米百貨店のメイシーズ(Macy’s)が、中国から撤退することになった。シンシナティに本拠を置くメイシーズは、中国最大のeコマースサイト「Tモール(Tmall)」の自社ページで、12月31日をもってすべての業務を停止すると告知した。Tモールからの撤退により、メイシーズは中国における最後の拠点を失うことになる。
米百貨店のメイシーズ(Macy’s)が、中国から撤退することになった。
シンシナティに本拠を置くメイシーズは、中国最大のeコマースサイト「Tモール(Tmall)」の自社ページで、12月31日をもってすべての業務を停止すると告知した。Tモールからの撤退により、メイシーズは中国における最後の拠点を失うことになる。同社は6月にも、中国で運営していたeコマースサイトMacys.cnを、立ち上げから1年と経たないうちに閉鎖していた。
今回の動きは、メイシーズの中核事業である米国でのビジネスの採算性を維持するためだと、同社の広報担当者はメールで述べている。また、Macys.comに新しい機能を追加し、中国の顧客が商品を購入できるようにすると付け加えた。
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これは正しい考え方といえる。だが、業界の専門家にいわせれば、今回の撤退は、米国ブランドが中国市場の攻略に失敗した典型例のひとつだ。メイシーズは、Tモールと自社のeコマースサイトに焦点を絞りすぎ、強力なオフライン戦略を欠いていた。
「彼らは明らかに、米国でのビジネスを好転させることに重点を置いており、経営陣はその問題に集中したいと考えていた。ビジネスが困難な状況にあるなか、複数の店舗を閉鎖して、ビジネスの回復に注力していたのだ」と、ベイカータウン・コンサルティング(Bakertown Consulting)のプレジデントで、かつてメイシーズで働いていたステファン・レクター氏はいう。レクター氏は、2017年9月から2018年5月まで、コンサルタントとしてメイシーズと仕事をし、中国でのeコマース事業の立ち上げに関わっていた。
リテーラーならではの困難
eコマースへの依存度が大きい市場では、DTC(Direct-to-Customer:ネット直販)ブランドのほうがうまくいくことが多い。消費者がeコマースのプラットフォームを利用して、ブランドから直接商品を購入できるからだ。また、メイシーズのような多数のブランドを扱う小売企業には、さらなる困難が待ち構えている。自社で選んだブランドの商品を販売するという米国型モデルを追求しようにも、中国のマーケットプレイスや地元の販売業者がすでに同じブランドを取り扱っていることが多いからだ。こうした問題は、メイシーズに特有のものではない。2011年には、ベスト・バイ(Best Buy)が中国で展開していた9つの店舗をすべて閉鎖している。
メイシーズの場合は、実店舗とブランド認知度がないことも、成功を妨げる要因となった。レクター氏によれば、同社は100人ほどのローカルスタッフを抱えていたが、市場の変化に付いていくことができなかったという。特に、アリババが推進する「ニューリテール(新小売)」コンセプトのような、オフライン体験を利用してeコマースを強化するというトレンドに乗ることができなかった。メイシーズは2017年、北京と上海に期間限定のポップアップストアを出したが、単発の取り組みで終わっている。
また、Tモールのアルゴリズムが単一カテゴリーのブランドを優先する仕組みになっていることにも、メイシーズは苦しめられた。
「Tモールのアルゴリズムは、デパートを支援してくれるようなものではない。(中略)Tモールのほかの店舗を見てみればいい。彼らは1つのカテゴリーに特化した店舗だ」と、レクター氏はいう。「メイシーズにとって、このアルゴリズムで(検索結果の)トップに表示されるようにするのは、非常に困難な仕事だった」。
中国顧客の好みの相違
取り扱う商品を決めていたのは現地のチームだが、中国の販売業者と独占販売契約を結んでいるブランドもあるため、メイシーズは米国と同じブランドを取り扱うことができなかった。そのうえ、中国の顧客の好みは米国と異なっていた。
「香港と上海のチームが、中国人から見て適切な品揃えを実現しようと懸命に努力していた。(中略)彼らはできる限りのことをやっていたと思う」と、レクター氏はいう。「彼らはたいてい、米国にある在庫を活用していた。だが、米国のバイヤーが調達した商品の大半は、中国の消費者に適したものではなかった」。
グローバルデータ・リテール(GlobalData Retail)のマネージングディレクター、ネイル・サンダース氏は、メイシーズが中国市場への参入に失敗したのは、中国の消費者にとって確固としたブランドイメージがなかったからだと指摘する。ウォルマート(Walmart)など米国のほかの小売企業はプライベートブランドの商品を数多くもっているが、メイシーズはほかのブランドの商品を揃えることばかり考えていた。
「メイシーズは非常によく知られたブランドだが、そのブランド名が世界のどこでも通用するわけではない」と、サンダーズ氏はいう。「メイシーズの戦略は、ほかのさまざまな企業の商品をひとつ屋根の下にまとめるというものだ。このような戦略は、Tモールのようなプラットフォームでは役に立たない」。
どうすれば良かったのか?
もっと幅広いアプローチと積極的なオフライン戦略があれば、競合他社より優位に立てた可能性があるというのは、アゾヤ・インターナショナル(Azoya International)でマネージングディレクターを務めるフランクリン・チュウ氏だ。同社は、中国市場に進出する米国ブランドを支援している。
「eコマース市場は非常に競合が多く、競争が激しい。そのため、ひとつのマーケットプレイスに参加するだけでなく、もっと幅広いアプローチが必要だ」と、チュウ氏はいう。「また、毎日のように最前線で活動してくれるローカルパートナーが欠かせない。短期間で(在庫を)変えることができる、さまざまなカテゴリーの小売企業と提携しなければならないのだ」。
このような困難にもかかわらず、中国は米国の小売企業にとって、いまも大きなチャンスだとレクター氏はいう。
「非常に大きなチャンスがある。ただし、忍耐が必要だ」と、レクター氏は話す。「(メイシーズの撤退は)残念なことであり、彼らがそうした理由も理解できる。しかし、だからといって、ほかの小売企業がこの市場に参入しない手はない」。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:ガリレオ)