2024年春のニューヨーク・ファッションウィーク(NYFW)では、デザイナーのコレクションは大きく2つのグループにわかれた。実用的か空想的か、明らかに実用的か意図的に気まぐれか、といった具合だ。しかし今シーズンの支配的なテーマとしては、どのデザイナーも共通して商業的に実現可能であることに注力していたように思える。
ティビ(Tibi)の創業者でデザイナーのエイミー・スミロヴィック氏は、モダンで機能的なパーソナルスタイルへの彼女の特徴的なアプローチである「クリエイティブな実用主義」に関する書籍を執筆している。ティビの春のランウェイでは、お馴染みのテーラードスタイルに意外性のあるディテールやニュートラルな色彩を取り入れ、洗いっぱなしの髪にヘアバンドという「快適で強制されない」美しいルックといった形で、そのアプローチを解釈している。
「私たちの顧客はワードローブの計画を立てるのが好きで、年間を通して私たちのブランドを購入している」とスミロヴィック氏は述べた。「だから来年の春にどんな商品が来るのかを見て、この秋は何を買おうかと考える。どのようにアイテムを組み合わせるのか、顧客はつねに考えている」。
2024年春のニューヨーク・ファッションウィーク(NYFW)では、デザイナーのコレクションは大きく2つのグループにわかれた。実用的か空想的か、明らかに実用的か意図的に気まぐれか、といった具合だ。しかし今シーズンの支配的なテーマとしては、どのデザイナーも共通して商業的に実現可能であることに注力していたように思える。
ティビ(Tibi)の創業者でデザイナーのエイミー・スミロヴィック氏は、モダンで機能的なパーソナルスタイルへの彼女の特徴的なアプローチである「クリエイティブな実用主義」に関する書籍を執筆している。ティビの春のランウェイでは、お馴染みのテーラードスタイルに意外性のあるディテールやニュートラルな色彩を取り入れ、洗いっぱなしの髪にヘアバンドという「快適で強制されない」美しいルックといった形で、そのアプローチを解釈している。
「私たちの顧客はワードローブの計画を立てるのが好きで、年間を通して私たちのブランドを購入している」とスミロヴィック氏は述べた。「だから来年の春にどんな商品が来るのかを見て、この秋は何を買おうかと考える。どのようにアイテムを組み合わせるのか、顧客はつねに考えている」。
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顧客は長く使えるワードローブに投資している
春のコレクションについて、同様に「いつもいろいろな着こなしができることを念頭に置いている」と語ったのは、アナザートゥモロー(Another Tomorrow)のクリエイティブディレクター、エリザベス・ジャルディーナ氏だ。リバーシブルのセーターやボタンダウンのブラウスには、ボタンが追加されてラップトップスとしても着用できると、同氏は指摘した。
8月、アナザートゥモローはモデルのキャロリン・マーフィー氏を起用したキャンペーンで、34点のアイテムから成る定番セパレーツコレクションのザ・ファウンデーション(The Foundation)をデビューさせた。だが、このブランドの「シーズナルでエモーショナル」な秋と春のコレクションは、非常にタイムレスでもあるという。「着用して1年後には終わっているようなものではない。顧客は長く使えるワードローブに投資している」。
創業3年目となるアナザートゥモローはBコープ認証を受けており、昨年中にネッタポルテ(Net-a-Porter)、サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)、ニーマン・マーカス(Neiman Marcus)、バーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)などの小売店に参入するなど、成長モードにある。海外への事業展開と、店頭で服にアクセスできるようにすることが、2024年の焦点となるだろう。
いま重要視されているのは多用途性
