本記事は、10月19~22日の4日間、マカオ最大のカジノリゾートであるヴェネチアン・マカオで開かれた「マカオファッションフェスティバル」(Macao Fashion Festival」の6つの見どころと、それを支えるマカ […]
本記事は、10月19~22日の4日間、マカオ最大のカジノリゾートであるヴェネチアン・マカオで開かれた「マカオファッションフェスティバル」(Macao Fashion Festival」の6つの見どころと、それを支えるマカオファッション業界の取り組みについて前編に続きレポートする。
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4. デザイナーたちが結束 60人が所属する非営利団体
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MFFのフィナーレを飾ったショー「Light of Macao Designers」でコレクションを披露したのは、MFDIA(Macao Fashion Design Industry Association)の会員である総勢30人のデザイナーたち。MFF2023で初の合同ショーを行った。
CPTTMを中心としたファッション産業振興の取り組みにおいて、ン氏が「一番大きな成果のひとつ」というMFDIAは、マカオのファッションデザイン業界に携わる人々と新進デザイナーとのコミュニケーションの場となることをめざし、マカオのファッションデザイナーたちが中心となって2021年に立ち上げた非営利団体だ。現在約60人のデザイナーが所属しており、自身もデザイナーとして活動するアロ・ロー氏が会長を務める。
具体的には、セミナーなどを実施してデザイナーに必要な情報のアップデートを図ったり、海外に向けたマカオファッションの訴求力を強めていく。ロー氏は、「これまで個々に活動していたデザイナーたちがまとまることで、マカオ独自のファッションをグレーターベイエリアなどの海外に紹介するプロモーション活動に力を入れる。マカオファッションの魅力をどのように伝えていくかがこれからの課題となる」と意欲を見せた。
MFF会場内にはマカオデザイナーたちのアイテムが実際に買える店舗も設けた
5. マカオファッションの独自性の追求とそれを支えるプラットフォームづくり
では、マカオ独自のファッションの魅力や強みとは何か。ロー氏は、中国とポルトガルの要素が融合した「独特の文化に影響を受けていること、そして、海外でファッションを学んだデザイナーも多く、そこで学んだものとのコンビネーションが、オリジナル性に繋がっている」と話す。ン氏も、文化的背景がマカオファッションの大きな特徴であるといい、「たとえば、ella épelerは、デザイナーのエラ・レイ自身が描くオリジナルのプリント柄に対し、特に欧米系のバイヤーからの評判が高い」という。同氏は、マカオファッションが欧州でも市場開拓できる可能性を示唆しつつ、「9月にパリ視察をした時にも感じたことだが、バイヤーが買い付けてくれるのはフルラインではなく数点であることが多い。そのため、たとえ数ルックでもブランドの世界観を表現し、バイヤーの心を掴めるような服づくりを目ざしてほしい」と付け加えた。
ロー氏も、「デザイナーたちの層も厚くなってきたが、世界的に活躍するデザイナーはまだ出ていない。MFDIAの活動を通じて、そうしたデザイナーを輩出していきたい」と語った。
6. MFF2023に参加したデザイナーたち
最後に、MFF2023に参加したデザイナーたちの最新コレクションを写真とともに紹介する。マカオブランドは、ストリートファッションの影響を受けたカジュアルウエアから、オケージョンに適したイブニングドレスまで、幅広いスタイルが見られ、デザイナーの層の広がりを感じさせた。(カッコ内はデザイナー名)
YIZHUO(ビビアン・ザオ)/深圳
70年代に着られていたようなローゲージのカラフルなニットや、Y2Kファッションに見られるワイドパンツを組み合わせて独自のスタイルを提案していたのがビビアン・ザオ氏によるYIZHUO。中国本土以外で作品を発表するのは初めてだったという。現在は、タオバオやT-mall(天猫)、TikTok、中国版インスタグラムの小紅書などを通じてオンライン販売をしているほか、中国では深圳を含む3都市で卸売販売をしている。将来的には、ブランド拡大のために帽子やバッグなどの雑貨を拡充したり、企業とのコラボレーションにも挑戦してみたいという。
Doris Kath(ドリス・キャス・チャン)/香港
ドリス・キャス・チャン氏は2024春夏コレクションで、プリント柄が際立つ構築的なドレスを軸に、うさぎのマスクや傘などの小物でハッピーなムードを創出した。「コロナ禍で塞ぎがちになってしまう人々に向けて、夢や喜びを感じてほしかった」とチャン氏。英セントマーチンズでファッションを学び、海外でのプレゼンテーション経験も豊富なチャン氏の今後の目標は、小・中学生などの次世代にファッションを教えること。「伝統的でアカデミックなものではなく、芸術的なものの楽しさ、面白さを伝えたい」。
Mohua(ホウ・シャオリン)/広州
