[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ブランドバージは、RFP(提案依頼書)関連のプロセスを自動化するオンラインマーケットプレイスを手がける。同社が2018年にリリースしたこのプラットフォームでは、パブリッシャーが売り込みたいプログラムの提案書をアップロードできる。同様にマーケターも、購入したいと考える広告機会の提案書をアップロードできる仕組みだ。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ブランド管理とライセンシングを手がけるアースバウンド(Earthbound)は2018年、アンダー・ザ・キャノピー(Under the Canopy)という家庭用品ブランドを立ち上げる準備をしていた。10月には、ベッド・バス・アンド・ビヨンド(Bed Bath & Beyond)の店舗でこのブランドを独占的にソフトローンチする契約を締結。このブランドへの注目度を高めるために、スポンサー契約の機会を探していた。
アースバウンドのマーケティングディレクター、ライアン・モンタネース氏は、複数のパブリッシャーにメールで連絡したり、広告を掲載してくれそうな企業のサイトのフォームから問い合わせたりした。だが、「こちらがパブリッシャーにお金を払おうとしている」にもかかわらず、問い合わせに返事をよこす企業はなく、同氏は苛立ちを覚えたという。
返事がないことに不満を感じたモンタネース氏は、ブランドバージ(BrandVerge)という名のプラットフォーム企業に依頼した。すると、2週間後には、ブリット(Brit + Co)からスポンサーシップの提案を受けたという。結局、アースバウンドはブリットが手がける「#クリエイトグッド(#CreateGood)」イベントのスポンサーを務めることになった。「ブランドバージを通じて彼らのことを知ることができて、本当に良かった。おかげで、コネクションを作る時間を大幅に短縮できた」とモンタネース氏は述べている。
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ブランドバージの仕組み
ブランドバージは、RFP(提案依頼書)関連のプロセスを自動化するオンラインマーケットプレイスを手がけている。同社が2018年5月に正式リリースしたこのプラットフォームでは、パブリッシャーが、売り込みたいプログラム(ブランデッドコンテンツやイベントスポンサーシップなど)の提案書をアップロードできる。同じように、マーケターやエージェンシーも、購入したいと考える広告機会の提案書をアップロードできる仕組みだ。
マーケターやパブリッシャーはいま、RFPをなくすための取り組みを続けている。だが、従来のRFPプロセスを回避して、より直接的な方法で広告主を獲得しようとするこの動きは、知名度のあるブランドやメディア企業ばかりが優遇され、新興ブランドやニッチなパブリッシャーが取り残される状況を生み出しかねない。そこでブランドバージは、自社の仲介プラットフォームを利用して、新たな手段を提供しようとしている。だが、その目標を達成するには、バイヤーとセラーの双方にメリットがある状態をうまく維持し、時間とお金を費やす価値のあるプラットフォームにする必要がある。大手のブランドやパブリッシャーが幅を利かせるという、このプラットフォームを立ち上げるきっかけとなった問題が繰り返されないようにしなければならないのだ。
ブランドバージのユニークな点は、どうやらダイレクト取引向けのオンラインマーケットプレイスを作ろうとしていることだ。筆者はこの記事のために複数の企業幹部を取材したが、同じようなプラットフォームの存在を知っている人はいなかった。もっとも近い例は、かつてブランドテイル(Brandtale)と呼ばれていたニューメレイター(Numerator)で、パブリッシャーがブランデッドコンテンツキャンペーンの過去の事例を投稿できるようになっている。
「平均で78時間短縮」
エージェンシーのウェーブメーカー(Wavemaker)でプレジデントを務めるカール・フレモント氏は、市場のすき間を埋めようとするブランドバージの取り組みに賛同して同社に出資し、同社のアドバイザーに就任した。「よりプレミアムでイベント中心の広告コンテンツで、バイヤーとセラーを仲介するプラットフォームは存在しなかった。プレミアムな広告枠で(パブリッシャーが)企画している提案を探すには、文字通りあちこちを回って1社ずつ問い合わせるしかなかったのだ」と、フレモント氏は話す。
ブランドバージの広報担当者によれば、同社のプラットフォームに登録しているブランド、エージェンシー、パブリッシャーは、現時点で171社を数える。また、同社の共同創業者であるモリー・キホーエ氏によれば、広告主の数は毎月20%増加しており、パブリッシャーも同じように増えているという。
