ノードストロームはEC事業の力を借りて オフプライスストア のノードストローム・ラックを強化する方針で、フルフィルメントの選択肢を広げ、専用アプリのダウンロードを促進して売上増を図る。一方メイシーズはメイシーズ・バックステージの展開に注力。ショップインショップと独立店舗の出店を増やす。
米・百貨店のノードストローム(Nordstrom)とメイシーズ(Macy’s)は、コロナ禍の影響で売上が2019年の水準まで回復しないなか、新規顧客を獲得すべく、オフプライスストア事業に投資している。
5月に行われたノードストロームとメイシーズの2021年第1四半期決算説明会では両社の経営幹部がそれぞれ、オフプライスストア事業の拡大計画について語った。ノードストロームはEC事業の力を借りてノードストローム・ラック(Nordstrom Rack)を強化する方針で、フルフィルメントの選択肢を広げ、専用アプリのダウンロードを促進して売上増を図る意向だ。一方メイシーズはメイシーズ・バックステージ(Macy’s Backstage)の展開に注力。ショップインショップと独立店舗の出店を増やし、同社が運営するブルーミングデールズ・ジ・アウトレット(Bloomingdale’s The Outlet)の期間限定店を初めて導入する予定だという。ノードストロームもメイシーズも、オフプライスストア事業をフルプライスストア事業に統合し、長期的には高価格帯の商品へ顧客を誘引していく狙いがある。
コロナ禍前の水準には届かず
コロナ禍による外出禁止令で、スウェットパンツ以外のファッションに対する消費者の関心は低下し、市場調査のNPDグループによると2020年、アパレル業界全体の売上は前年比19%減と落ち込んだ。メイシーズとノードストロームの2021年第1四半期の売上は前年同期比でそれぞれ56%と44%と増加したものの、両社とも2019年第1四半期の水準にまでは戻っていない。
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そんな状況下、両社は新規顧客の獲得に向けてさまざまな取り組みを検討している。そのひとつがオフプライスストア事業の拡大で、百貨店の典型的な顧客層に比べて価格により敏感な顧客層をターゲットとする施策だ。
商圏拡大とアプリ利用増が課題
ノードストロームの従来型百貨店はニューヨークやシカゴといった大都市のショッピングモール内の出店が多い。一方、主に独立店舗として同社が展開するノードストローム・ラック(以下、ラック)は、コールズ(Kohl’s)やディラーズ(Dillard’s)が成功しているショッピングモール外の店舗と同様、全米各地250カ所に散在している。
ノードストロームのCEOエリック・ノードストローム氏は第1四半期の決算説明会で、同社の最優先課題のひとつが「ラックの商圏拡大」であると述べた。そのため同社は、オンラインショップで販売した商品を実店舗に配送する仕組みづくりに投資を続けており、顧客がノードストロームまたはラックのオンラインショップで注文した商品を翌日、ラックのいずれかの店舗で受け取れるサービスを拡大中だ。この翌日受け取りサービスは以前、百貨店でのみ利用可能だったが、昨年初めてラックにも導入された。
買い物客にラック専用アプリの利用を促すことも、もうひとつの重要な目標だ。このアプリの利用者はいまや、ノードストロームが運営する小売事業のトラフィック全体の75%を占め、オンライン売上高の3分の2を稼ぎ出すまでになった。同社が今年実施したアプリの更新は25回におよび、これにはトップページのリニューアルや、実店舗とオンラインショップをつなげる機能が含まれる。たとえば「スキャン・アンド・ショップ(scan-and-shop)」という機能を使えば、実店舗で見つけた商品のバーコード画像をスキャンし、同じ商品をオンラインショップで探すことができる。また、気に入った服の写真を撮ってアプリにアップロードすると、似たようなアイテムをおすすめ商品として表示してくれる機能もある。最新バージョンでは、期間限定で割引商品などを販売する「フラッシュセール(flash sales)」の通知がアプリ画面に表示されるようになった。通知はスクロールの位置にかかわりなくつねに画面に表示され、ラックでのショッピングのお値打ち感を強調している。
