マルチブランドのファッション帝国を展開するひと握りの起業家たちは、米国版LVMHを築こうとしているといわれてきた。2016年、『ニューヨーク・タイムズ』紙のヴァネッサ・フリードマン氏は、アダム・プリツカー氏とヴァネッサ・トレイナ氏のアセンブルド・ブランズ(Assembled Brands)がコングロマリットであるLVMHの米国におけるカウンターパートとなり得るかどうかについて疑問を呈した。その4年前、アナ・ウィンター氏はアンドリュー・ローゼン氏のビジネスを米国におけるLVMHと評している。そして昨年、ナーダム(Naadam)のマット・スキャンラン氏は、「次のLVMH」を作ることを自身のビジネスの目標としていた。
だが、8月10日、タペストリー(Tapestry, Inc.)がカプリホールディングス(Capri Holdings Limited)を85億ドル(約1.2兆円)で買収すると発表、米国に誕生した世界有数のファッショングループという、かつては現実離れしていた概念が現実味を帯びてきた。この買収が来年発効すれば、米国企業一社が6つの主要ファッションブランドを所有することになり、年間総売上高が120億ドル(約1.7兆円)に達する。また、各ブランドの相互補完的な強みと、そこから成長する可能性から、アナリストは、タペストリーがヨーロッパの巨大ファッション企業に引けを取らない存在になるという偉業をいつか達成するかもしれないと述べている。
だが、今日の消費者製品の状況における大企業の優位性を考慮するなら、米国のファッションビジネスが成功する可能性には今回の取引のような戦略的飛躍が必要かもしれない。
ブランドポートフォリオ内の分散でリスクを下げる
「戦略的観点から、明らかにアメリカのLVMHをやろうとしている」と、タペストリーとカプリホールディングスに出資している投資ファンド、テマラグジュアリーETF(Tema Luxury ETF)のポートフォリオマネージャー、ハビエル・ラストラ氏(CFA)は語った。
マルチブランドのファッション帝国を展開するひと握りの起業家たちは、米国版LVMHを築こうとしているといわれてきた。2016年、『ニューヨーク・タイムズ』紙のヴァネッサ・フリードマン氏は、アダム・プリツカー氏とヴァネッサ・トレイナ氏のアセンブルド・ブランズ(Assembled Brands)がコングロマリットであるLVMHの米国におけるカウンターパートとなり得るかどうかについて疑問を呈した。その4年前、アナ・ウィンター氏はアンドリュー・ローゼン氏のビジネスを米国におけるLVMHと評している。そして昨年、ナーダム(Naadam)のマット・スキャンラン氏は、「次のLVMH」を作ることを自身のビジネスの目標としていた。
だが、8月10日、タペストリー(Tapestry, Inc.)がカプリホールディングス(Capri Holdings Limited)を85億ドル(約1.2兆円)で買収すると発表、米国に誕生した世界有数のファッショングループという、かつては現実離れしていた概念が現実味を帯びてきた。この買収が来年発効すれば、米国企業一社が6つの主要ファッションブランドを所有することになり、年間総売上高が120億ドル(約1.7兆円)に達する。また、各ブランドの相互補完的な強みと、そこから成長する可能性から、アナリストは、タペストリーがヨーロッパの巨大ファッション企業に引けを取らない存在になるという偉業をいつか達成するかもしれないと述べている。
だが、今日の消費者製品の状況における大企業の優位性を考慮するなら、米国のファッションビジネスが成功する可能性には今回の取引のような戦略的飛躍が必要かもしれない。
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ブランドポートフォリオ内の分散でリスクを下げる
「戦略的観点から、明らかにアメリカのLVMHをやろうとしている」と、タペストリーとカプリホールディングスに出資している投資ファンド、テマラグジュアリーETF(Tema Luxury ETF)のポートフォリオマネージャー、ハビエル・ラストラ氏(CFA)は語った。
8月8日の投資家向けプレゼンテーションでは、両社のリーダーと同様にラストラ氏もブランドポートフォリオ内の分散、すなわちブランド、製品カテゴリー、地理的市場間の分散が結果としてリスクを下げている点を指摘した。たとえば境界線上にある 「モノブランド」 から脱却するのは賢明だと同氏は述べている。タペストリーではコーチ(Coach)、カプリではマイケル・コース(Michael Kors)が事業の大部分を牽引している(コーチは直近四半期で76%、マイケル・コースは64%)。「ひとつのブランドだけに依存することは非常に危険だし、非常に不安定だ」。
さらにコーチ、ケイト・スペード(Kate Spade)、スチュアート・ワイツマン(Stuart Weitzman)を擁するタペストリーはアクセサリーに過剰なインデックスを持ち、かたやマイケル・コース、ヴェルサーチ(Versace)、ジミー・チュウ(Jimmy Choo)を所有するカプリはプレタポルテ、フットウェア、ライセンシングで成功を収めている。また、両社とも米国が最大の市場だが、タペストリーはアジアに比較的強く、事業の29%をアジアが占めているのに対し、カプリは16%である。かたやカプリはヨーロッパでの事業比率が高く、事業の28%はEMEAで生み出されているのに対し、タペストリーは6%だ。
一方、カプリはタペストリーのすぐれたデジタル技術から利益を得る立場にあり、タペストリーは、繁栄し安定していることで名高いラグジュアリー市場へのアクセスを得ることができるだろう。
