マーケティング内製化、メールチンプが推進している理由

メールチンプ(Mailchimp)は、代表的なポッドキャスト広告主としてよく知られている。このオンラインマーケティング企業は最近、ドキュメンタリー番組やエピソード番組に加えて、自社独自のポッドキャストの開発事業にも進出してきた。独自コンテンツの制作へ進出すると同時に、同社は、2019年の第1四半期に協力関係にあったエージェンシー、ドローガ5(Droga5)との提携を打ち切るなど、従来のブランド広告を削減している。

メールチンプは2019年6月、メールチンプ・プレゼンツ(Mailchimp Presents)を発表。このサービスは、同社サイト上でオリジナルの動画やポッドキャスト番組を視聴できるものだ。それらは、1年半前に設立された9人編成のオリジナルコンテンツ制作チーム、メールチンプ・スタジオ(Mailchimp Studios)が、Viceやスカウト・プロダクション(Scout Productions)などの企業と協力して制作したものだ。メールチンプがオリジナルコンテンツの制作を2年間推進し、これに投資してきたことで、同社のオリジナルコンテンツを提供するハブが生まれた。その結果、従来のブランド広告への依存を弱め、コンテンツ制作のために協力している企業との関係を強化することになった。

オリジナルコンテンツを社内で制作しようというメールチンプの決断は、実を結んでいるようだ。このように動いた結果、同社は、資金を節約できているが、メールチンプの広報担当者は、どの程度資金を節約できたかについてコメントは控えた。メールチンプ・プレゼンツが6月10日に発表されて以来、ポッドキャストで配信している番組のビュー数やダウンロード数は、100万以上になったと、同社の広報担当者は言う。このオリジナルコンテンツを視聴している顧客は、「我々にとって、とにもかくにも、もっとも貴重な顧客となりそうだ」と、メールチンプでブランドおよびメールチンプ・スタジオのヘッドを務める、マーク・ディクリスティーナ氏は言う。「彼らは、より多くの収益をもたらし、より迅速に支払ってくれそうだ。より深い関わりを持てるだろう」。

視聴したいと思うコンテンツ

メールチンプの制作物は、ドキュメンタリーや台本ありの番組、台本なしの番組のみならず、ポッドキャストなども含まれている。制作会社に番組の1エピソードにつき6桁の額を支払うなど、まるでエンターテイメント企業の様相を呈しているが、その方向に転換するつもりはないと、この件に関して理解の深い社員は言う。ちなみに、メールチンプの広報担当者はコメントを控えた。だが、メールチンプ・プレゼンツは、概してメールマーケティングやソーシャル広告キャンペーンを管理するためにメールチンプのWebサイトを定期的に訪問する中小企業のオーナーや起業家を主に対象として設計されたマーケティングの取り組みである。それが、同社が短編番組にこだわる理由だ。番組のエピソードは通常、1エピソードあたり5分から8分ほどで、単独のドキュメンタリーで15分ほど、ポッドキャストのエピソードなら15分から25分以内に収めようとしている。「当社は、Netflix(ネットフリックス)に取って代わろうとしているわけではない」と、ディクリスティーナ氏は言う。

メールチンプ・プレゼンツは、以前にエージェンシーを雇って対応していたマーケターが、社内でマーケティングを行う選択をするという典型的な例を表している。メールチンプの狙いは、座って最後まで見ざるを得ない広告とは対照的な、顧客が視聴したいと思うコンテンツを制作することであった。「番組のスポンサーをしている限り、顧客に見てもらうには広告費用を支払うことになる必要がある。顧客が視聴したいものの邪魔をしていた。資金を支払わなければ、消えてしまうような存在だった」と、ディクリスティーナ氏は言う。

正確には、メールチンプは広告の出稿を完全にやめたわけではない。2019年の第1四半期に、同社は広告に190万ドル(約2億円)を費やしたが、これは、2018年の第1四半期に同社が費やした230万ドル(約2.4億円)からは減少していることが、カンターメディア(Kantar Media)のデータから判明している。メールチンプはデジタル広告や屋外広告を出し続けているが、テレビ広告や活字広告は削減していると、ディクリスティーナ氏は言う。同社は依然としてポッドキャストでも広告を出しているが、ポッドキャスト広告への投資は、2017年までには先細りとなっていた。