ラックの今四半期売上は2019年第1四半期を13%下回っているが、ノードストロームの発表では「昨年の第4四半期から10ポイント改善した」という。調査会社のグローバルデータ・リテール(GlobalData Retail)でマネージング・ディレクターをつとめるニール・ソンダース氏は、ラックが業績をさらに改善するには価格訴求のみに頼るべきでない、と述べている。
「ノードストローム・ラックはきわだって好調というわけでもない。今四半期の業績は、他社のオフプライスストアと比べると精彩を欠く」とソンダース氏はいう。
「売れ行きを左右するのは価格帯だけではない。品揃えの幅広さや多様さの影響も大きい」とソンダース氏はつけ加え、「ノードストロームが扱う衣料品はオフプライスストアで競合するTJマックス(TJMaxx)に比べ、よそ行き着と仕事着に偏っている」と指摘した。
インショップ出店を強化
同じくオフプライスストア事業への投資を続けるメイシーズは、実店舗数の拡大に注力している。ノードストロームとの違いは、新規出店の大半が独立型でなく、既存商業施設内の店舗(ショップインショップ)であることだ。メイシーズは今後、このショップインショップ形式のメイシーズ・バックステージ(以下、バックステージ)を47店オープンする計画で、総店舗数は2021年末までに270に達する見込み。加えて、独立店舗2店の出店計画もあるという。
「メイシーズ百貨店で注文した商品を受け取りたい場合、または購入した商品を返品したい場合、自宅近くのバックステージで簡便に済ませられる」と、メイシーズ会長兼CEOのジェフ・ジェネット氏はいう。「エコシステムを構築して、オフプライスとフルプライス両方の選択肢を提供するのが当社の狙いだ」。
メイシーズはまた、傘下のブルーミングデールズのオフプライスストア事業にも投資しており、160年におよぶ同百貨店の歴史上初めて、ブルーミングデールズ・ジ・アウトレットの期間限定店をニューヨークにオープンする計画だという。
フルプライス業態との相乗効果に期待
多くの企業でオフィス勤務がまだ再開していない状況では、メイシーズとノードストロームの業績不振が続いても意外ではない、とソンダース氏はいう。
「ノードストロームの品揃えはブルーミングデールズ同様、きちんとした仕事服やパーティ用フォーマルウエアが中心だが、この市場セグメントの需要は完全には戻っていない」とソンダース氏は説明する。「また、こうした高級百貨店の顧客層には、政府から新型コロナウイルス対策給付金の支給を受けた人が非常に少ない」。
しかしノードストロームとメイシーズは、オフプライスストア事業が集客に貢献すると確信しており、低価格帯商品で新規顧客を獲得すれば、将来的には、より高い価格帯の商品の購入も増えていくと見ているようだ。
ノードストロームCEOは昨年第4四半期の決算説明会でこう語っている。「事業間の相乗効果に期待する。ラックの業態での新規顧客獲得が今後、小売事業者としての当社の業績に、また各種ブランドの業績に寄与する見通しについて社内でもよく議論している。我々が収集したデータでも、ラックを通じてあるブランドに初めて接した顧客が、最終的にはそのブランドの商品を正価で購入する顧客になるパターンが確認されている」。
メイシーズCEOのジェネット氏も、オフプライスストア事業の新たな取り組みとバックステージの独立店舗への投資について同様の感想を述べている。
「当社のオフプライスストア事業への投資が、オフプライスとフルプライスの両方で商品を購入する顧客のエコシステム全体にどんな影響をもたらすか、注目している。どの程度の追加購入があるか、顧客のライフタイムバリュー(顧客生涯価値) はどうなるか、見ていきたい」。
[原文:Macy’s and Nordstrom are betting on off-price to stay relevant after the pandemic]
Maile McCann(翻訳:SI Japan、編集:戸田 美子)