連邦議会議事堂での暴動を受けて、白人至上主義者たちは次々と逮捕され、陰謀論者たちは各種プラットフォームから排除されている。しかし、その原動力となったオンラインの誤情報を取り囲むエコシステムは、ビューティーインフルエンサーの世界を含め、ほかの方法で生き続けていた。
連邦議会議事堂での暴動を受けて、白人至上主義者たちは次々と逮捕され、陰謀論者たちは各種プラットフォームから排除されている。しかし、その原動力となったオンラインの誤情報を取り囲むエコシステムは、ビューティーインフルエンサーの世界を含め、ほかの方法で生き続けていた。
ビューティーインフルエンサーのなかでも特に影響力の大きいトップインフルエンサーたちの何人かが、同じくビューティーインフルエンサーである動画ブロガーのアマンダ・エンシング氏に対して抗議の声をあげた。エンシング氏はキム・カーダシアンにヒントを得たメイクアップのチュートリアルや、唇を厚くする美容整形に関するアドバイスなどのコンテンツで人気を集めており、140万人のYouTubeチャンネル登録者を抱える。しかし、最近では政治的要素もコンテンツに加えており、退任するトランプ大統領への支持を表明していた。最近では、彼が根拠なく主張している不正選挙疑惑や、連邦議会議事堂への乱入につながったトランプ大統領支持の集会を公に支持している。
ライフスタイル、ウェルネス、美容、ファッション分野のインフルエンサーのあいだでは、誤情報の拡散が蔓延している。こうした人々はQアノンの陰謀論を受け入れ、共和党の政治指導者たちによる選挙結果に関する誤った主張を自分の意見として繰り返し発信している。しかし彼らは同時に、スポンコン(Sponcon:スポンサードコンテンツの略語)やアフィリエイトリンクを通じたブランドプロモーションで、自分の情報発信の収益化を続けている。その結果、彼らに収益をもたらしているブランドたちも問題に巻き込まれている。
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「消費者はブランドによるスポンサー投稿を見たときに、インフルエンサーのコメントや行動をブランドが暗黙のうちに支持していると捉える」と、インフルエンス・セントラル(Influence Central)のCEOでファウンダーのステイシー・デブロフ氏は言う。「このことは、消費者による製品ボイコットから、ほかのトップインフルエンサーによるコラボレーション拒否まで、ブランドの評判を大きく傷つける可能性がある」。
「ブランド提携に不向きな候補者」
エンシング氏は11月にトランプ大統領支持の発信を強めて以来、陰謀論をシェアするビューティーインフルエンサーとしては、これまででもっとも影響力が大きい人物のひとりとなっている。1月7日の木曜日、彼女は自身のインスタグラムストーリーズで、トランプ大統領の居場所についての虚偽の主張を含む、Qアノン信奉者のリン・ウッド氏によるパーラー(Parler)上の投稿をシェアした。ウッド氏は最近Twitterを追い出され、パーラー(Parler)上でもマイク・ペンス副大統領は「銃殺隊」に向き合うべき(処刑されるべき)だと述べ、投稿を削除されている。エンシング氏はまた、次期大統領のジョー・バイデン氏が当選したとは信じていないと投稿し、すでに誤りであることが証明されている、Qアノンによる陰謀説を数々シェアしている。あるツイートでは中国で印刷された「偽の投票用紙」について主張し、また別のツイートではバイデンの娘アシュレイ・バイデンによる「日記」というでっち上げられた情報について語っている。
ビューティー業界のゴシップを扱う「ヒア・フォー・ザ・ティー(Here for the Tea)」のアカウントは、エンシング氏のこういった誤情報発信を記録しつつ、過去にエンシング氏と一緒に仕事をしたり、彼女をフォローしていたブランドを一斉にタグ付けした。エンシング氏の過去の投稿にはディオール(Dior)、ファーサリ(Farsali)、ボクシーチャーム(Boxicharm)といった幅広いブランドが含まれており、チュートリアル動画では数々の無償提供されたプロダクトが取り上げられている。彼女のメインのタイムラインにおける最後のスポンサー投稿は10月21日のサヴェージ×フェンティ(SAVAGE X FENTY)のプロモーションだったが、ヒア・フォー・ザ・ティーは、同ブランドは現在、エンシング氏をフォローしていないと指摘している。同様にタグ付けされたフィジシャンズ・フォーミュラ(Physicians Formula)は、インスタグラムのコメントのなかでエンシング氏を現在起用することはなく、フォローもしていないと述べている。スティラ・コスメティクス(Stila Cosmetics)は声明で、「アマンダ・エンシング氏は、スティラ・コスメティックスと関係を持ったことがない。2017年に彼女はスティラのプロダクトをレビューするビデオを制作したが、この動画は我々が頼んだものでもスポンサーしたものでもない。この動画はスティラのFacebookで再投稿された。しかし、そのビデオは現在削除されている」と述べた。
「連邦議会の暴動のあと、企業は暴力に強い反対の態度を示している」と、デブロフ氏。「ブランドたちはすぐにスポンサーシップをキャンセルし、自身の評判を守るためにエンシング氏と距離を置くだろう」と述べた。