マーケターにとって、ブランドバージのメリットは、RFPのプロセスを効率化し、時間を短縮できることにある。パブリッシャーの提案を、予算の規模、最短リードタイム、プログラムの種類、パブリッシャーのカテゴリなど、さまざまな条件で選別できるのだ。また、それぞれの提案について、パブリッシャーが保証するインプレッション数などの情報を知ることができる。そして、興味深い提案が見つかったら、ブランドバージのプラットフォームを利用してパブリッシャーにメールを送るだけで、次の取引プロセスに進めるようになる。
「RFPのプロセスにかかる時間が通常100時間だとすれば、我々は平均で78時間短縮できる」と、ブランドバージの共同創業者であるリン・ブラウニー氏は述べている。
ブランドバージの課題
ただし、ブランドバージに課題がないわけではない。たとえば、このプラットフォームがまだ新しいことが、アドバイヤーとセラーにこのプラットフォームへの参加を躊躇させるジレンマを生み出している。マーケターやエージェンシーにとっては、十分な数のパブリッシャーから十分な数の提案がなければ、このプラットフォームを頻繁にチェックする意味がない。一方のパブリッシャーも、十分な数のマーケターやエージェンシーがいなければ、いつまでも取引に踏み切ることができない。ブランドバージの立ち上げ以降、少なくとも2社のパブリッシャーが利用をやめてしまったが、その理由のひとつは、取引したいと思える広告主を確実に見つけることができなかったからだと、この2社の担当者は匿名を条件に語ってくれた。
この2社を悩ませた問題はふたつ考えられると、クリエイティブエージェンシーのメディアキッチン(The Media Kitchen)でデジタルエンジニアリングディレクターを務めるジョナサン・キム氏はいう。そのひとつは、このプラットフォームが比較的高価なスポンサーシップパッケージ向け作られていることだ。そのため、登録されている提案の金額は10万ドル単位の高価なものが多い。ただし、価格交渉は可能なため、「当社としてはそれほど躊躇することはない」と、キム氏は話す。もうひとつの問題は、このプラットフォームのパブリッシャーのリストに、キム氏が期待していたほどの多様性がないことだ。そのため、キム氏が毎週のようにこのプラットフォームにアップされている提案をチェックしても、同じパブリッシャーの提案が見つかることが多いという。「(ブランドバージは)とてもクールなマーケットプレイスだが、マーケットプレイスとして生き残るには、たくさんのプレイヤーに積極的に利用してもらう必要がある」と、キム氏は語った。
このようなジレンマに拍車をかけているのが、ブランドバージがこのプラットフォームを利用するパブリッシャーに、年会費または月会費を請求していることだ(具体的な金額はわからなかった)。ただし、このプラットフォームを利用して行われる取引には手数料を課していない。また、2019年第2四半期には、マーケターとエージェンシーを対象にフリーミアムモデルを提供する予定だ。このモデルでは、プレミアム機能(詳細は不明)を利用する場合にのみ月額料金が必要になる。
デマンドサイドの感想
「(ブランドバージでは)販売サイクルが長い。(パブリッシャーは)30日以内に売り込みができず、売上を期待することができない」というのは、女性向けオンラインマガジンを手がけるハー・キャンパス・メディア(Her Campus Media)の販売およびビジネス開発担当ナショナルディレクター、カトリーナ・カンパナーレ氏だ。
ハー・キャンパスは2018年夏、広告料を払ってくれるマーケターを探すためにブランドバージに参加した。しかし、半年経っても、取引先を見つけることはできなかった。その後、2019年1月になって、同社はブランドバージでアースデイ関連の検索数が急増していることを発見した。そこで、アースデイに対するアドバイヤーの関心が高まっている状況を利用しようと、同社はアースデイに関連したカスタムデジタルパッケージの提案書をアップロードした。この提案書は、ブランドバージのあらゆるマーケターやエージェンシーが見られるようになっており、1週間に数百件のビューを獲得した。それでも、バイヤーからそれほど積極的なアプローチはなかったとカンパナーレ氏はいう。ハー・キャンパスは、スポンサーが見つかる可能性を高めるため、自社の提案を特定のブランドやエージェンシーに紹介できる機能を利用することにした。そして、オーガニック家庭用品を販売するある新興ブランドに提案書を送った。それがアンダー・ザ・キャノピーだったのだ。
ハー・キャンパスにとっては、いまのところ、アンダー・ザ・キャノピーとの契約が、ブランドバージを通じて獲得した唯一の取引だ。だが、ブランドバージを通じて獲得したこの1件の契約で「十分に元は取れている」とカンパナーレ氏は語った。
Tim Peterson(原文 / 訳:ガリレオ)