パーパスを明確に示すこと――ブランド各社は近年、その必要性をますます感じるようになってきている。アルゴリズムが話題のトピックをフィードのトップに引き上げ、競争がかつてないほど激化しているいま、ブランドは別の方法で目立たなければならない。ただモノを売るだけでは、もはや十分ではないのだ。【※本記事は、一般読者の方にもnoteにて個別販売中(480円)です!】
ペプシ(Pepsi)がケンダル・ジェンナー出演のCMで非難の的になったのは、いまから1年半ほど前のことだった。ジェンナーが写真撮影を中断して抗議集会に参加し、友情の証としてコーラを警官に手渡すという内容のCMだ。
広告担当幹部が、このCMをヒットに導く材料のチェックボックスに印をつけていた姿は想像に難くない。ソーシャルメディアを利用する何百万人もの若者たちが憧れるスター――チェック。彼らオーディエンスがいままさに体験している問題とのつながり――チェック。しかし、わずか24時間後、ペプシは「ブラック・ライブズ・マター」運動を矮小化しているとして人々の反感を買い、このCMも同ブランドの謝罪とともに放映中止となった。
このCMが大失敗だったことに疑いの余地はないが、同時にそれは、ブランドがパーパス(存在意義、目的)に手を伸ばしていることを示す一例でもあった。パーパスを明確に示すこと――ブランド各社は近年、その必要性をますます感じるようになってきている。アルゴリズムが話題のトピックをフィードのトップに引き上げ、競争がかつてないほど激化しているいま、ブランドは別の方法で目立たなければならない。ただモノを売るだけでは、もはや十分ではないのだ。ナイキ(Nike)は先ごろ、サンフランシスコ・フォーティナイナーズの元クォーターバック、コリン・キャパニックとのパートナーシップを復活させて、大きな称賛を受けた。キャパニックは警察の残虐行為に対する抗議として、国歌斉唱の最中に片膝をついて起立を拒否し、自身の立場を明確にしたことでよく知られている。
Advertisement
パーパス・ドリブンになること
ザ・マーティン・エージェンシー(The Martin Agency)でシニアストラテジストを務めるセシリア・パリッシュ氏は「消費者はブランドに対して、ただ商品を売るのではなく、パーパスを持ち、世界に貢献することを望んでいる」と話す。残念なのは、たいていの企業は戦略的な意図を持ってポジティブなPRを強化し、売上を伸ばしていることを理由に、コーズ(大義、理念)に同調している気になったり、「パーパス・ドリブン」を自称したりしているということだ。それが自社のDNAの一部だからではなく。あるいは、それに対して強い関心を抱いているからではなく。
サンタモニカを拠点とするエージェンシー、RPAでエグゼクティブバイスプレジデント/最高執行責任者(COO)を務めるピート・イムワレ氏は「コーズ・リレーテッド・マーケティングにはビッグビジネスがある」と話す。RPAは本田技研工業に協力し、後者が長年、人知れず行ってきた社会奉仕事業のプロモーション活動を行っている。
ブランド各社は少し前から、この「パーパス・ドリブン」の波に便乗しているが、年月を重ねるにつれて、パーパス・ドリブンな企業になるということは、キャッシュレジスターの横に募金箱を置く以上の意味へと進化してきた。会社全体のレベルで、従業員から役員までの全員が、自社がその価値を信じ、理想的には顧客もその価値を信じるコーズに同調することを求められている。それが環境保護であれ、女性の権利であってもだ。
成功することを証明した企業
さまざまな調査レポートから、パーパス・ドリブン・マーケティングによるキャンペーンは消費者、とりわけハイバリューなミレニアル世代を引き寄せることがわかっている。また、ユニリーバ(Unilever)が2017年5月に発表した調査結果によると、成人消費者2万人のうち3分の1以上が、社会や環境の改善に貢献していると自身が思うブランドの商品を選んでいるという。エージェンシーのコーン(Cone)が行った調査からも、消費者の77%がパーパス・ドリブンな企業に対して、より強い感情的なつながりを感じることがわかっている。
いくつかの企業がこれまでに、社会奉仕型のビジネスモデルが成功することを証明している。これにより、ほかの企業も同レベルの高い評価の獲得を確信できる現在の環境がつくり出された。自社のコーズを企業全体に根づかせることで消費者の心をつかむことに成功している企業として、いま広告主が注目しているのはパタゴニア(Patagonia)とトムスシューズ(Toms Shoes)だ。
環境保護活動に重点を置くパタゴニアは、店を閉めてまで、従業員を「ピープルズ・クライメイト・マーチ(The People’s Climate March)」に参加させている。対するトムスは、構想の段階からソーシャルグッドを自社の使命に組み入れており、消費者が靴を1足買うごとに、靴を買えない貧しい国の子どもに新しい靴を1足贈るプログラム「ワン・フォー・ワン(One for One)」を実施している。パタゴニアはこの取り組みの成功を証明した。2016年のブラックフライデーに1000万ドル(約11億円)の売上を達成し、それをすべて寄付したのだ。いまでは、コーズ・マーケティングを専門に手がけ、パーパス・ドリブン化のための戦略を企業とともに練るエージェンシーも現れている。
批判的な広告主もいる
なかには、パーパス・ドリブン・マーケティングに対する非難を公然と口にする広告主もいる。エージェンシーのウィー・アー・ソーシャル・ノース・アメリカ(We Are Social North America)でマネージングディレクターを務めるベンジャミン・アーノルド氏は「率直に言って、純粋な善意からコーズ・マーケティングに投資しているブランドなど、ほとんどいない」と語る。
「彼らがそうするのは、それがうまくいくからだ。咎めを受けずに済むからだ」と語るのは、誇大広告や虚偽広告に監視の目を光らせる非営利団体、トゥルース・イン・アドバタイジング(Truth in Advertising)でエグゼクティブディレクターを務めるボニー・パッテン氏。「政府機関は動きが遅く、莫大な数の誇大広告を摘発するための資金も人手も不足している。こうした誇大広告は企業に大きな利益をもたらしうる。そして残念ながら、功を奏している」。
パッテン氏はここ数年、パーパス・ドリブン・マーケティングの台頭を目の当たりにするとともに、「やりすぎ」の企業に対して起こされた訴訟も見守ってきた。その一例が、パーソナルケア用品を販売するセブンスジェネレーション(Seventh Generation)だ。同社はいわゆる「グリーンウォッシング」を乱用しているとパッテン氏はいう。セブンスジェネレーションは地球を守るという目標を掲げ、「オールナチュラル」を謳っているが、最近行われた集団訴訟から、同社は合成物質を使用していることがわかっている。
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)もパッテン氏から偽善者呼ばわりされてきた企業のひとつだ。女性のエンパワーメントを訴えるメッセージを発信しておきながら、同社の取締役会は男性に支配されているからだ。エアビーアンドビー(Airbnb)は、同プラットフォームにおける人種差別をめぐる反感の高まりを受けてようやく、ダイバーシティーを重視する姿勢を示すようになった。パーパスはビッグビジネスに成長する可能性を秘めてはいるが、それをビジネスプロセスに結びつけるのは生易しいことではない。
「コーズ・リレーテッド・マーケティングを実施したところで、それが正当性を欠いていれば、手痛いしっぺ返しを食らうことになりかねない」とイムワレ氏は警告している。
Ilyse Liffreing (原文 / 訳:ガリレオ)