昨今のブランドは、パブリッシャーとしての役割をますます求められている。だが、いまやFacebookのライブ動画などで、放送局になることまで期待されているようだ。では、Facebookでもっとも成功したライブ動画から、マーケターは何を学べるだろうか? 今年の英国トップ5動画から、その答えを探してみよう。
昨今のブランドは、パブリッシャーとしての役割をますます求められている。だが、いまやFacebookのライブ動画などで、放送局になることまで期待されているようだ。16億人のユーザーを擁するFacebookのライブ動画が、今年4月にローンチされて以来、英国のブランド各社はこぞってライブ配信を試してきた。
しかし、一夜にして放送局になるのは、口で言うほど簡単ではない。ライブ動画にはコストがかかり、綿密な準備が必要で、失敗した場合(これはほぼ避けられない)の対応力も求められる。加えて、ライブ動画はFacebookの設定上アーカイブ化されるので、失敗作が繰り返し再生される可能性がある。
では、Facebookでもっとも成功したライブ動画から、マーケターは何を学べるだろうか? ソーシャルメディア分析会社、ソーシャベイカーズ(Socialbakers)のデータに基づく今年の英国トップ5動画から、その答えを探してみよう。
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60秒クイズ:ファストファッションブランド
ファストファッションブランド、ブーフー(Boohoo)の動画は、再生38万回以上、コメント30万件以上を達成し、2016年のブランドのライブ動画のパフォーマンスでトップに立った。
FacebookのAPIが開発者やパブリッシャーに公開されて以来、ブランドはフォーマットに手を加え、カメラに向かって人が話す形式からかけ離れた動画を考案している。ブーフーのこの動画は、ブランドがFacebookのAPIを利用して制作した「動画ではないライブ動画」の代表例だ。ライブ配信中に写真とトリビアクイズが次々に表示され、コメント欄で誰でも回答できた。中央にはカウントダウンタイマーが表示され、60秒ごとに当選者が発表された。
この動画は、ごく単純なソーシャルメディア上でのプレゼント企画に、ドラマのような盛り上がりとカウントダウンによる切迫感を加えることに成功した。なんといっても、コメント欄にオフショルダードレスが欲しいと書き込んだユーザーは、リアルタイムでライバルを目にするのだ。しかも、小売企業にとってこの方法は、ブラックフライデー関連のより大々的なプロモーションと関連づけやすい点で好都合だ。動画の説明にサイトのリンクをつけるだけでいいのだから。
15分フィットネス:カリスマトレーナー
大ヒットした書籍シリーズ「Lean in 15」を著したカリスマトレーナー、ジョー・ウィックス氏のこの動画は、試行錯誤の末に生まれたコンテンツをライブ動画向けに刷新したブランドの好例だ。ウィックス氏のワークアウト動画は、以前からFacebook上で高い人気を誇っていたが、ライブ配信を(たとえば通勤電車の中で)観るのは、まったく新しい体験だった。
ライブ動画に必要なのは、まさにこのようなフレッシュな視点なのだが、ブランドはコンテンツを事前に作り込みがちだと、ソーシャルベイカーズの主席データアナリスト、ミカエラ・ブラノバ氏は指摘する。「トップクラスのFacebookライブ動画からわかる、この新しいフォーマットでの成功の秘訣は、迅速なリアクション、関心との一致、そしてもっとも重要なのは、エンゲージメントを引き出す明白な行動喚起だ」と、ブラノバ氏は付け加えた。
リアルタイム宝探し:Xbox
Xboxはこの動画を通して、最新のゲームソフト「フォルツァ・ホライゾン3(Forza Horizon 3)」を1本、発売日にバッキンガム宮殿付近の某所に隠し、最初に見つけた人へプレゼントすると約束した。
マーケティングエージェンシー、360iヨーロッパ(360i Europe)でコンテンツマネージャーを務めるJJ・フォーン氏によると、「ライブ宝探し」は現在ブランドのあいだで人気上昇中だという。「これは、ソーシャルコンテンツと現実世界での活動を統合する、実にスマートな方法だ」と、同氏は付け加えながらも、こうした仕掛けは目新しさが薄れると大きな話題を集めにくくなるだろうと忠告する。「ブランドがライブコンテンツで生み出す価値を拡大できるかどうかが、Facebookライブ動画が効果的なマーケティングツールになるか否かを決定する」と、フォーン氏は語る。
プレゼント抽選会:ファッションブランド
Facebookのニュースフィード上で優先表示されるライブ動画では、小規模ブランドにもチャンスがあると証明したのが、レディースファッションブランドのオー・ポリー(Oh Polly)だ。同社のアカウントのフォロワーは25万人ほど。だが、ユーザーに番号をコメントさせ、司会者が選んだユーザーの番号の風船を割って、プレゼントの当選・落選を決めた、この動画の再生回数は、2万3000回を超えた。
Buzzfeedのようなパブリッシャーの成功例(口コミで拡散したスイカを輪ゴムで爆発させるバカバカしい動画など)にならい、視聴者をハラハラさせる行動を撮影。それに加えて、次に誰が選ばれるだろうかという緊張感もあった。
「ブーフーとオー・ポリーに共通するのは、投稿にコメントして応募という方法でファンのエンゲージメントを増やしたことだ」と、ソーシャルベイカーズのブラノバ氏は指摘する。「コメントが続くとストーリーになるので、コメントしたユーザーの友達のニュースフィードにブランドが入り込むチャンスが生まれる」。
また、このような動画には、ほかのソーシャルメディアから失われた、共有される体験の雰囲気も感じられる。まるで、国じゅうの視聴者と同時にテレビを見ているような体験だ。
不器用な「開封の儀」:工具ブランド
YouTubeで始まった「開封の儀(unboxing)」動画は、Snapchat(スナップチャット)、Facebook、Periscope(ペリスコープ)などのライブプラットフォームにも浸透した。
ニッチコミュニティの内部なら、ブランドはライブ動画を利用して、オーディエンスの求める製品の詳細を(しばしば過剰なほどに)伝えることができる。チェーン・リアクション・サイクルズ(Chain Reaction Cycles)が実施した、このライブ動画の場合、新しい工具セットに本当に関心を持っているのは自転車マニアだ。バーティカルで、手ブレが多く、会話がないにもかかわらず、この動画は22万9000回も再生され、4000件以上のリアクションを生み出した。
「我々はこれを『不器用なソーシャルの台頭』と呼んでいる」と語るのは、ソーシャルメディアエージェンシーのボーンソーシャル(Born Social)の上級ストラテジスト、カラム・マケーン氏だ。「理屈でいえば、ライブ動画のあるべき姿とは正反対なのだが、誰も気にしていない」。
Facebook上のブランドのファンにとって、事前に撮影した動画よりもライブ動画の方がエキサイティングだと、マケーン氏は付け加える。ライブ動画は切迫感と共有された体験をもたらすからだ。Facebookの成功の鍵は「取り残されることへの恐怖(Fear of Missing Out)」だった。そこにライブ動画が切迫感をもう一段追加したのだ。
Grace Caffyn(原文 / 訳:ガリレオ)