ソーシャルメディアで過激なコメントやコンテンツを投稿し、そのギリギリの限界に挑むブランドたちの存在はいまに始まった事ではない。しかし、ますます混み合うソーシャルメディアの世界で、広告主たちが目立つ方法を探すにつれ、この過激なマーケティング戦略は近年ますます一般的になってきていると業界の専門家は言う。
ソーシャルメディアで過激なコメントやコンテンツを投稿し、炎上ギリギリの限界に挑むブランドたちの存在はいまに始まったことではない。しかし、ますます混み合うソーシャルメディアの世界で、広告主たちが手っ取り早く目立つ方法を探すにつれ、この過激なマーケティング戦略は近年ますます一般的になってきていると業界の専門家は言う。
ソーシャルメディアの専門家たちは、この戦略がどれだけの価値をもたらすかについて複雑な感情を抱いている。バイラルをもたらし売上を高めてくれる可能性もあれば、逆にブランドをキャンセルする声を集めてしまうことになり悪評を作ってしまう可能性もある、ハイリスクな戦略だと彼らは指摘する。
スニッカーズ(Snickers)の性的なニュアンスをあえて入れたツイートもあれば、スポーツイベント中の急な停電を逆手に取ったオレオ(Oreo)の有名な「暗闇でダンク(Dunk in the Dark)」のツイートもある。だが、限界を攻める挑戦が一線を超えてしまい、世間からの反発を受けることになったらどうなるだろうか。
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ブランドたちが学んだ教訓
これは5月第3週、言語学習アプリのデュオリンゴ(Duolingo)が学んだ教訓だった。ジョニー・デップとアンバー・ハードの名誉毀損裁判について同ブランドのアカウントが、TikTok上にアップされた動画にアンバー・ハードを茶化すようなコメントしたことで家庭内暴力を軽視する不謹慎な投稿だと批判を浴びた。
この反発は、ブランドの安全性に関する議論、そしてエッジーでバイラルなコンテンツを作る上でブランドがすべきでないこと、に関する議論を直ちに再燃させた。デュオリンゴはこの騒動に関してまだ公式にコメントを出していない。
ビールブランドのパブスト・ブルー・リボン(Pabst Blue Ribbon)もまた今年、性的に露骨なジョークをTwitterに投稿し、似たような状況に陥った。
ソーシャルマーケティングエージェンシーであるモディフライ(Modifly)の有料広告部門を率いるブランドン・ビアンカラーニ氏は、「私が興味を持っているのは、こうした試みが最終的にどのような方向を目指すのか、という点だ。(ブランドが尖ったソーシャル運営をすることが)ドミノ効果を生むのか、それとも一歩下がって(中略)全体的な製品価値とブランドのユニークさに焦点を当てるのか」と述べた。
「それは失敗に終わるだけだ」
どんな注目のされ方でも「いいPRだ」と主張することもできるが、専門家たちは混沌とした状況に対する正当なアプローチは存在するはずで、一部の話題はソーシャルマーケティングにおいて避けるべきだという。IMGNのブランド戦略責任者であるノア・マーリン氏は、「悲劇的な事件や事故に関しては何であれ、気軽にアプローチするべきではない。なぜなら、それは失敗に終わるだけだからだ」と述べ、ソーシャルメディアを活用するすべてのブランドに警告を発した。
だからといって、ブランドが自分たちや消費者にとって重要な問題に関しても言及できないわけではない。だが、これはそのブランドがそのトピック・社会事象にちゃんと取り組んできた歴史がある場合にのみ機能すると、マーリン氏は付け加えた。「もうひとつの危険は、ブランドがそのトピック・社会事象を乗っ取って、自分たちがその中心にいるかのように振る舞うことだ」と彼は言った。
ソーシャルメディアの専門家たちは、これらは多くの場合、ハイリスク・ハイリターンなレスポンスマーケティング行為だと捉えている。競合の多い広告業界では、ブランドは常に混み合った雑音から頭ひとつ飛び出そうと努力しており、その日の話題をさらうために、カルチャー面で注目を集めている事象を利用することが多い。しかし、専門家によると、今日の極度に二極化した社会では、成功させるのは難しいという。
「(試みが失敗した場合も)ブランドは最近はほとんど謝罪をしないようだ。ほとんどの場合、犯した失敗を傍観するか、削除して待つしかない」とビアンカラーニ氏は言い、消費者はこれまで以上に高い基準でブランドを注視していると付け加えた。どうやらブランドに与えられた選択肢は、安全策をとって余計なことをせず、バイラル化の可能性を排除するか、あるいはバイラルから得られるメリットを狙いつつ炎上のリスクを取るかのどちらかのようだ。
炎上は業界についてくるもの
メカニズム(Mekanism)のパートナーで最高ソーシャル責任者を務めるブレンダン・ガーン氏は、「我々は怒りのポルノ(outrage porn)の時代に生きて」おり、炎上はこの業界についてくるものだ、と取材に対してEメールで回答した。
同氏によると、炎上ギリギリを狙う戦略はソーシャルにおいて「自由に攻める」コンテンツで知られるデュオリンゴなどのブランドには有効だという。そして、その戦略で獲得できる消費者オーディエンスが存在する限り、ブランドや広告主は、意識的であれ無意識であれ、ソーシャルの内容について限界を押し広げ続けるだろう、と彼は付け加えた。
何か失敗や炎上が起きたとしても、多くの人がその「失敗」を覚えているとは考えにくいとガーン氏は言う。大局的に見ると、デュオリンゴなどのソーシャルで際どい投稿をしている企業への反発は最小限にとどまっていると同氏は述べた。
ガーン氏は、ブランドは競争の激しいデジタル広告分野で抜きん出るために、より大きなリスクを取らざるを得ないと指摘する。「(競合の多い)乱雑な状況で頭ひとつ飛び抜けることは、信じられないほど難しい。今後もさらに難しくなるばかりだろう」。
Kimeko McCoy(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)