「特に1月6日の事件以降、現在の米国の政治情勢を考慮すると、ブランドは誰と公式な関係を持つかについて極めて慎重になる必要がある」と、インフルエンサー・エージェンシーであるタクミ(Takumi)のCEOであるメアリー・キーン-ドーソン氏は言った。最近のコメントを鑑みると、エンシング氏は「どのようなブランド提携にも不向きな候補者だ」と彼女は述べた。
抗議する周囲のインフルエンサーたち
エンシング氏はビューティー動画ブロガーの世界では非常に有名な人物であり、ほかの著名なインフルエンサーたちも彼女の言動に反応した。Twitterとインスタグラムで、エンシング氏の投稿に反対の発言をした人には、ジャッキー・アイナ氏(YouTubeチャンネル登録者数357万人)、クリステン・ドミニク氏(422万人)、マニー・ガティエレズ氏(487万人)、アリッサ・アシュリー氏(280万人)、シェイラ・ミッチェル氏(インスタグラムフォロワー数270万人)、ガブリエル・ザモラ氏(インスタグラムフォロワー数87万9000人)などがいる。本稿のためにエンシング氏にコメントを求めたが、回答は得られなかった。しかし彼女のオンライン上の投稿では、自身が共和党支持者である故の不当な扱いのターゲットにされていると主張している。
特に彼女が1月6日の議事堂における集会を支持するツイートをしたあと、インフルエンサーたちはTwitterで彼女への抗議の声をあげるようになった。暴動が起きたあと、彼女は暴力を容認しないとツイートしたが、それより前には「世界には、これから起こることに、(映画のように楽しんで眺めるには)十分なポップコーンがない」と投稿していた。
キーン-ドーソン氏によれば、「議会の暴動を含めた今回の争いがいかに深刻か、どれだけ強調してもし過ぎることはできない。あらゆるレベルにおいて糾弾される必要があり、ブランドからも個人からも非難される必要がある」とのことだ。
ドミニク氏は自身のインスタグラムにおいて「とある人物」を自分のブランド(ドミニク・コスメティックス[Dominique Cosmetics])と自分自身から「切り離さないと」いけなかったと投稿した。この投稿ではエンシング氏の名前は言及しなかったが、この人物が「彼女がLAに引っ越してからずっと知っていた人で、LAを離れた人物」と言っており、最近ロサンゼルスからテネシーに引っ越したエンシング氏のことだとフォロワーたちは理解した。
インフルエンサーが持つべき態度
「BLM運動、または人間性の回復を掲げたほかのどのような運動であれ、連帯を表明し立ち上がったブランドは、ブランドに関わる誰か(流通業者、インフルエンサー、スタッフなど)がその運動の考え、倫理、価値観に矛盾する言動をした場合には、直ちに行動を起こすべきである」と、ソーシャルメディアおよびインフルエンサー・ストラテジストのアンサ・マリク氏は述べた。「これほどの深刻性を持っている時は特にだ」。
エンシング氏がトランプ支持の大量の投稿を始めて以来、彼女のフォロワーの数は減少し続けている。インフルエンサー・マーケティング・プラットフォームのクリアー(Klear)によると、エンシング氏はインスタグラムのフォロワーを2020年の11月以来「着実に」失っている。さらにクリアーによると、エンシング氏のフォロワー数は11月には142万6000人であったが、12月には1万5000人減少し、1月8日にはさらに3万8000人減少して137万3000人となった。1月6日から8日のあいだだけで1万2784人のフォロワーを失ったという。
「ブランドが何らかの価値観を支持するのであれば、そのブランドのアンバサダーも(同様の価値観を)支持すべきだ」と、クリアーのCEOで共同ファウンダーのエイタン・アヴィグドール氏は言う。クリアーは、悪意あるキーワードのフラグ検知や過去のコラボレーションの評価といった「徹底的なブランドセーフティの監査をブランドが実施することを強く奨励する」。「このような争論が頻繁に発生するようになったため、コラボレーションを開始する際にはブランドセーフティをチェックすることは一般的な慣習になるべきだ」とアヴィグドール氏は述べた。
「ブランドは厳しく取り締まるべき」
最近のブランドは以前と比べると、問題のあるインフルエンサーとの関係を断ち切るのが早くなった。ヒア・フォー・ザ・ティーのようなサイトやソーシャルメディア自体の台頭によって、何か問題があったときにはブランドは問題の人物との緩い関係性すらも批判されるようになった。そのため、問題が起きたとき、迅速に行動するために警戒するソーシャルチームの必要性が高まっている。
「ブランドは今の時点ですでに、誰と一緒に仕事をしているか、厳しく取り締まっているべきだ。それが出来ていないブランドは、すでに10歩遅れている」と、マリク氏は言う。「これは倫理的な観点からも、インフルエンサーやアフィリエイトマーケティングの一般的な成功の観点からも言える」。
[原文:What happens when a major beauty influencer supports the Capitol mob]
LIZ FLORA(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)