デニムブランドのメイドウェル(Madewell)は株式公開の準備を進めているが、顧客維持とパーソナライズに向けた取り組みに弾みがつくかどうかは、同社のロイヤルティプログラム次第だろう。メイドウェルは、これがD2C(direct-to-consumer)販売をより増加させる鍵になると考えている。
アパレルメーカーであるJ.クルー(J. Crew)のデニムブランド、メイドウェル(Madewell)は株式公開の準備を進めているが、顧客維持とパーソナライズに向けた取り組みに弾みがつくかどうかは、同社のロイヤルティプログラム次第だろう。メイドウェルは、これがD2C(direct-to-consumer)販売をより増加させる鍵になると考えている。
メイドウェルは、2019年9月第2週に米証券取引委員会に提出されたフォームS-1(証券登録届出書)に、自社のロイヤルティプログラム「メイドウェル・インサイダー(Madewell Insider)」には現在、同社のアクティブな顧客ベースの60%にあたる156万人がメンバー登録していると書いている。メイドウェルはこのプログラムを2016年に開始。さらに、メイドウェルのD2C売り上げの67%はメイドウェル・インサイダーのメンバーからもたらされていて、2018会計年度に500ドル(約5万3000円)以上を使った顧客の90%を占めていた。
貴重なデータ収集ツール
ロイヤルティプログラムを巡っては、卵が先か鶏が先かの議論が繰り返されることが多い。ロイヤルティプログラムが実際に販売増加に役立っているのか? このプログラムに参加している人がたくさんのお金を使う熱心な顧客なのか? だが、ひとつ確かなのは、ロイヤルティプログラムが貴重なデータ収集ツールになるということだ。これがあれば小売業者は、購入履歴を通じてひとりの顧客が実店舗とオンラインの両方でどのような製品を買っているかを追跡しやすくなると同時に、彼らが反応するマーケティング戦術が何かを理解できるようになる。
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メイドウェルのロイヤルティプログラムは、同社の店舗やウェブサイトに顧客を呼び戻しつなぎ止めておくうえで非常に重要な要素になるだろう。メイドウェルはフォームS-1に、ロイヤルティプログラムは「顧客維持と購入頻度の主要原動力だ」と書いた。
D2Cはメイドウェルのビジネスの95%を占める。メイドウェルのビジネスは、実店舗の立ち上げからスタートし、発展してきたのが事実であり、より多くの店舗をオープンすることで販売を増やしてきた。メイドウェルは現在132店舗を展開しているが、同社はさらに、ウェブサイトからのD2C販売の割合を増やしたいと考えている。2018会計年度のD2C販売の40%はウェブサイト経由だったが、メイドウェルはこの数字を50%に増やしたいと考えている。
マーケティングに多くを費やすことなく、顧客をウェブサイトに呼び戻すための重要要素のひとつは、どのような電子メールやプッシュ通知を送れば顧客がより多く購入する気になるのかを理解するとともに、パーソナライズ化を通じて顧客が新製品を発見する手助けをするウェブやモバイル体験を構築することだ。そこで、ロイヤルティプログラムが登場する。
体験やパーソナライズに重点
メイドウェルは、最近ロイヤルティプログラムを開始した、あるいは刷新した大手小売業者と足並みを揃えるように、ロイヤルティプログラムによる割引ではなく、限定のイベントや体験への参加を強調している。プログラムには、誰でも無料で参加できるもの、500ドル以上を使った顧客を対象にしたもの、1000ドル(約10万8000円)以上を使った顧客を対象にしたものの3種類がある。
すべてのメンバーは、無料返品、ジーンズの無料裾上げ、無料の通常発送といったサービスを受けられるほか、誕生日ギフトがもらえる。最上位のメンバーは、無料の速達配送と、カスタマーサービスが必要になった場合に「専用コンシェルジュの電話相談」も利用できる。
ロイヤルティプログラムの構築で小売業者と協働する顧客体験エージェンシー、ヒーロー・デジタル(Hero Digital)の共同創業者であるオーウェン・フリボルド氏は、メイドウェルなどの小売業者は、「限定サービスへのアクセスやより上質な顧客体験」を謳い文句にして自社のロイヤルティプログラムをマーケティングしていると話す。
「論点の概念が変わりつつある」と、フリボルド氏は語る。「販促(プロモーション)という要素を強く推すことがなくなり、体験やパーソナライズに重点がおかれるようになった」。
イベントは重要な戦略パート
イベントはメイドウェルのロイヤルティ戦略の重要な部分でもある。メイドウェルはフォームS-1のなかで、2018年には店内でイベントを2500回以上開催したと書いた。店内イベントにはロイヤルティプログラムに登録するすべてのランクのメンバーが参加でき、その内容は、チャリティーもあれば、地元アーティストのポップアップショップや先行販売などもある。
ガートナーL2(Gartner L2)でシニアプリンシパルを務めるサラ・マルツァーノ氏は、電子メールでの取材において、「メイドウェルは店舗を使って地域密着型のイベントや体験を開催し、ロイヤルティメンバーに約束した体験やイベントを着実に提供している」と述べた。マルツァーノ氏はさらに、メイドウェルは「ロイヤルティプログラムの特典としてイベントへの参加をあげながらそれを守らない、あるいは人口が密集した都市部にある店舗でのみイベントや体験を提供しているブランドとは一線を画している」と付け加えた。
メイドウェルのロイヤルティプログラムは開始からまだ3年しか経っていないことを考えると、同ブランドにとっての次のステップは、プログラムに登録した顧客がそのブランドの品物を買い続け、ロイヤルティプログラムを最大限に活用できるようにすることと、顧客が関心を寄せるものについてのデータをより多く集めることだ。
その目的を果たすために、メイドウェルは、ロイヤルティプログラムを中心に考案したモバイルアプリを2020年に公開するとフォームS-1に書いた。メイドウェルは、顧客がアプリを通じて店での買い物の支払いができるようにするほか、ブッシュ通知を使ってその地域で開催される店内イベントの案内をする予定だという。
Appleの小売りアプリに似ている
フリボルド氏は、メイドウェルのアプリはAppleの小売りアプリのようなタイプのもので、ロイヤルティプログラムの登録メンバーがより日常的にエンゲージできるようになると説明する。フリボルド氏は、Appleのストアアプリは、顧客が過去に何をして、何を買ったかによってアプリ体験をカスタマイズできる点が優れていると述べる。たとえばこのアプリでは、客が入店したときに、自動的に店内の支払いができるようになるという。
「ロイヤルティについて話すとき、ユーザーが興味ありと示したものに沿って理論上のリコメンデーションをより多く提供することによって、彼らがユーザーを顧客としてきちんと理解したことを示すことになる」と、フリボルド氏は述べた。
Anna Hensel (原文 / 訳:ガリレオ)