Mohuaのアイテムは、デザイナーのホウ・シャオリン氏自身、海外生活が長かったこともあり、中国の伝統文化と西洋文化のエッセンスを融合させたデザインが持ち味だ。刺しゅうや草木染め、手描きプリントなど中国の無形文化遺産の職人たちと作り上げることから、受注から完成までに半年から2年かかるものもあるという。職人の高齢化が進んでいることも課題であり、トレンド要素を取り入れることで、若い世代にもアピールしていきたいという。デジタル施策にも意欲的で、小紅書やTikTokも活用。ウェブサイトではシャオリン氏自身のアバターがオンライン接客をするという試みも行う。
NO.42(ヴィーナス・トウ、オフィリア・ヴォン)/マカオ
異素材の組み合わせをアシンメトリーなデザインやレイヤードで見せるNO.42は、台湾の実践大学で知り合った2人が2019年に立ち上げたウィメンズブランド。丈が変えられるスカートなど何パターンも楽しめるアイテムがあるのも特徴で、「日常的に着回せるよう他ブランドとのスタイリングを想定しながらデザインしている」(トウ氏)という。PinkoiやCLAStylistといったオンラインプラットフォームで販売するほか、マカオではMHMHなどのセレクショショップ4店舗で卸売もしている。主ターゲットは25〜45歳だが、50代の顧客もいる。また、ポルトガルやインド、日本からの購入者がいるなど、幅広い層を取り込んでいる。シンガポールや香港、上海など海外の展示会にも積極的に参加しており、今後は台湾や日本にも進出したいという。NO.42のブランド名は、自由気ままな様子を表す「放肆」の「肆」と発音が似ている「4(四)」と、デュオデザイナーであることを示す「2」を組み合わせたものだという。
ella épeler(エラ・レイ)/マカオ
2015年にスタートしたella épelerの魅力は、アート業界で働いた経験を持つレイ氏自身が描くオリジナルのプリント柄。旅や恋愛などにインスピレーションを得て動植物や架空の生物などを独創的なスタイルで描いている。今回のMFFではマカオ代表としてグレーターベイエリアのデザイナーとともにオープニングショーに参加したほか、マカオ政府文化局とCPTTMが主催するサンプル製作作品コンテスト****の受賞デザイナーがコレクションを披露するショー、スタイル・エンカウンター・モーメント(Style・Encounter・Moment)でも作品を披露。デビュー以来、MFFにもコンスタントに参加しており、「マカオは市場が小さいため、国内外にマカオファッションの素晴らしさをアピールできるのは嬉しい」という。コロナ禍におけるビジネス面の影響は大きかったが、その分クリエーションの時間に集中できたという。コロナ禍に計画したのが、同ブランドの柄を採用したドッグウエアや靴、帽子、家具などの製作。「コロナ禍では洋服のフィッティングができないことが多かったため、フィッティングが不要なアイテムをデザインしようと考えた。雑貨などをきっかけにアパレルを知ってもらう機会を増やしたい」という。今年から小紅書での販売も開始した。
****マカオ政府文化局とCPTTMが主催するサンプル製作作品コンテストで賞金16万パタカ(約240万円)を競って行われる。サンプル作品とともに、事業・販売プランも併せて提出する必要があり、クリエイティビティーとビジネスの両面で評価される。
POURQUOI(ラライスミ・ワイ)/マカオ
「POURQUOI」のラライスミ・ワイ氏が、MFF2023で見せたのは、ビジューやチュールを使ったフェミニンなドレス。マカオ唯一のファッション&クリエイティビティーのスペシャリスト養成機関HATでファッションデザインを勉強し、2014年のデビュー時から日本のロリータファッションに強く影響を受けたカラフルでガーリーなスタイルを発表してきたが、「年齢を重ねたことや、テイラーメイドを始めたことによってさまざまな表現ができるようになったと感じている」という。過去には、「クリエーションとビジネスの間で迷走している」と感じていた時期もあったというが、「どのスタイルも私のクリエーションだと言える。それが自信に繋がっている」と話す。販売は順調だが、ソーシャルメディアはあまり活用しておらず、ほぼ知り合いからの口コミで人気が広がっているという。11月には香港のビジネスショーに出展する予定だ。
Nega C. Fashion(イザベラ・チョイ)/マカオ
MFF2023で唯一単独ショーを行ったNega C. Fashionデザイナーのイザベラ・チョイ氏は、タイでの修士課程を終え、2年ぶりの同イベント参加となった。タイのチュラロンコン大学で文化管理(Cultural Management)を学んだのは、もともとタイのカラフルでポップさを感じさせるアートやカルチャーに興味があったためだ。今後は留学で得たものをいかに実践に落とし込めるかを考えたいという。MFF2023のショーでは、The Alice’s adventure in the real world wonderland(現実世界の不思議の国のアリスの冒険)と題し、カジュアルからイブニングドレスまで60ルックをストーリー仕立てで見せ、女性の多様な面を表現した。
(Written and Photographed by 戸田美子)
Image via Macao Fashion Festival 2023(YIZHUO/Doris Kath/POURQUOI/Nega C. Fashion)
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