ときに、SNSの王者には裏表がある。自身の「インフルエンス(影響力)」を何らかの形で水増しするインフルエンサーは、大勢いるのかもしれない。今回は彼らがマーケターから金を巻き上げる際に使う、トリックやハックについて解説する。
先日、フォロワー数2万人を有するインスタグラムのインフルエンサーが、チェルシー・ナフテルバーグ氏率いるマーケティングチームに対し、消費財関連の小規模なキャンペーンにかかる費用として、1万から2万米ドル(約114万円から228万円)を要求した。彼のアカウントのインプレッション数が、1週間に50万件だというのが、その根拠だ。
ソーシャルメディアエージェンシーのアテンション(Attention)でコンテンツおよびパートナーシップのアソシエイトディレクターを務めるナフテルバーグ氏は、「インスタグラムで彼の投稿を確認したところ、その数字と実態が合っていないことに気がついた」と語る。「その後、インスタグラムストーリーのインプレッション数も水増しされていたことがわかった。50万という数字は虚偽ではないものの、我々の支払う対価に見合うものではなかった」。
ときに、SNSの王者には裏表がある。これはその一例だ。自身の「インフルエンス(影響力)」を何らかの形で水増しするインフルエンサーは、大勢いるのかもしれない。今回は彼らがマーケターから金を巻き上げる際に使う、トリックやハックについて解説する。
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いまだはびこるフォロワー買収
広告エージェンシーやインフルエンサーのマーケティングプラットフォームでは、フォロワー数が1万人から10万人のマイクロインフルエンサーの台頭が目立ってきている。とはいえ、ブランドがSNS王者の価値を図る際、フォロワー数を基準にすることがほとんどだ。フォロワー数が多いほど、影響力も大きくなる。その結果、フォロワーの買収がいまだに横行しているとソーシャル分析プラットフォーム、ハイパー(Hypr)の創業者兼CEOであるギル・エーヤル氏は話す。
「こういったことは、いまも頻繁に行われている。インフルエンサーの規模にかかわらず行われているのだ」とエーヤル氏はいう。「フォロワー数が重視されるなか、それがプレッシャーとなり、インフルエンサーが いいね! やフォロワーを買収することで数字を上げようとしているのだ」。
先述のアテンションのトム・ボンテンポ社長は、フォロワーが買収されたものか、それとも本物なのか、正確に見極めるのは困難だと加えた。しかし、その判断材料として実質的でシンプルな経験則のひとつが、フォロワーとエンゲージメントの比率を確認することだという。
「インフルエンサーの投稿についた いいね! やコメントの数は、オーディエンスのエンゲージメント率やアカウントの真実性をあらわしている」とボンテンポ氏は話す。「もちろんプラットフォーム自体も偽のアカウントやボットをかぎ分け、取り除く努力を続けている」。
SNSの王者たちの互助会
ボンテンポ氏によると、パブリッシャーがそうであるように、インフルエンサー同士が互いのアカウントのフォロワー数やエンゲージメント率を高めるため協力し合うことも多いという。相手の投稿を見たらすぐにタグ付けし、シェアし、コメントを残すのだ。特にミームクリエイターのあいだで広く行われている。
「インスタグラムのミームアカウントをいくつかフォローすると、同一内容のコンテンツに出会うかもしれない」と、ナフテルバーグ氏はいう。
Snapchat(スナップチャット)のインフルエンサー、サラ・ペレツ氏によると、これらはインフルエンサーコミュニティで「エンゲージメントグループ」と呼ばれるものだという。よくある流れとしては、あるインフルエンサーが画像を投稿する際、事前にグループ内のインフルエンサーに連絡する。そして投稿が公開されるとすぐに、仲間のインフルエンサーが いいね! をして数を稼ぐ。インスタグラムのインフルエンサーの常套トリックだ。
ペレス氏は、「以前に比べると、エンゲージメントグループは減少傾向にある」という。「インスタグラムが厳重な取り締まりを行い、表立ってはいないが違反者にアクセス禁止のペナルティを課している。そうなると、このようなことをしてもインフルエンサーに恩恵はなく、人気ランキングに載ることもなくなる」。
FTCルールを無視する
連邦取引委員会(FTC)は、この1年間でSNSで人気の高い対象者向けの取り締まりを数度行っている。取り締まりの対象は、企業と提携して商品のプロモーションを行っているにもかかわらず、それを明示していないアカウント主だ。ちょうどこの4月にもFTCは、90名以上のインフルエンサーに対し、透明性を高めて広告であることをきちんと伝えるようにと、注意を促すレターを送付している。
しかし、ハッシュタグ、言葉、書面など広告表示を一切行わないインフルエンサーも珍しくないとペルツ氏はいう。
「ブランドから広告表示を求められるまで待つ、というインフルエンサーもいる」と彼女は語った。「これではブランドがリスクにさらされ、ファイヤ・フェスティバル(ケンダル・ジェンナーなどのインフルエンサーなどによって宣伝された音楽フェスティバル。4月に開催予定だったものの突如中止され問題視された)並みの法的影響を受ける危険性がある」。