ファッショントレンドは終わった。 セオリー(Theory)が1年前から展開しているセオリープロジェクト(Theory Project)のラインに賭けているように、消費者はほかの優先事項を念頭に買い物をしている。つまり消費 […]
ファッショントレンドは終わった。
セオリー(Theory)が1年前から展開しているセオリープロジェクト(Theory Project)のラインに賭けているように、消費者はほかの優先事項を念頭に買い物をしている。つまり消費者は昼も夜も関係なく、また季節も問わず着ることができ、そして理想的には何通りもの着こなしが可能な、投資に見合う最大限にお得なアイテムを求めているのだ。
ワードローブを増やすという汎用性の高いアプローチ
セオリープロジェクトについて、デザイナーのルカ・オッセンドライバー氏は「これはファッションではない。ワードローブアイテムだ」と語る。2021年、オッセンドライバー氏はセオリーに加わり、年に2回コレクションを発表するこのサブブランドの指揮を執っている。第3弾となる2023年秋コレクションは10月3日に発表された。「毎シーズン、革命ではなく進化を遂げている。アイテムは以前のコレクションや人々が自分のワードローブに所有しているほかの服にマッチする。アイテムの有用性が高く、多くの価値を得られる」。
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オッセンドライバー氏は新しいリサイクルポリ・リバーシブルボマージャケット(Recycled Poly Reversible Bomber Jacket)を例に、その汎用性について説明した。メンズ(595ドル、約8万9000円)とウィメンズ(495ドル、約7万4000円)があり、サイズとディテールを選んでカスタマイズが可能だ。ウールのレイヤーを裏返しにすれば、モノクロームのルックか、対照的なキルティングのサテンのスリーブがついた「より表情豊かな」スタイルに変化させることができる。
ワードローブに加えるアイテムとしてコレクションを扱うというアプローチは、デザイナーのあいだで流行しつつある。不景気のため人々が自由に使える支出は最小限に抑えられている。そして10月5日のランスルーポッドキャスト(The Run-Through Podcast)で英国版『Vogue』の新エディトリアル・ディレクター、チオマ・ナンディ氏が語ったように、特別な日のための一回限りの買い物よりも、「実際の生活のために服を着ることのほうがいまは重要で緊急性が高いと感じられる」。ポッドキャストで共同ホストを務めたVogueランウェイ(Vogue Runway)のグローバルディレクター、ニコール・フェルプス氏は、トム・フォード(Tom Ford)のピーター・ホーキングス氏のデビューコレクション、特に「2024年春のコート(のようなもの)とは対照的に、何年も着られる」アウターウェアのアイテムを「有用性」の高いタイムレスなスタイルだと賞賛した。9月のミラノでは、アルマリウム(Armarium)、ヤリ(Yali)、イレブンティ(Eleventy)などのブランドが以前のコレクションを補完するフレッシュなオプションを追加している。またニューヨークではティビ(Tibi)のエイミー・スミロヴィック氏とアナザートゥモロー(Another Tomorrow)のリズ・ジャルディーナ氏が、パリではマーガレット・ハウエル氏が同様の発想を共有していた。
ハイファッションになることは想定していない
もちろん繰り返し着用しやすいルックは、たとえば、インスタグラムのために作られたかに思えるステートメントアイテムのように衝動買いを促すことはあまりない。特にeコマースという環境において、価格の違いがディテールにある場合はなおさらそれが当てはまる。メンズのボマージャケットを425ドル(約6万3700円)で販売する姉妹ブランドとくらべると、セオリープロジェクトは「同じ言葉を使い」ながら「品質と生地が若干上等」で、「ややクリエイティブ」だとオッセンドライバー氏は言う。セオリープロジェクトは、セオリーの直営店(米国内に13店舗)と、ブルーミングデールズ(Bloomingdale’s)やセルフリッジ(Selfridges)など少数の小売店で販売されている。
「比較的シンプルでわかりやすく、それでいておもしろくて凡庸ではない、着用しやすい服を作るのは難しい」とオッセンドライバー氏は言う。
このラインのマーケティングも、モデルや写真が「やや率直」であることを除けば、セオリーと大きな違いはないという。話題のフォトグラファーであるタイラー・ミッチェル氏が撮影した2023年秋のキャンペーンは、ミニマルな背景と時には微笑んでいる若い見た目のモデルを起用している。
「ファッションにはしたくないと思っている。ハイファッションになることは想定していないし、また決してそうはならないからだ」。
オッセンドライバー氏にとって、ハイファッションのメゾンからコンテンポラリーなレーベルへの移行にあたっては、かなりの抑制が必要だった。2021年にセオリーに入社する前、同氏はランバン(Lanvin)のメンズウェアディレクターとして14年間を過ごし、それ以前はケンゾー(Kenzo)とディオール・オム(Dior Homme)で働いていた。
