マーケター勢はポストコロナ時代におけるオンラインとオフラインの両経験間の溝を埋める術を探っている。そんななか、多くのマーケターはいわゆるパラレルワールド(代替現実)への投資による大きな見返りを期待している。
マーケター勢はポストコロナ時代におけるオンラインとオフラインの両経験間の溝を埋める術を探っている。そんななか、ランジェリーのCUUPやスキンケアのTULA(トゥーラ)といったD2Cから、食品飲料大手ネスレ(Nestlé)や化粧品/スキンケア大手エスティローダー(Estée Lauder)といったレガシーブランドに至るまで、多くのマーケターはいわゆるパラレルワールド(代替現実)への投資による大きな見返りを期待している。
たとえばネスレは、ARマーケティング企業カメラIQ(Camera IQ)と組み、Snapchatおよびインスタグラムにおいて、40以上の商品のマーケティングにARを活用している。最近では、頭を動かしてキットカットゼブラ(Zebra)を半分に割れる、インスタグラムおよびFacebook用のフィルターを作成した。
ARおよびVRを利用したマーケティング策が新しい、と言いたいわけではない。コロナ禍により、多くの人々のオンライン時間が半強制的に増えるなか、ソーシャルコマース競争に勝利するべく、複合現実(ミックスドリアリティ)を見直すブランドが増えているのだ。
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「消費者行動は大きく様変わりした、もう元には戻らない。たとえば私を含め弊社の人間は、実世界のなかに入っていくときでさえ、弊社のカメラのレンズを通じて生き、カメラのレンズを通じて自己表現をし、体験や感情を共有している」とカメラIQのCEO兼共同創業者で、ネスレを担当するアリソン・フェレンシー氏は語る。「ブランドの参入機会は今後増える一方だろう」。
一気に下がる参入ハードル
代替、仮想、および複合現実市場は、統計市場調査プラットフォーム、スタティスタ(Statista)によれば、2021年度末までに307億ドル(約3.3兆円)に達し、2024年までに3000億ドル(約33兆円)に跳ね上がることが見込まれている。加えて、メタバースの成長もある。それに鑑みれば、ブランド勢が同機会の積極的活用を望んでいる事実は、マーケティングおよび広告業界幹部にしてみれば、驚くことではない。
AR/VRのこの動きは、あらゆる新テックのそれと同じだと、クリエイティブエージェンシー、R/GAの米プロダクトプロダクション部門でグループプロダクションディレクターを務めるエリック・ビー氏は指摘する。「徐々に民主化されて、一般の人々も使えるようになっていく。その閾値を超えると、新プラットフォームへの参入のハードルが一気に下がる」と氏は言い添え、AR/VRテクノロジーは今まさにその段階にあると示唆する。
このAR/VRゴールドラッシュの基盤となっているのが、テックへの精通を目指す広告業界の積極的な姿勢だ。「広告業界がそうすれば、ブランド勢もそれに倣い、次の展開に備える。つまり、AR/VRやメタバースでは止まらない、ということだ。テックという道では、今後も常に何かが起きることになる」。
「もっとも容易にもぎ取れる果実」
ただ、当然ながら、すべてのブランドが本腰を入れているわけではない。たとえば、ソーシャルメディアのフェイスフィルターやマイクロサイトの実験は「もっとも容易にもぎ取れる果実」だと、バーチャルイベント用のテクノロジープログラム/プラットフォーム、アクティブ・セオリー(Active Theory)/ドリームウェーヴ(Dreamwave)のインタラクティブディレクター、マイケル・モデナ氏は指摘する。
「フィルターはメタバース界という未知なる闇のなかに、ブランド勢が扉の隙間から最初に差し込める、もっとも細く、もっとも微かな光のようなものだ」とモデナ氏。テックマーケティング界への一歩を踏み出すブランド勢は、これを広告と捉えず、むしろコミュニティを創り、そのカルチャーに加わるという考え方で臨むことが重要だと、氏は助言する。
「それこそが究極の勝利となる――既存の枠を超越した瞬間のことだ」とモデナ氏。「これは広告ではない。イベントでもない。人々が生活のなかで体験する、そして決して忘れることのない文化的瞬間だ」。
KIMEKO MCCOY(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU