マーケティング担当者は、個人情報と引き換えに消費者に何かを提供することで、自社データを強化する方法を模索している。この動きはサードパーティCookieが崩壊に向かっていることと、プライバシー規制の進化が進行していることにより、人々にパーソナライズされた広告を提供することが難しくなっていることが背景にある。
マーケティング担当者は、個人情報と引き換えに消費者に何かを提供することで、自社データを強化する方法を模索している。この動きは、Googleが何度も先延ばしにしているものの、サードパーティCookieが崩壊に向かっていることと、プライバシー規制の進化が進行していることにより、人々にパーソナライズされた広告を提供することが難しくなっていることが背景にある。
先週の全米広告主協会メディアカンファレンスで、プロクター・アンド・ギャンブル(Procter&Gamble、以下P&G)の最高ブランド責任者であるマーク・プリチャード氏は、パンパース(Pampers)ブランドの社内エージェンシーが、おむつ購入をするまもなく親となる消費者たちに向けて、商品情報と懸賞や割引を得られるパンパース・クラブ(Pampers Club)への入会を奨励していることを詳細に説明した。パンパース・チームは、妊娠が分かった消費者がオンラインで赤ちゃんの出産予定日を検索した場合に表示される「パンパース出産予定日計算機(Pampers Due Date Calculator)」や、「赤ちゃんの名前ジェネレーター(Baby Name Generator)」などのツールを開発した。
「消費者とのやりとりが価値を生む」
「消費者とのこういったやりとりを持つことが、価値を生み出し、その結果、子供を持つ消費者たちが当社とデータを共有し、またパンパースを購入するための信頼と意欲を生み出す」とプリチャード氏は用意された声明で述べた。「パンパース・クラブにより、おむつをつけた赤ちゃんを持つ親の50%と直接関わることができるようになった」。
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プリチャード氏によると、パンパースの社内メディアチームは「親から提供されたファーストパーティデータを透明性の高い手法で収集し、活用することでモデルを変革」し、それによって「妊娠から赤ちゃんの発達のあらゆる段階に至るまで、親と1対1の信頼関係」を構築していると言う。
業界のファースト・ムーバーとして知られるP&Gだけが、ファースト・パーティのデータ能力を強化し、効率性とオーディエンスの詳細を見出そうとしているわけではない。広告代理店の幹部たちによると、マーケティング担当者はこの2年間、自社データ機能についての質問を投げかけ続けてきたが、絶え間なく変化するプライバシー規制を巡る状況が、ターゲティング機能を混乱させ続けていることから、ここ数カ月はその傾向が強まっているという。
ファーストパーティデータに価値があるか?
VMLY&Rの最高アナリティクス・データ責任者であるエリック・ビーン氏は「彼らは疑問を投げかけている」と述べている。「ファーストパーティデータに価値があるかどうかを確認するための会話が行われている。これにROIはあるのか。そのROIは、自社データがない場合に見られるものを上回っているのか。短期なのか、長期なのか。急いで導入する必要があるのか、それともゆっくり計画に向かって進ませる類のものなのか」
マーケティング担当者はこういった疑問を投げかけているが、ファーストパーティのデータ機能に投資することは、すべてのブランドにとって意味があるわけではない。代理店の幹部によると、消費者向けパッケージ商品のような特定のカテゴリーでは、通常、顧客に関するデータがそれほど多くないため、サードパーティーのクッキーがなくなるまでに1対1の関係を構築することが、より重要になる可能性が高いという。
独立系エージェンシーであるノー・フィックスド・アドレス(No Fixed Address)のCX・1:1部門のエグゼクティブ・バイスプレジデントを務めるプリヤンカ・ゴスワーミ氏は、より多くのファーストパーティデータを取得する現在の流れは、「消費者の名前とメールアドレスを取得するだけ」以上のものでなければならないと説明した。ブランドは「消費者の生活において果たすことのできる役割を見極める」必要があると同氏は述べ、「(消費者とブランドの間で)価値の交換が必要である」と付け加えた。
「これは投資だ」
ザンベージ(Zambezi)の統合戦略ディレクターであるナタリー・ゴメス氏は、こういったパンパースの自社データ収集に対するアプローチに加えて、ブランドは消費者が自ら選択して「プロモーション、インセンティブ、割引、情報、教育、娯楽」を受け取る機会を与えることもできると述べ、さらに「提供する価値にはさまざまな形や形式がある」と付け加えた。
イプシロン(Epsilon)のメッセージング担当マネージングディレクターであるカラ・トリヴュノヴィッチ氏によると、マーケティング担当者たちは「これを活用して、顧客が将来どのような(さらにマージンの大きな商品)を購入しようとしているかを理解するために、どのように顧客と会話を持つことができるか」という問いを持っているという。「この(商品が提供する利益)マージンは、このレベルの取り組みを正当化するものなのか」。
「これは投資だ」とビーンは言う。「ただスイッチを入れ、ウェブサイトにフォームを入力すれば完了だ、といった具合にはならない。考えなければならない追加のインフラはたくさんある」。
Cookieなき時代を想定する
たとえこの投資が、すべてのブランドにとって適切ではないかもしれないとしても、サードパーティCookieが本当に消えてしまった時を考えると、ファーストパーティデータを理解することは彼らに利益をもたらすだろう、と代理店の幹部たちは述べている。
「今うまくやっている企業は、過去2年間、そして今も計画を立ててきた企業たちだ」とビーン氏は述べた。「完全な形でアクションを起こしてなかったとしても、(消費者と)会話をしていたクライアントたちは、傍観して待っていたクライアントよりも良いい立場に立つだろう」。
Kristina Monllos(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)