ラグジュアリー出身者を起用するセオリー
1997年にアンドリュー・ローゼン氏が創業したセオリーは、2009年にユニクロ(Uniqlo)とヘルムート・ラング(Helmut Lang)を所有するファーストリテイリング(Fast Retailing)に買収された。それ以来、セオリーはラグジュアリーファッション出身者をリーダーやクリエイティブチームに起用することを習慣としている。かつてニナ・リッチ(Nina Ricci)とロシャス(Rochas)にいたオリヴィエ・テイスケンス氏が、2010年から2014年までセオリーのデザインを担当していた。また、前クリエイティブディレクターのフランチェスコ・フッチ氏は2017年にザ・ロウ(The Row)から移籍した人物だ。2022年からは、伝説的なハイファッション小売店ジェフリー(Jeffrey)を創業したジェフリー・カリンスキー氏がチーフマーチャント兼チーフクリエイティブオフィサーを務めている。一方、グローバルCEOのディネッシュ・タンドン氏はバリー(Bally)やヴェルサーチ(Versace)で指導的役割を果たした人物で、8月にセオリーUKおよびヨーロッパのCEOに就任したマルコ・ジェンティーレ氏はクロエ(Chloé)、バーバリー(Burberry)、ケリング(Kering)に在籍していた。
オッセンドライバー氏によれば、セオリーへの入社はスムースで、故郷であるパリにアトリエと小さなチームを構えたまま、パターンカッターと直接仕事ができたことも助けになったという。同氏は6~8週間ごとにニューヨークに行き、他の部署と仕事をする。デザインのメソッドはデッサンではなく、マネキンの上で行うやり方を好んでいる。そして、ストリートで人々が着ているものから相変わらずインスピレーションを受けている。
オッセンドライバー氏が行った調整には、より大規模で時間をかけた生産への適応なども含まれていた。ランバンでは6カ月というスケジュールだったが、製造工程や生地の在庫の関係でセオリーは1年というスケジュールで生産している。さらに、ウィメンズウェアにもフォーカスを拡大した。いくつかのアイテムにはメンズとウィメンズのバージョンがあるが、「身体は同じではない」ため、セオリープロジェクトをジェンダーレスなコレクションにする予定はないという。
新たな購買層における成長の可能性
セオリーは以前から実験的な試みを行っており、特にワークウェアに特化したコアコレクションを、より幅広い買い物客にアピールすることを意図した派生的なコレクションで補ってきた。それは2017年に部門横断的なセオリーの従業員によって作られた若い買い物客向けのセオリー2.0という形で登場している。また、「ティスケンス・セオリー(Theyskens’ Theory)」は、「セオリー・バイ・オリヴィエ・ティスケンス(Theory by Olivier Theyskens)」がデビューする前に一時的に独立したコレクションとなったが、セオリーの顧客にとってはあまりに急進的だったことが判明したと報じられている。
ハイエンドなスニーカーを販売しているというオッセンドライバー氏の評判を考えると、アクセサリーはセオリープロジェクトにとって機会をもたらす。これまでセオリーは、ニューヨークを拠点とするコモンプロジェクツ(Common Projects)などサードパーティブランドによる追加のアイテムでプレタポルテを構成してきた。秋には、オッセンドライバー氏が春にデビューさせたセオリープロジェクトのスニーカーにハイトップバージョンを加え、ブーツ、パンプス、ローファーの単独のスタイルも展開する。
そのほか、新たな購買層における成長の可能性もある。オッセンドライバー氏によれば、セオリープロジェクトの顧客層はセオリーの顧客層よりも若干若く、30代前半だという。そして、ヨーロッパと英国を含む市場がセオリーのターゲットだ。北米とヨーロッパは現在、ファーストリテイリングのビジネスのわずか12%を占めるに過ぎず、一方で日本が単独で売上の36%を牽引している。
日本に本社を置くファーストリテイリングは、7月に5月31日締めの四半期決算を発表し、アジアにおける「特に好調な業績」を含め、セオリーの売上高と利益が「かなり増加」したことを明らかにした。ヘルムート・ラングを含むファーストリテイリングのグローバルブランド部門は事業のわずか5%を占めているが、前年同期比で18%の増収となった。ファーストリテイリングは各グローバルブランドの売上高を公表していない。同社は、全体として過去最高益を更新し、2023年の業績予想を上方修正した。
「ここ数年で状況は急速に変化している」とオッセンドライバー氏は言う。「みんなと同じように見えることは誰も求めていない。男性はスーツをほとんど着なくなった。だから我々は、何かを命令しようとするのではなく、解決策を提案している。もう決まりなどはひとつもないのだ」。
[原文:Luxury Fashion: Theory Project and the rise of the anti-fashion ‘wardrobe’ brand]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)