インスタグラムが、アプリ内決済機能の「チェックアウト(Checkout)」を発表したのは2019年3月のことだ。当時、この機能は閲覧とショッピングのギャップを埋めるものと考えられていた。だが、あれから2年が過ぎたいま、ブランド各社がチェックアウトに熱中している様子はない。
インスタグラムが、プラダ(Prada)やワービー・パーカー(Warby Parker)といった大手ブランドと提携して、アプリ内決済機能の「チェックアウト(Checkout)」を発表したのは2019年3月のことだ。当時、この機能は閲覧とショッピングのギャップを埋めるものと考えられていた。だが、あれから2年が過ぎたいま、ブランド各社がチェックアウトに熱中している様子はない。むしろ、自社のウェブサイトに消費者を直接誘導しようとしているようだ。
プラットフォームに関する最近の調査で、プラダ、クリスチャン・ディオール(Christian Dior)、ウェヘア(Ouai Hair)など、インスタグラムが当初から手を組んだパートナーが、いまやチェックアウトを利用せず、自社サイトに人々を直接誘導していることが明らかになった。米DIGIDAYはこの件で3社にコメントを求めたが、本記事公開までに回答は得られていない。
いまもチェックアウトを利用している大手ブランドでも、販売しているのはもっぱら安価なアクセサリー製品などだ。当初からチェックアウトを利用しているワービー・パーカーは、ケースやクリーニングキットなどのアクセサリー製品や度なしサングラスのみをチェックアウトで販売している。
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ブランドがチェックアウトを利用すると、メールアドレスなどの貴重な顧客データを入手できなくなる場合がある。ブランドのチェックアウトページには「あなたの連絡先情報は販売者と共有されます」と書かれているものもあるが、すべてではない。ブランドがチェックアウトを利用するより自社サイトに誘導することを選ぶ理由のひとつがここにある。そうすれば、購入者のメールアドレスを確実に入手できるからだ。
チェックアウトの大きな問題点
全体的にみると、ソーシャルメディアプラットフォームとブランドは、拡大を続けるモバイルショッピング市場でシェアを競い合っているのが現状だ。そして、これにはもっともな理由がある。米国では、2021年にソーシャルコマースの売上が前年より34.8%多い360億9000万ドル(約3兆8730億円)となり、eコマースの売上全体の4.3%を占める見込みだと、eマーケター(eMarketer)は予測している。
しかし、インスタグラムがアプリから商品を購入してもらおうとしているのに対し、ほとんどのブランドは自社サイトにトラフィックを誘導したいと考えている。ブランドにとってのモバイル決済の重要性はインスタグラムと異なっており、その結果チェックアウトの普及は遅れているようだ。
「インスタグラムのチェックアウトについては、当社のクライアントの50%以上が我々に質問をしてきたり、利用の意向を示したりしている。だが、実際に利用を始めたクライアントは10%にも満たない」と、あるデジタルエージェンシーの戦略担当幹部は匿名を条件に語ってくれた。
「チェックアウトの大きな問題点は、顧客との関係作りにある」というのは、eコマースのマネジメントを請け負うスケールファスト(Scalefast)でマーケティング担当シニアバイスプレジデントを努めるダン・ブルースター氏だ。「買い物客がブランドのネイティブプラットフォームではなくインスタグラムを使用した場合、その顧客の情報はインスタグラムのアプリに保管され、ブランドが必ずアクセスできるとは限らない。そうなれば、ブランドはロイヤルティの高い顧客のメールアドレスを入手し、ダイレクトマーケティングやパーソナライズドマーケティングでその顧客と関係を築く機会を失うことになる」。
D2C企業でさえ疑問を抱く
インスタグラムのチェックアウトが米国でどの程度普及しているのかは不明だ。インスタグラムの広報担当者は、チェックアウトを利用しているビジネスアカウントの数を明らかにしていない。
「一般的には、D2C(Direct-to-Consumer)企業のような小規模ブランドが、インスタグラムチェックアウトを利用していると思われる。大規模なブランドはトラフィックを求めるものだ」と、先の戦略担当幹部は語った。
しかし、そのD2C企業でさえ疑問を抱くようになっている。
「当社のポートフォリオでは、インスタグラムチェックアウト自体の採用はみられないが、商品のタグ付け機能やリールの採用は増えているようだ」と、パフォーマンスマーケティングエージェンシー、デジショップガール・メディア(Digishopgirl Media)のCEO、カティア・コンスタンティン氏は話す。「ブランドはチェックアウトを利用していない。トラフィックとデータを獲得するために、自社のウェブサイトにリダイレクトしている」。
インセンティブも不発気味
振り返れば、インスタグラムはチェックアウト機能を発表した当時、アディダス(Adidas)、ワービー・パーカー、H&M、バルマン(Balmain)といった大手の提携先ブランドにのみこの機能を提供していた。しかし、昨年6月になって、チェックアウトオプションを利用できる対象を、自社サイトで商品を販売している一部のビジネスアカウントやクリエイターアカウントに拡大した。さらに8月には、チェックアウトの利用手数料を免除することを発表して、販売者を惹きつけようとしている。
だが、こうしたインセンティブが普及につながっている様子はない。
「ソーシャルプラットフォーム経由で商品を購入したいというニーズは高まっているが、問題は信頼にあると私は思う」と、先のエージェンシー幹部は指摘する。「人々は、クレジットカードを登録しても問題ないとか、偽ブランドで痛い目に遭わされることはないと思えるほど、インスタグラムに信頼を置いていない。むしろ、ブランドのモバイルサイトで購入したいと考えるだろう」。
[原文:“The bigger brands want the traffic”: Marketers still aren’t wowed by Instagram Checkout]
ERIKA WHELESS(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:長田真)