NYFWの半ば、ケネス・コール氏は自身の名を冠したファッションブランドの40周年記念式典で、このビジネスが長続きしているのは、「目的、実用性、技術」に注力しているからだと語った。後者には、温度調節やストレッチを可能にする素材のイノベーションが含まれている。
「人々のクローゼットの中に居場所を獲得しなければなならない。そして快適さは、我々のなすことすべてに注ぎ込まれている」。
実用性は多くのブランドのDNAだが、春のコレクションでは戦略として新たに耐久性に焦点を当てたブランドもあった。
たとえば、アルチュザラ(Altuzarra)のショーノートによると、デザイナーのジョセフ・アルチュザラ氏は、4シーズンにわたって「イマジネーションと神話」に着目してきたコレクションから、「日常的なスタイルと実用主義に軸足を置いた」コレクションへと意図的にギアを切り替えたという。
その点、アディアム(Adeam)の秋のコレクションは、パンクロックにインスパイアされたエッジの効いたものだったが、バレエにインスパイアされた春のコレクションでは「より抑制された」アイテムを提供していると、ブランドの創業者であり、デザイナー兼CEOの前田華子氏は語っている。
「(春の)コレクションは過度に『イブニングウェア』という感じではない」と前田氏は述べ、ドレッシーなアイテムでも簡単にドレスダウンできることを強調した。
前田氏は「多用途性は今日とても重要だ」と話す。「人々は一着を一度だけ着るのではない。重要なのは、何度も着ることができて、自分のワードローブにキープしておくことができること、そしてもしかするとそれを誰かに譲ることができることだ」。
過去のシーズンでは、ワードローブの定番アイテムは主にアディアムのプレ・スプリングとプレ・フォールコレクションに限られていたが、今回の春と秋のラインでは前田氏のクリエイティビティとインスピレーションが輝いたという。
実用的でありながら夢のようなデザイン
実用的なファッションと演劇的なファッションの領域について、デザイナーのチャールズ・ハービソン氏は、自分のデザインは意図的にその中間に位置していると語った。そのアプローチを説明するために、ハービソン氏は「昼間夢見る人は、夜だけしか夢見ぬ人には見えない多くのことを知っている」というエドガー・アラン・ポーの言葉を引用した。
「決して叶うことのない空想にフォーカスするのではなく、自分の夢を実現させることができる、そんな空間に身を置きたい」とハービソン氏は語る。「すべての顧客がこの世界で夢を実現する手助けをしたい。だから(私の服は)実用的でありながら、夢のようでもある」。
ハービソン氏のデザインのいくつかは着心地がよくサステナブルなジャージー素材で作られており、その多くは、腕を見せることに抵抗を感じる人のために袖がついている。同氏はまもなくフラットシューズを皮切りに、シューズをローンチする予定だ。
ラブシャックファンシー(LoveShackFancy)の創業者でクリエイティブディレクターのレベッカ・ヘッセル・コーエン氏は、春コレクションのプレゼンテーションで8月のGAPとの製品コラボレーションや9月の初のフレグランスなど、最近のローンチで顧客層が大きく広がったと語る。それを見越して、ブランドは今シーズンのデザインへのアプローチを更新した。
「気まぐれや夢のような心地よさ、おとぎ話の要素はまだ残っているが、これは私たちが行ったなかでもっとも着回しのきくコレクションだ」と、脱構築的なジャケットやテーラードスーツなどの新しいスタイルについてヘッセル・コーエン氏は述べている。「どの年齢層にも合うものがある」。同ブランドは、ソフトな花柄プリントとレースが特徴的な、ヴィンテージでロマンチック、コケティッシュなルックでよく知られている。
着ることにフォーカスした服を
4年前に創業したブランド、インテリア(Interior)の創業者、ジャック・マイナー氏とリリー・ミースマー氏は、ドラマがブランドのシグネチャーだという。「私たちは映画を作ることができないから、洋服を作る」とミースマー氏は語った。しかし同時に、着こなせる服を作るというのが譲れない点だ。そのため80年代にインスパイアされたインテリアの春コレクションが並ぶラックには、レトロなプロムドレスのようなフィットアンドフレアのドレスが、ミースマー氏が説明したような「デニムのように気軽に羽織れるレザー(のセパレーツ)」と一緒に吊るされている。ミースマー氏にはマーケティングの経歴があり、マイナー氏は以前ボーディ(Bode)で財務とオペレーションを担当していた。
「完璧なボディや銀行口座にかなりの残高が必要だったり、着心地が非常に悪いのを我慢しなくてはならなかったりして、美しくても着ることができないというアイテムを顧客に提供する際には緊張感が走る」と、ミースマー氏は述べた。インテリアのデニムは400ドル(約5万9000円)、ドレスは800ドル(約11万8000円)以上する。「人々に夢を売るだけでなく、それを着やすいもの、着ることにフォーカスしたものにすることもできる。私たちはつねに自分たちが誇れるものを、非常に拡張性のある形で作る方法を考え出そうとしている」。
美しく魅力的なパラレルワールドを創り出す
パロモ・スペイン(Palomo Spain)の創業者でデザイナーのアレハンドロ・ゴメス・パロモ氏は、「ファッションは夢を作るものであるべきだ」と言う。パロモ氏は9月9日にプラザホテルで、フェザーやレース、花のアップリケなど豪華なディテールを多用した春コレクションを披露した。「私たちは1日24時間、現実と向き合わなければならない。そして現実はそれほどいいものではない。私の仕事は、美しさ、魅力、幸せ、すてきなもののパラレルワールドを創り出すことだ」。
もちろん、キャンペーンイメージやファッションショーを通じて夢を作り出すことは、汎用性の高いタイムレスなスタイルを売り込むことよりも容易に多くのコストがかかる傾向にある。
パロモ氏いわく、2016年に派手なコレクションで最初にローンチして以降、パンデミック時には商業性に重点を置きすぎたが、いまは魅力と実用性の両方を考慮したちょうどよいバランスに落ち着いているという。たとえば、パロモ・スペインの春のランウェイショーでは、全体的にジーンズと重ね着可能なレースのトップスが散りばめられていた。
「そのバランスを達成することが、デザイナーとしてもっとも難しい部分だ」とパロモ氏は述べた。
また、パロモ氏はクリエイティブディレクターであると同時に「会社のボスであり、経済的な問題に対処しなければならない」ことの難しさも指摘している。後者を自分の弱点と呼び、たとえば「何かうまくいかないことがあったとき、人々をどう叱ったらいいのかわからない」と説明した。
目標は米国での小売のプレゼンスの確立
パロモ氏と彼の両親はパロモ・スペインの唯一のオーナーである。だが、パロモ氏は、資金調達を通じて成長へのアクセルを踏み込む準備はできているという。家族やインターンから正社員になった人たちだけでなく、「ジュニア」チームを成長させつつ、ポップアップや最終的な店舗展開によって米国での小売のプレゼンスを確立することが目標だ。さらに、パロモ・スペインのシューズで成功を収めたが、一貫して生産するにはコストがかかりすぎることが判明したため、アクセサリーの機会にも力を入れる。春には工場との強い関係を持つスペインのブランド、ビンバ・イ・ローラ(Bimba y Lola)と、アクセサリーでコラボレーションを行った。
このブランドは、本社がスペインにあるにもかかわらず、売上の70〜80%を米国、主にニューヨークで上げている。最近ニューヨークのレストラン、インドシン(Indochine)やザ・スタンダード・ホテル(The Standard Hotel)で目にしたことに触れ、パロモ氏は「ニューヨークのナイトライフとナイトスタイルはとてもグラマラスだ」と述べている。
パンデミックの絶頂期以来、#nightluxe と狂騒の20年代のトレンド、そして新しいD2Cのビジネスモデルにも助けられ、パロモ・スペインは特に米国で着実に成長しており、買い物客のロイヤルティも高い。そのためパロモ氏は、将来的なコレクションのデビューで再びNYFWに戻ってくることを計画している。
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)