7月17日、スイスのラグジュアリーグループ、リシュモン(Richemont)が2023年第1四半期の決算を発表、米国での売上高が前年同期比2%減少したことを明らかにした。その3日前、英国のラグジュアリーファッションブランド、バーバリー(Burberry)は、2022年第4四半期の米国での売上高が7%減少したのに続き、四半期ベースで同市場の売上高が前年同期比8%減だったと報告している。両社とも、第1四半期に不振に陥った市場は米国だけであった。
ラグジュアリーブランドは、米国で不利に働くいくつかの要因を抱えている。憧れの強いラグジュアリー購買者、つまり、原則的にラグジュアリーブランドで購入しているのではなく、ごくたまにラグジュアリーで買い物をする人たちは、購買力を蝕むインフレーション、金利上昇、クレジットカードの負債に悩まされている。またパンデミックのさなかの供給不足によるパニック買いを経て、多くの小売パートナーが在庫調整や購入の撤回などを行い、軌道修正している。
「極端な場合、在庫調整は6四半期にも及ぶ可能性がある」と、投資ファンド、テマラグジュアリーETF(Tema Luxury ETF)のポートフォリオマネージャー、ハビエル・ゴンザレス・ラストラ氏(CFA)は言う。
リシュモン側は、米国での売上減少の原因を卸売チャネルの減少としている。リシュモンは、クロエ(Chloé)、カルティエ(Cartier)、ヴァンクリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)などのブランドを所有している。
この記事は、DIGIDAY[日本版]のバーティカルサイト、ビューティ、ファッション業界の未来を探るメディア「Glossy」の記事です。
7月17日、スイスのラグジュアリーグループ、リシュモン(Richemont)が2023年第1四半期の決算を発表、米国での売上高が前年同期比2%減少したことを明らかにした。その3日前、英国のラグジュアリーファッションブランド、バーバリー(Burberry)は、2022年第4四半期の米国での売上高が7%減少したのに続き、四半期ベースで同市場の売上高が前年同期比8%減だったと報告している。両社とも、第1四半期に不振に陥った市場は米国だけであった。
ラグジュアリーブランドは、米国で不利に働くいくつかの要因を抱えている。憧れの強いラグジュアリー購買者、つまり、原則的にラグジュアリーブランドで購入しているのではなく、ごくたまにラグジュアリーで買い物をする人たちは、購買力を蝕むインフレーション、金利上昇、クレジットカードの負債に悩まされている。またパンデミックのさなかの供給不足によるパニック買いを経て、多くの小売パートナーが在庫調整や購入の撤回などを行い、軌道修正している。
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「極端な場合、在庫調整は6四半期にも及ぶ可能性がある」と、投資ファンド、テマラグジュアリーETF(Tema Luxury ETF)のポートフォリオマネージャー、ハビエル・ゴンザレス・ラストラ氏(CFA)は言う。
リシュモン側は、米国での売上減少の原因を卸売チャネルの減少としている。リシュモンは、クロエ(Chloé)、カルティエ(Cartier)、ヴァンクリーフ&アーペル(Van Cleef & Arpels)などのブランドを所有している。
買い物客の消費はハイエンドな製品から体験やサービスへ
リシュモンの決算発表直後、同社の株価は1年以上ぶりの大幅な下落となり、下落率は約10%だった。LVMHとエルメス(Hermès’)の株価もそれぞれ5%前後下落するなど打撃を受け、投資家の市場における信頼感の低下を示している。同じく7月17日に発表された中国のGDPデータが成長の鈍化を示したことは注目に値する。
「多くのラグジュアリー企業にとって、今や中国は米国よりも重要だ」とゴンザレス・ラストラ氏は言う。
消費者の習慣という意味では、超富裕層の買い物客を除けば、ラグジュアリー製品への地元の裁量支出が減少していることは否定できない。バーバリーは決算で、米国のラグジュアリー市場のローエンドが軟化していると報告した。一方、7月19日に副CEOに昇格し、オペレーションと財務を担当しているケリング(Kering)のジャン=マルク・デュプレ氏は、2月に「憧れの強い顧客は、ある意味ひと休みしている」と述べたと報じられている。したがってラグジュアリーブランドが上位1%に注力しているのは驚くことではない。
