ポルトガル統括時代の影響が色濃く残る独自の文化と、香港や中国本土と隣接するグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)*であるという地の利を生かし、地元デザイナーのビジネスチャンス創出を図っているのが、マカオのファッション業界だ。
マカオといえば、実にGDPの約5割を占めるカジノ産業が有名だが、1970年代から縫製工場などの繊維産業が盛んな時期があった。しかし、中国本土の安価な労働力との競争によって徐々に衰退。現在は、クリエーションの力によってファッション産業を底上げすることをビジョンに掲げ、マカオ政府やデザイナーたちが一丸となって取り組みを進めている。
その一環として毎年10月に行われるのが、マカオ企業の生産性や競争力の向上などを主目的とした非営利団体マカオ生産性技術移転センター(CPTTM)**と、マカオ国際貿易投資博覧会(MIF)が共催する「マカオファッションフェスティバル」(Macao Fashion Festival/以下、MFF)だ。今年は10月19~22日の4日間に渡り、マカオ最大のカジノリゾートであるヴェネチアン・マカオで開かれ、地元のファッションデザイナーやブランド約50組を含む約80組が、ランウェイ形式によるファッションショーやショーケース展示などで最新コレクションを披露した。
2010年からスタートし、今年で14回目を迎えるMFFだが、デザイナーの層の広がりに加えて、グレーターベイエリアとの連携が強まっていることも奏功し、マカオファッションを訴求するプラットフォームとしてのコンテンツ力や発信力が高まってきた。MFF2023の6つの見どころと、それを支えるマカオファッション業界の取り組みについてレポートする。
*香港、マカオと、広東省の9都市(広州、深圳、佛山、東莞、恵州、中山、江門、珠海、肇慶)をひとつの経済圏と捉え、ともに地域の経済発展をめざす構想。2017年に中国政府、香港、マカオ、広東省が中心となりスタートした。
**1996年にマカオ政府と民間企業が共同で設立した非営利団体。 マカオ企業の生産性と競争力の向上、地元人材の質の最適化を支援することを使命としている。MFFのイベント企画・運営を主導するほか、MFF以外においても、マカオ唯一のファッション&クリエイティビティーのスペシャリスト養成機関ハウス・オブ・アパレル・テクノロジー(HAT)や、マカオファッションのコレクション展示や販売を行うマカオファッションギャラリー(https://macaofashiongallery.com/en/)の運営など、マカオ政府とともに、地元デザイナーたちの活動を多岐に渡りサポートしている。続きを読む
ポルトガル統括時代の影響が色濃く残る独自の文化と、香港や中国本土と隣接するグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)*であるという地の利を生かし、地元デザイナーのビジネスチャンス創出を図っているのが、マカオのファッション業界だ。
マカオといえば、実にGDPの約5割を占めるカジノ産業が有名だが、1970年代から縫製工場などの繊維産業が盛んな時期があった。しかし、中国本土の安価な労働力との競争によって徐々に衰退。現在は、クリエーションの力によってファッション産業を底上げすることをビジョンに掲げ、マカオ政府やデザイナーたちが一丸となって取り組みを進めている。
その一環として毎年10月に行われるのが、マカオ企業の生産性や競争力の向上などを主目的とした非営利団体マカオ生産性技術移転センター(CPTTM)**が、マカオ国際貿易投資博覧会(MIF)と共催する「マカオファッションフェスティバル」(Macao Fashion Festival/以下、MFF)だ。今年は10月19~22日の4日間に渡り、マカオ最大のカジノリゾートであるヴェネチアン・マカオで開かれ、地元のファッションデザイナーやブランド約50組を含む約80組が、ランウェイ形式によるファッションショーやショーケース展示などで最新コレクションを披露した。
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MFF2023は、同時開催のマカオ国際貿易投資博覧会会場の一角で行われた
2010年からスタートし、今年で14回目を迎えるMFFだが、デザイナーの層の広がりに加えて、グレーターベイエリアとの連携が強まっていることも奏功し、マカオファッションを訴求するプラットフォームとしてのコンテンツ力や発信力が高まってきた。MFF2023の6つの見どころと、それを支えるマカオファッション業界の取り組みについてレポートする。
*香港、マカオと、広東省の9都市(広州、深圳、佛山、東莞、恵州、中山、江門、珠海、肇慶)をひとつの経済圏と捉え、ともに地域の経済発展をめざす構想。2017年に中国政府、香港、マカオ、広東省が中心となりスタートした。