ドローガ5と築いたもの

しかし、メールチンプは、ブランド広告への投資を抑えて、その抑えた分の資金をオリジナルコンテンツ制作に充てている。「当社がブランド広告に費やしていた資金の大半は、オリジナルコンテンツ制作やそれらのコンテンツのプロモーションに充てられるようになった」と、ディクリスティーナ氏は言う。当社のブランド広告のための資金の「大半」は、現在、メールチンプ・スタジオの制作業務のために利用されており、この資金でメールチンプ・プレゼンツの番組ラインナップを、教育やハウツーのコンテンツなど、より古くからあるマーケティング番組にも幅を広げようとしていると、彼は続けて言った。

メールチンプがオリジナルコンテンツを主に自社のWebサイト上で配信していることを考慮すると、すべきことは顧客を定着させることのように思える。しかし、これは、ブランドの認知度を上げ、顧客を獲得するための取り組みでもあると、ディクリスティーナ氏は言う。メールチンプ・スタジオのマーケティングチームは、メールチンプ・プレゼンツの番組プロモーションを行うために広告を出すことになるだろう。加えて、メールチンプはコンテンツを自社Webサイト以外で配信することもあるかもしれない。顧客はAppleのポッドキャストアプリやSpotify(スポティファイ)などのプラットフォームを介して、同社のポッドキャストを聞くことができる。また、Viceと共同制作した、転職をする人々を描いたドキュメンタリーシリーズの「セカンド・アクト(Second Act)」が8月前半に、Viceのテレビネットワーク「Viceland」で配信されたと、メールチンプ・プレゼンツで制作統括者を務めるサリタ・アラミ氏は述べた。

メールチンプは、ドローガ5と協力体制にあったときから今年の初旬に提携を解消するまで、約2年間のあいだ、コンテンツを内製しようと動いてきていた。そのあいだメールチンプは、コンテンツ制作に重要なことは何かをエージェンシーから学び、この業務をもっと社内で行えるようにするため、従業員を新たに雇った。そのあと、メールチンプとドローガ5は、2019年秋にコンテンツ制作をメールチンプの社内チームに任せるように移行しはじめた。ドローガ5は、メールチンプがオリジナルコンテンツ戦略を立案する手助けを行い、当時のメールチンプを制作会社と結びつけた。「ドローガ5はこの取り組みを行いはじめたときに、その構築に貢献してくれた」と、ディクリスティーナ氏は述べた。

基本はプロジェクトベースで

ドローガ5との提携解消後、メールチンプはエージェンシーとはプロジェクトベースでしか協働していないと、ディクリスティーナ氏は言う。番組やポッドキャスト向けコンテンツを制作するために協力している制作会社に加え、同社はコンテンツ制作にあたってのパイプラインとなってもらうために、「どちらかと言えば、相談に乗ってもらえる力量を買って」ハリウッドの人材エージェンシーであるWMEとも協力関係にあると、アラミ氏は述べた。

オリジナルコンテンツ制作を自社だけで行うために、メールチンプはエンターテイメントコンテンツの制作・マーケティング経験を持つ人材を雇う必要があった。メールチンプ・スタジオの9人編成のチームに在籍する従業員のうち、6名あるいは7名がエンターテイメント業界から雇われた人材だと、ディクリスティーナ氏は言う。それらの人材を同社に入社するよう口説き落とすために、メールチンプは、ブランドにかかわる仕事をするか、コンテンツ制作を担当する制作会社にかかわる仕事をするが予算あるいは配信の業務は行わないかを選択できる、比較的自由な裁量を与えることを売り文句にしたと、アラミ氏は言う。「当社はそういったことのすべてからの解放を実現した」。

Tim Peterson(原文 / 訳:Conyac