人気シリーズ『セックス・アンド・ザ・シティ(Sex and the City)』の続編のワンシーンでプロダクトが注目を集めたペロトン(Peloton)は、出演していた俳優のクリス・ノースを起用した広告をすぐさま出してバイラルとなった。しかしこの話題となった広告は掲載されてわずか4日で、掲載中止となった。
人気シリーズ『セックス・アンド・ザ・シティ(Sex and the City)』の続編のワンシーンでプロダクトが注目を集めたペロトン(Peloton)は、このシーンに出演していた俳優のクリス・ノースを起用した広告をすぐさま出してバイラルとなった。続編が放送されてから48時間での迅速な対応が広告業界で称賛され、話題となっていた。しかしこの広告は掲載されてわずか4日で、掲載中止となった。2人の女性がこの俳優を性的暴行で訴えたとするハリウッド・レポーター(The Hollywood Reporter)の報道を受けての決定だ。
広告は消えたが、このことが広告全般へ与える影響はまだ不明で、多くの疑問が浮き彫りとなった。リスク回避的で動きの遅いことで知られる広告主たちの動向は、これによって変わるのだろうか。カルチャーと足並みを合わせて(それが何を意味するのかはともかく)迅速に動こうとする流れは止まるのだろうか。今回のような、話題に迅速に対応して制作される広告形態はあまり受け入れられなくなるのだろうか。広告主たちは広告に起用する有名人をもっと注意深く審査するだろうか。ペロトンはペプシ(Pepsi)騒動の繰り返しになるのだろうか。
話題反応型の広告における代償
もう数年が経つが、誰もがケンダル・ジェンナーを起用したペプシの広告とそれに伴う論争を覚えているだろう。広告業界にいたことのある人なら、ペプシの広告を一種の「ダメな広告の好例」として使っているのを耳にしたことがあるはすだ。論争の余波のなかで、多くの人が広告主が持つ自社クリエイティブチームが問題である理由の例としてこのペプシ広告に言及した。その理由は、プロダクトと広告制作のあいだに十分な距離がない、制作に携わる人々が十分に客観的でない、などだ。
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ペプシのCMと同じような「教訓」にペロトンがなるかどうかは不明だ。あるエージェンシーのエグゼクティブは、マーケターたちはこの広告の結果、起用タレントのより徹底した審査プロセスを必要とするかもしれないと考えている。「有名タレントを起用するたびに、膨大な数の審査が行われる」と、このエグゼクティブは述べ、審査には通常48時間から2週間かかると付け加えた。「今回の件により、審査のスピードがさらに速まり、12時間で審査を完了するビジネスを誰かが立ち上げるかもしれない」。
また、今回のような話題反応型の広告の勢いを少し弱める結果になるかもしれない、と考える業界人たちもいる。今回のペロトン広告に携わったエージェンシーは、俳優ライアン・レイノルズの制作会社かつデジタルエージェンシーのマキシマム・エフォート(Maximum Effort)であり、同社は話題反応型の広告で知られている。この形態の広告では、カルチャーにおける話題に反応するためには非常に短い時間しかなく、そうすることはより大きなリスクを伴う、とあるエージェンシーのクリエイティブは説明した。
「リアルタイム(この場合は48時間以内に完全なコマーシャルを制作した)での話題反応型・広告制作は、あらゆる側面から熟考されることなく何かに飛び込むリスクがある」と同氏は言う。「6週間の制作準備期間がある撮影と比べたときに、(リアルタイムの制作では)同じレベルの事前調査を行っていない。それは必ずしも悪いことではない。しかし、リスクではある。(リスクに応じた)報酬として関連性、ニュース性、バズが高まる」。
一部の人々は、そのリスクと潜在的なコストを考慮したときに、その値打ちがあるとは考えていない。
「こうした失敗は予想できない」
「デジタル業界は猛烈なスピードで動いており、企業はそれにペースを合わせようとプレッシャーを感じるべきではない。成功する企業も存在する一方で、それよりもはるかに数多くの企業が失敗をする。デジタルの速度で移動するには、いくつかのステップをスキップする必要があり、それにはコストが発生することがある」と、セイリエントMG(SalientMG)のファウンダーでCEOのマック・マッケルビー氏は言う。
マッケルビー氏は続けて、「私はライアン・レイノルズ氏と彼の広告業界へのアプローチの大ファンであり、このような失敗は誰も予想できなかっただろう。しかし、マーケティングチームが包括的な計画、調査、テストを採用するのには理由がある。これは(広告制作において)必ずしも数カ月の遅れを意味するわけではないが、カルチャー面での話題性を生み出すか、事故的な失敗によるコストが発生するかの違いとなるかもしれない」と述べた。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)
Illustration by IVY LIU