**1996年にマカオ政府と民間企業が共同で設立した非営利団体。 マカオ企業の生産性と競争力の向上、地元人材の質の最適化を支援することを使命としている。MFFのイベント企画・運営を主導するほか、MFF以外においても、マカオ唯一のファッション&クリエイティビティーのスペシャリスト養成機関ハウス・オブ・アパレル・テクノロジー(HAT)や、マカオファッションのコレクション展示や販売を行うマカオファッションギャラリー(https://macaofashiongallery.com/en/)の運営など、マカオ政府とともに、地元デザイナーたちの活動を多岐に渡りサポートしている。
1. コロナ禍で進んだデジタル施策
スマートフォンを手にライブ配信を行うパーソナリティ。バックステージの模様を投稿するモデルたち。フォトグラファーが並ぶ撮影ブースの隣でドローンカメラを操縦するイベントスタッフ。MFFでここ数年力を入れているのが、デジタルツールを駆使した情報発信だ。コロナ禍のあいだ、マカオに渡航できないメディアやバイヤーのために、FacebookやWechat、インスタグラムなどでライブ配信や情報発信を行った。コロナ禍に対応した施策ではあったが、マカオのファッションを身近に感じてもらえる機会につながっている。
また、会期3日目に行われたMACONSEF***の学生たちのショーでは、3D映像によるデジタルファッションショーとフィジカルなランウェイショーを同時に見せるユニークな試みも行われた。同イベントを主導するCPTTMのクリエイティブファッション&イメージ部シニアマネージャーのレニー・ン氏によると、デジタルファッションショーはもともと、コロナ禍において海外のビジネスショーに出向くことができなかったデザイナーや、物流遅延によって中国の工場から製品が手元に届かないなどのトラブルに見舞われたデザイナーたちのために開発したものだという。海外のビジネスショーに映像データを送り、メディアやバイヤーにコレクションを紹介するため、よりリアルさを追求している。
***マカオ唯一のファッション&クリエイティビティーのスペシャリスト養成機関ハウス・オブ・アパレル・テクノロジー(HAT)での18カ月間のディプロマプログラムを修了した学生が、さらに実践的なプログラムを学ぶ機関
2. マカオファッションをアピールするコンテンツ力 日本人アーティストの初参加も
フラワーアーティストたちによる作品ショー(マカオ華道デザイナー学院)や、キッズモデルたちが大人顔負けのポージングやウォーキングを披露するショー(マカオ青年モデル協会)など、コンテンツやプレゼンテーションの幅が広がっているのが、近年のMFFの特徴だ。ファッションを軸としながら、「より多くの交流が生まれることで、MFFのアピール力を強め、グローバル化させる」(ン氏)ことが狙いだという。
MFF2023のハイライトのひとつとなったのが、最終日に行われたイザベラ・チョイ氏による「Nega.C Fashion」のショーだ。タイの人気スター6人(愛称:サニー、ノウル、パク、ピート、フォート、ボス)をフロントロウに迎え2023秋冬コレクションを披露した。6人との写真撮影などを含むチケット制のショーだったことから、会場は各国から訪れたファンで賑わいを見せた。このショーのために日本から来たというファンの女性は、中国のeコマース大手タオバオ(淘宝網)で同ブランドの商品約5万円分を購入しショーの応募資格を手に入れたという。
フィナーレに登場したデザイナーのイザベラ・チョイ氏。英語でのスピーチも行った。
タイからのゲスト招致が実現したのは、チョイ氏自身がタイのチュラロンコン大学の修士課程で文化管理(Cultural Management)を学ぶため、今年の5月まで留学していたことがきっかけだった。MFFに参加するのは2年ぶりだったことから、何か特別なショーを実施しようとCPTTMと話し合いを重ねていたところ、6人との縁が繋がったという。ランウェイショーでは、デニムを軸としたカジュアル服からラッフルやチュール素材を多用したドレス群まで60ルックを披露した。この日のためにゲスト6人の衣装も特別に製作したというチョイ氏は、「今後メンズラインを立ち上げるという予定は今のところはないが、ファッションはジェンダーに関係なく楽しめるもの。私のブランドが男性にも注目してもらえる機会となり、また、彼らのファンが来てくださったことで、より多くの方に知ってもらえると嬉しい」と話した。
