No Fixed Address)でストラテジストを務めるカス・サーヴィ氏は語る。「音と音のリミックスは、人々がソーシャルメディアと関わる方法にとって極めて重要となった」。
コラボによるリスクは承知の上
それにもかかわらず、カルチャー浸透のためにアーティストと深いパートナーシップを結ぶことはリスクを伴う。「安全な賭けと、(それ以外の)賭けがある」と音楽ライセンス企業ミュージックベッド(Musicbed)のCEOであるダニエル・マッカーシー氏は述べ、アディダス(Adidas)が最近カニエ・ウェストとのパートナーシップで問題を抱えていることを例に挙げた。「ブランドの個人的な意見や信念は、アーティスト個人の発言や意見には反映されないと言いたいものの、生きている人間とブランドを結びつけるのは危険なことだ。たいていの場合は上手くいくが、報われないこともある」。
ただし、マーケターやエージェンシーのエグゼクティブたちは、そのリスクを持ってしても価値はあると言う。ブランドマーケティングエージェンシーのザ・リバイバル・ハウス(The Revival House)のマーケティングオペレーション責任者であるジャレッド・スコット氏は、その理由を「音楽は(消費者との)繋がりをもたらす素晴らしい導線だからだ」と表現する。「消費者とブランドを結びつけ、雑然とした状況で頭ひとつ飛び出すのを助けることができる」。
また、「ブランドが自分のオーディエンスをしっかりと理解できていれば、適切なアーティストとコラボレーションをすることで、彼らが消費し共有する価値があると感じられるコンテンツを作り出せる。(ドージャキャットによる)2分間のジングルが成功したのはそのためだ」と、独立系エージェンシーのVIAでエクゼクティブクリエイティブディレクターを務めるテディ・ストックレイン氏は述べる。「それはブランド、アーティスト、そして最終的には消費者にとってよりよいものだ。もっとドージャ・キャットを……ではなく、タコスを注文したくなる」。
Kristina Monllos(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)