デジタルファーストによる規模拡大が今回の買収に繋がった
2020年初頭、CEOのジョアン・クレヴォイセラ氏のもと、タペストリーは「デジタルファーストの考え方で、より機敏に、データ主導で」会社を発展させることを目的としたアクセラレーションプログラムを導入した。以降、同社は北米で1500万人の新規顧客を獲得、デジタル売上を3倍以上に伸ばし、2022年には67億ドル(約9710億円)という記録的な年間売上を達成している。
7月中旬、SAPのエグゼクティブファッションアドバイザーであるロビン・バレット・ウィルソン氏は、タペストリーのブランドの収益性といった最近の強さを指摘した。ウィルソン氏いわく、それはデジタルの専門知識の必要性をさらに深刻化したパンデミックに先立って、デジタルに支えられた「エンドツーエンド」の変革への道筋を確立したクレヴォイセラ氏の先見性によるものだ。クレヴォイセラ氏は8月8日のプレゼンテーションで、高度なデータとデジタルプラットフォームの規模拡大を実現したことが、タペストリーによるカプリ買収の原動力になったと述べている。
ジェフリーズ(Jeffries)の株式アナリスト、アシュリー・ヘルガンズ氏とブレイク・アンダーソン氏はEメールで、今回の買収はカプリホールディングスの株主にとってプラスになるとみているものの、タペストリーの投資については「驚いて」おり、理由のひとつに「現在の(同社の)戦略の勢い」 があると述べている。
相乗効果によるコスト削減や出店へのメリット
クレヴォイセラ氏によると、すべての関係会社はリーダーシップチームを維持し、合計3万3000人の従業員はそのまま残る。だが、「相乗効果」があるため、3年後には両社合わせて年間2億ドル(約290億円)の節約になるという。タペストリーのCFO、スコット・ロー氏によると、両社は企業施設、物流、輸送、サプライチェーンにおけるコスト削減の恩恵を受けるという。サプライチェーンに関しては、たとえばタペストリーには皮革製品製造に関する独自の専門知識があり、それはカプリに有利に働くだろう。ラストラ氏は、2億ドル(約290億円)という目標は野心的なものではないとし、両社の相乗効果によってさらに多くの節約につながると期待している。
4月、ボストンコンサルティンググループ(Boston Consulting Group)のラグジュアリー部門責任者サラ・ウィラースドルフ氏は、進行中のラグジュアリー部門における統合と 「多くの買収」 を予測しつつ、ラグジュアリー企業にとって規模の拡大の「非常に大きなメリット」について指摘した。特に、たとえば卸売パートナーやメディアと交渉する際の「力」という点でのメリットがある。
これについてラストラ氏は、タペストリーの6つのブランドがさらに出店することを期待していると述べた。「我々は皆、世界のどこにでも一流の大型モールがオープンすれば、LVMHが最高の店舗を手に入れることを知っている。だが、LVMHが規模をさらに拡大して資金力を得れば、各ブランドはさらによい立地によい店舗を手に入れることができる。それが相乗効果の一部なのだ」。
LVMHと肩を並べるにはまだ道は遠い
8月上旬、Glossyのポッドキャスト、ウィークインレビュー(Week in Review)の収録中に取り上げた3つのニュースに関する話題のうち2つでLVMHの名前が出た。ビルケンシュトック(Birkenstock)が上場すれば、LVMHの投資部門であるLキャタルトン(L Catterton)が所有する企業としては今年2社目となる。一方、フィービー・ファイロ氏はこのコングロマリットからマイノリティ出資を受けて、自身の名を冠したブランドのローンチ準備を進めている。LVMHについて繰り返し言及されたため、「この巨大企業がいかに大きくなり続けているか」についての議論が交わされた。LVMHを儲けさせている企業の網は明らかに広がっている。
そのため、6つのブランドと2022年に792億ユーロ(約12.6兆円)だったLVMHの年間売上高の数分の1しかないタペストリーが、LVMHと比較されるにふさわしいと思える存在になるにはまだ道のりは遠い。ラストラ氏は、タペストリーが今回の取引に関連する負債を、2年かかる予定の作業を経て返済した後、M&A活動を活発化させるだろうと予想している。「これが最後の買収になるわけではないだろう」と同氏は述べた。
だが、タペストリーが手頃なラグジュアリー市場に傾倒するのか、それともプレミアムラグジュアリー市場に傾倒するのかは不明だという。「欧州のプレミアムプレーヤーとチャンピオンズリーグで戦いたいなら、よりハイエンドなポジションにあるブランドを買収しなければならない。そしてそれは必要な投資という点で、また違ったゲームになる」とラストラ氏は言う。
タペストリーにとって今後予想される課題としては、プレゼンテーションでアナリストらが指摘したように、卸売チャネルで苦戦しているカプリのマイケル・コース・ブランドを安定させることだ。クレヴォイセラ氏は、アジア市場、メンズカテゴリー、デジタル機能とともに、直販チャネルに同ブランドのチャンスがあると語った。
「(タペストリーの新ブランドが)2024年に再生をローンチする前に、かなり残酷なチャネルの最終処分があるかもしれない」とラストラ氏は述べた。
タペストリーは、カプリの売上高が今年は減少し、その後3年間は前年比1桁の伸びが続くと予想している。
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)