カリフォルニアに本社を置く飲料メーカーf’realは、リアルな店舗で商品を販売するブランドだ。しかし、コロナ禍の影響で消費者がオンラインで過ごす時間が増えるなか、新たな取り組みを通じて、難しい現実への適応を模索している。そんな同社の「対応策」のひとつが、VRを活用したモバイルゲームアプリの配信だ。
カリフォルニアに本社を置くフリール(f’real)は、顧客が自分でブレンドするタイプのミルクシェイクやスムージーを、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの店頭設置した自販機を通じて販売している。同社は現在、VRを活用したマーケティング施策に注力しており、その一環としてモバイルゲームアプリの「フリールシェイクラン(f’real Shake Run)」を展開中だ。
大手食品企業であるリッチプロダクツコーポレーション(Rich Products Corporation)の子会社で、創業18年目を迎えるフリールは、リアルな店舗で商品を販売するブランドだ。コロナ禍の影響で消費者がオンラインで過ごす時間が増えるなか、新たな取り組みを通じて、難しい現実への適応を模索している。
「この1年あまり、最大の課題は臨機応変に軌道修正を図り、そのときどきで利用できる機会を最大限に利用することだった」。フリールのマーケティング部門でシニアディレクターを務めるヘイデン・ペリー氏はそう話す。
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コロナ禍でゲームを活用する人々
フリールのモバイルゲームは、障害物を避けながらエンドレスで走る人気ゲーム「サブウェイ・サーファー(Subway Surfers)」と同じタイプのゲームだ。店頭に置かれた自販機のデジタル画面にQRコードが表示され、このコードを読み取ってダウンロードする。このVR施策のプロモーションとして、フリールはTikTokの人気クリエイターと彼らのフォロワーを巻き込み、ハッシュタグチャレンジ「#FrealAF」を展開している。ペイドメディアを活用した施策としては、Z世代の消費者をターゲットとして、ゲーム機のほか、YouTubeやTikTok、Snapchat、インスタグラムなどで広告を配信している。
コロナ禍によるロックダウンの影響で、ゲーム人気が伸びている。そんなゲームを活用したマーケティングに関しては、マーケターたちも意欲的だ。
「あらゆるものがショッパブルで、あらゆるものがコマースにつながるご時世だ。モバイルゲーム広告から購入にいたる消費者が増えるのも道理だろう」。メディアエージェンシーであるマインドシェア(Mindshare)のコンテンツプラス(Content+)スタジオで、スポンサーシップおよびパートナーシップの責任者を務めるメイスン・ベイツ氏はそう述べている。
ペリー氏によると、コロナ禍でも人とつながり、活動的な日常を保ちたい人々は、責任ある態度で人付き合いを続け、疲れた頭を休めるために、もっぱらソーシャルネットワークやゲームプラットフォームを活用していたという。フリールはこの状況をうまく利用しながら、ブランド認知を高め、究極的には売上とエンゲージメントを伸ばしたいとしている。
実店舗からデジタルへ
フリールのモバイルゲームでは、アプリを起動する際に使用するQRコードを通じて、顧客のコンバージョン件数を追跡できる。QRコードを読み取ると、フリールのスムージーやシェイクを購入する時間帯や購入場所、購入に使用するデバイスなどの情報が取得される。ただし、アプリ自体からユーザーデータを収集することはない。
いまのところ、このゲームで広告の配信はおこなっていない。しかしペリー氏によると、同社では、このアプリを活用したデジタルマーケティングの拡大を検討しているという。
フリールは2020年にもQRコードを活用したVRキャンペーンを展開しており、ペリー氏によると、キャンペーン期間中のVR体験の起動回数は延べ約5万回、月間平均で約8000回を達成したという。「フリールシェイクラン」は昨年のこのキャンペーンの第2弾とも位置づけられる。
フリールの自販機をもっともよく見かけるのはコンビニエンスストアの店頭だ。コロナ禍はこうした店舗の客足に深刻な影響を及ぼし、その店頭で商品を販売するブランドは軒並み軌道修正を余儀なくされた。フリールも例外ではなかった。ペリー氏によると、コロナ禍への対応として店頭での広告宣伝費を大幅に削減し、メディア予算の大部分をモバイルゲームなどのデジタルマーケティング施策にシフトさせたという。
「パンデミックは、勃発当初、コンビニエンスストアの客足に大きな影響を与えたため、マーケティングミックスと予算配分を見直さざるを得なかった」とペリー氏は語る。そして、パンデミックが終息しても、「我々のメディアミックスがただちに元通りになることはないだろう」と見ている。
いかにZ世代の認知を高めるか
ペリー氏はデジタルマーケティング予算の詳細については明かさなかったが、2021年のマーケティング予算のほぼ3分の2は、VRおよびブランド認知向上のためのキャンペーンに充てられるようだ。なお、カンター(Kantar)の広告費調査によると、フリールが2020年に支出した媒体費は2万ドル(約220万円)だった。ただし、カンターはSNS支出については調査対象としていないため、この数字にはソーシャルメディアへの支出は含まれていない。
ペリー氏が「ノンワーキング・ダラー(non-working dollars)」と呼ぶマーケティング予算は、コンセプトやコンテンツの制作費に充てられる。一方、同氏によると、予算の推定5%から10%を占める「ワーキング・ダラー(working dollars)」は、通常、店頭のPOPなどの従来メディアに使われる。だが今年は昨年同時期の予算配分とはまったく異なり、マーケティング予算の半分近くがVRキャンペーンに投入された。さらに、TikTok、Snapchat、Twitch(ツイッチ)を含むソーシャルプラットフォームへの支出も、昨年の2倍に引き上げるという。
ペリー氏はさらにこう述べている。「目下、Z世代消費者の認知を高めることに注力している。メディアミックスにもこの方針が反映され、彼らがもっとも多くの時間を費やすテクノロジーやプラットフォームに手厚く予算配分している」。
モバイルゲームのニーズは続く
マインドシェアのベイツ氏によると、パンデミックが終息して、以前の日常が戻ってきても、消費者の積極的なモバイル機器の利用はこの先も続くし、そこにはゲームも含まれる。「消費者の不安が解消されて、楽観的な傾向が強くなっても、逃避や遊びを求めてスナック感覚のモバイルゲームに走る傾向はなくならないだろう」。
とはいえ、モバイルゲームをゼロから立ち上げるのは容易ではないとベイツ氏は指摘する。また、ゲームを制作すれば、次にはダウンロードやプレイの促進策を打たなければならない。
ペリー氏によると、フリールは、シェイクランゲームを搭載する自社アプリを中心に、今後もデジタル体験施策を継続する意向で、そのための追加的なマーケティング予算を手当する予定という。
KIMEKO MCCOY(翻訳:英じゅんこ、編集:分島 翔平)