MFFが2010年にスタートして以来、初めて日本人アーティストが参加したのも、今回の大きなトピックだろう。マカオ華道デザイナー学院(The Macau Academy of Flower Arrangement Designer)によるショーは昨年からスタートしたが、今年は初めて中華圏以外の国・地域を含む5カ国・地域(マカオ、中国本土、香港、日本、韓国)から27人のフラワーアーティストを招き、花とファッションをテーマにしたショーを実施した。そこで作品を披露したのが、世界的フラワーアーティストの佐々木直喜氏に師事する若手アーティスト、戸川力太氏だ。戸川氏自身、花とファッションをテーマにした作品づくりも、海外で作品を披露するのも初めてだったという。「新しいものを生み出すという点において、花の世界もファッションの世界も近いものがあると感じた。作品については、ドレスの細かな文様からデザインを抽出し、また、日本人であるということを意識して製作した」と戸川氏。海外のアーティストと共演したことで、「固定概念にとらわれない自由な考え方が必要であることを改めて感じた。この場にいないと感じられない空気感から得るものも大きく、いい経験になった。今後も誰かの心を動かせるような表現を大切にしたい」と語った。
3. グレーターベイエリアとの協力・交流の先にあるもの
同イベントで近年力を入れているのが、グレーターベイエリアのファッション業界との相互連携だ。MFF2023初日は、マカオとともに同エリアに属する香港、深圳、広州、中山から招いたデザイナーたちによるコレクションショーがオープニングを飾った。また、イベント会場前では、マカオ、香港、深圳、珠海の7つのファッションデザイン教育機関の新人デザイナーによるコレクションも展示した。
コロナ禍のあいだに、地理的にも近いグレーターベイエリアの結びつきはより一層深まっており、CPTTMも、「今後も、グレーターベイエリアをファッションデザインのプラットフォームとして、都市同士の交流と協力をさらに促進していく」という。
広州から参加したMohuaデザイナーのホウ・シャオリン氏
招待デザイナーたちも、参加の狙いはそれぞれだが、海外でのコレクション発表に総じて意欲的だ。Doris Kathデザイナーのドリス・キャス・チャン氏(香港)は、「香港も市場規模が小さく、デザイナーが一丸となり香港デザインを海外に広めるために活動している。今回、香港ファッションデザイナー協会(HKFDA)を通じてオファーをいただき、香港代表として作品を発表できることに喜びを感じている」と話した。Mohuaデザイナーのホウ・シャオリン氏(広州)は、「無形文化遺産の職人と多く仕事をしており、私のデザインする衣服は中国文化そのもの。しかしながら、そうした職人たちの高齢化も進んでいる。伝統的な要素にトレンドを加えることで、海外や若い世代に広くアピールしていきたい」という。また、YIZHUOデザイナーのビビアン・ザオ氏(深圳)は、「私のブランドがターゲットとする若年層は、オリジナリティーを重視する世代。私自身も独自のクリエーションを貫くことが大切だと考えており、そのためのインプットやセンスアップが欠かせない。ファッション以外のことからインスピレーションを得ることもあるが、海外のイベントに参加することは、デザイナー活動をする上でとても刺激になる」と話した。
今後もMFFをマカオファッションを国際市場にアピールするためのプラットフォームとして機能させていく。マカオでは4月1日からマカオへの渡航者の入境要件を全面的に撤廃したが、ン氏は、「MFFのための準備は1月から。その後の4月に規制が撤廃されたため、海外からの参加者を呼び込む準備が十分だったとは言いがたい。コロナ禍によってグレーターベイエリアの結びつきは強まっているが、来年以降は、より多くの地域の参加を呼びかけ、交流を深めたい。もちろん、その中には日本も含まれている」という。
グレーターベイエリアの学生たちによる作品展示
地元ファッション市場の国際化とともに、マカオのファッション業界が力を注ぐのが、若手デザイナーの人材育成だ。ン氏は、グレーターベイエリアとの交流と協力の先にあるのは、「マカオのデザイナーたちがグレーターベイエリアに行き、ファッションデザインを学ぶことにある」という。「中国は、LAやNY、東京と並ぶ大きな市場だ。テキスタイルの産地であれば広州、マーケティングを学ぶなら香港や深圳、そして、グレーターベイエリア以外にも、北京や大連、上海などがある。すでに各都市のビジネスショーで作品展示を行っており、また、マカオには生産拠点がないことから、デザイナーたちとともに、こうした都市で工場とのネットワークづくりやビジネスパートナー探しも行っていきたい」。
(Written and Photographed by 戸田美子)
- 約80組が参加 マカオ 最大のファッションイベント「マカオファッションフェスティバル2023」10月19~22日開催:中国グレーターベイエリアの連携より深める
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- マカオから世界的デザイナーを輩出するには?:「マカオファッションフェスティバル2023」レポート【後編】