同時に、買い物客の消費はハイエンドな製品からラグジュアリーの体験やサービスへとシフトしている。だがインフレーションがいまやサービスにも押し寄せているため、それも束の間かもしれない。
「経済は実際には良好だ」と、SAPのエグゼクティブファッションアドバイザー、ロビン・バレット・ウィルソン氏は述べた。「人々は消費している。飛行機は満席、ホテルも満室だ。だが消費者は必ずしもファッションを購入しているわけではない。体験を買っているのだ。人々はディナーには出かけている」。同氏は、ブランドは店舗に体験を持ち込み、このトレンドに乗るよう提案した。
2023年4月、サックスラグジュアリーパルス(Saks Luxury Pulse)がラグジュアリー購入者を対象に行った調査によると、53%が次の3カ月間に、その3カ月前と同じか、それ以上の金額をラグジュアリーアイテムに費やす予定だと回答した。一方、71%が旅行には同じかそれ以上の支出を予定している。
今後の米国のラグジュアリー消費は低迷か、回復か
さらに、銀行がローンやクレジットカードへのアクセスを制限しているため、金融引き締めが迫っている。
ゴンザレス・ラストラ氏によれば、リシュモンは売上の大半を占める高価格帯のジュエリーと時計に注力しているため、憧れを抱く消費者への依存度は低い。しかしリシュモンのブランドが価格上昇のトレンドを維持すると、より多くの消費者層を排除するリスクがある。リシュモン傘下のカルティエは、第2四半期に1桁台半ばの値上げを行っている。
LVMHの最高財務責任者ジャン=ジャック・ギオニー氏は、4月に行われた第1四半期の決算説明会で、同グループのヘネシー(Hennessy)ブランドは、急な値上げが「一部の顧客が受け入れるには少し難しすぎる」ことが判明したため、米国での需要が減速したと述べた。同氏は、グループ全体として、今後1年間の値上げには慎重な姿勢で臨む予定だと付け加えた。
LVMHの米国売上高は、2022年第4四半期と今年第1四半期の両方で前年同期比8%増となり、最近は頭打ちとなっている。ギオニー氏は、他のLVMHブランド(ファッション、皮革製品、ジュエリーのカテゴリーを含む)の需要が鈍化し、「横ばい」となっている中、同グループとしてはセフォラ(Sephora)の好調な事業がバランスをもたらしている点に感謝すべきだろうと述べた。
一方、ケリングの第1四半期の北米売上高は前年同期比で18%減少した。
今後どうなるかについては、さまざまな可能性に左右されるため誰にもわからない。たとえば、パンデミック時に発行された政府資金が予想以上に長引き、ついに底をついた場合、米国のラグジュアリー消費は引き続き低迷する可能性がある。さらに、今年後半には銀行の融資基準がさらに厳しくなる。さらにその後、2024年の選挙が売上に悪影響を及ぼすと予想されている。
だが、消費者信頼感が上昇基調を維持し、インフレ率が下がり続け、賃金上昇率がペースを保っていけば、「ラグジュアリー消費はすぐに底を打ち、回復し始めるだろう」とゴンザレス・ラストラ氏は述べた。
リシュモン最高財務責任者のブルクハルト・グランド氏によると、同社の米国での売上は5月からすでに回復し始めているという。
リシュモンの2023年第1四半期の売上高は、アジア市場とジュエリー部門が主要な牽引役となり、全体で前年同期比19%増となった。一方、バーバリーの総収益は17%増で、アジアでの46%増がこれを押し上げている。
米国以外の市場では、ヨーロッパ(とヨーロッパへの世界的な観光客)が11%の増収を記録した。日本での売上は14%増、中東とアフリカでの売上は15%増だった。
ケリング、LVMH、エルメスなどのラグジュアリー企業は7月末に決算を発表する。
[原文:Luxury Briefing: US luxury spending expected to ‘bottom out’]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)