GARMとANAは9月第4週、ペルノ・リカールと協力して、中小企業だけでなく、ブランドやソーシャルプラットフォームとも連携しながら、オンライン上のヘイトスピーチに対抗していく取り組みを拡大していくと発表した。米DIGIDAYはANAのCEO、ボブ・リオダイス氏に話を聞いた。
昨年10月、ペルノ・リカール(Pernod Ricard)のCMOであるパム・フォーバス氏は、オンライン上のヘイトスピーチを抑制することを目的とした新しい取り組み、「#EngageResponsibly(責任を持って会話しよう)」を発表した。
そのとき、同氏が米DIGIDAYに語ったところによると、この取り組みは「責任あるメディアのための国際同盟(Global Alliance for Responsible Media:GARM)」と「全米広告主協会(Association of National Advertisers:ANA)」が支援したもので、昨年7月Facebookに対する広告主のボイコットが最初に行われたときの勢いを維持するための手段だった。この取り組みの目的は、ヘイトスピーチに関するデータをオンラインで収集し、マーケテターたちが広告支出をどこに投入するかを十分な情報に基づいて決定できるようにし、最終的にはブランドが共同で主導する非営利の取り組みを立ち上げることだった。
GARMとANAは9月第4週、ペルノ・リカールと協力して、中小企業だけでなく、ブランドやソーシャルプラットフォームとも連携しながら、この取り組みを拡大していくと発表した。米DIGIDAYはANAのCEO、ボブ・リオダイス氏に話を聞いた。
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以下、会話は読みやすさのために編集を加えて、要約されている。
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――取り組みの拡大に意義を与えるような、「#EngageResponsibly」のこれまでの成果は何か?
オンラインでのヘイトスピーチとの戦いはムーブメント/運動であり、一瞬の出来事/モーメントではない。このムーブメントを生み出すための基本的な最初のステップは、業界のリーダーを招集し、ビジョンと計画に沿って行動し、啓発の最初のフェーズを設計することだった。これらの最初のステップについては、9月21日に発表された。
基盤が整った今、参加する組織や人々の動員と取り組みの構築段階にある。これには、中小企業と消費者のためのNGOや組織への働きかけ、公約の発行と大手ブランドの関与、そして啓発キャンペーンを通じた「#EngageResponsibly」の展開などが含まれる。同時に、GARMはNGOと協力して、ヘイトスピーチとその蔓延に対する対策を確認している。これを通じて、あらゆる取り組みの中心に、確実に消費者と中小企業のニーズを据えようとしている。
――なぜ今拡大しようとするのか?
オンラインのヘイトスピーチは仮定上の問題ではない。ソーシャルメディア上では毎日何千ものヘイトに満ちた発言が行われている。ADLによると、米国人の35%が、人種、宗教、または性的アイデンティティによるオンライン上のヘイトを経験している。GLAADの最近の報告によると、LGBTQソーシャルメディアユーザーの64%という驚くほど高い割合が、嫌がらせやヘイトスピーチを経験している。
広告主として、私たちは人々にソーシャルプラットフォーム上で私たちとエンゲージメントを持つように頼んでおきながら、そこで経験するかもしれないヘイトに対する責任を放棄することはできまない。しかし、私たちだけではこの問題を解決できないことも分かっている。それが、私たちが「#EngageResponsibly」を構築した理由だ。大手ブランド、プラットフォーム、中小企業、消費者、そして彼らの声を代表する組織など、すべての主要な利害関係者が、2025年までにオンラインでのヘイトを大幅に減らすためのそれぞれの役割を果たすことができるようにするのが目標だ。
――この取り組みを拡大するとは、実際にはどのよう形を取るのか。マーケターにツールのようなもの、ヘイトスピーチを抑制するための最善の慣習を提供するのか?
「#EngageResponsibly」の取り組みを業界全体に広げることで、大手マーケターやプラットフォームのパワーとリーチを活用し、中小企業や消費者がよりオンラインのヘイトスピーチと戦う取り組みに参加できるようになる。この取り組みは、マーケター、中小企業、消費者が行動を起こし、目に見える形での変化を生み出すためのツールを提供する。
あらゆる規模のマーケターにとって、「#EngageResponsibly」に参加することは、彼らが消費者と関わるソーシャルメディアの環境の安全性と包摂性(インクルーシビティ)を高めるための重要なチャンスとなる。ANAの「インクルーシブ(包摂的)かつ多文化的なマーケティング同盟(Alliance for Inclusive and Multicultural Marketing:AIMM)」の主導の下、あらゆる規模のマーケターやブランドが、2025年までにオンラインのヘイトスピーチを大幅に減らすという公約に署名することができるようになる。マーケターは、オンラインのヘイトスピーチに対抗するための公約を実行するためのツールキットを受け取る。これには、ブランデッドキャンペーンを通じて消費者や中小企業のエンゲージメントを最大化するためにどうやって「#EngageResponsibly」のツールやメッセージングの拡張すれば良いか、といったガイダンスも含まれる。中小企業には、GARMが策定した「責任あるマーケティングガイドライン」を満たすためのツールやリソースも提供される。多くの大手企業が、導入が容易かつコスト効率に優れた方法でこのガイドラインに従っている。
消費者の行動を喚起するために、「#EngageResponsibly」は責任あるオンラインでの会話を推進する方法について人々に教育する。どうやってヘイトかどうかを見分けるか。プラットフォームが提供するツールを使ってオンライン上のヘイトをいつ、どのように報告するのか。といった点が啓発される。大手ブランドは、この取り組みを拡大する上で大きな役割を果たしている。
――「#EngageResponsibly」の目標は、オンラインのヘイトスピーチに関するデータを収集し、マーケターが広告費をどこに使うかについて十分な情報に基づいた決定を下せるようにすることのようだ。しかし同時に、この取り組みは、ヘイトスピーチが起こるプラットフォームと同じプラットフォーム、ヘイトスピーチが原因でマーケターたちが広告支出を撤退するプラットフォームで展開することになるだろう。(結局、問題を生んでいるプラットフォームを活用している)この点が興味深い。取り組みの目標が変わったのか、それともプラットフォームのヘイトスピーチ対処について、マーケターたちの発言力が増えたということなのか?
私たちは、ソーシャルプラットフォームが、オンラインのヘイトスピーチの拡散という点では問題の一因であることを認識している。しかし、この問題は広範囲にわたる複雑なものであり、単一の機関や業界だけでは対処できない。2025年までにオンライン上のヘイトスピーチを大幅に減らすには、重要な関係者それぞれが積極的に集団行動を起こすために、全員参加のアプローチが必要だ。そのため、「#EngageResponsibly」の目標は、NGOや団体とともに、ソーシャルメディアプラットフォームや大手ブランドの力とリーチを活用し、教育や行動を通じて中小企業や消費者のエンゲージメントとエンパワーメントを行うことにある。
――ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)は、Facebookに関する新たな調査情報を発表した。マーケターたちはこの調査内容についてどう考えているのだろうか、そしてこの新しい取り組みがFacebookやインスタグラムでのこうした問題に対処するのに役立つのだろうか?
「#EngageResponsibly」の目標は、2025年までにオンラインのヘイトスピーチを大幅に減らすことだ。誰がどのようなコンテンツを利用できるのかという問題、またアルゴリズムの透明性の問題は、同取り組みに関わっている広告主だけでなく、多くの業界関係者にとっても懸念事項だ。GARMを通じて、業界は市民社会グループとの対話や活動を拡大し続け、すべてのユーザーにとって安全で包摂的なソーシャルメディア空間を確保するための様々な課題に取り組んでいる。
KRISTINA MONLLOS(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU