大きければ大きいほどよいことだ。特にラグジュアリーファッション企業にとっては。
これは、ラグジュアリーブランドのリーダーたちが7月末に決算報告や大型投資に関するニュースを発表した際に発したメッセージだった。各社が発表したトップトレンドは、ブランドの買収、不動産やマーケティングへの支出などである。こうした動きはすぐに利益率に影響を与えているが、それは予想通りである。これらは長期的な成長という名の下で行われたものであり、今後、戦略的な投資を行う際に各企業はさらに大きな利点を得ることになる。
7月27日、ケリング(Kering)は、2023年上半期の決算報告に合わせて、イタリアのラグジュアリーブランド、ヴァレンティノ(Valentino)の株式30%をカタールの親会社メイフーラ(Mayhoola)から取得すると発表した。17億ユーロ(約2664億円)の取引は年内に締結される見込みで、2028年までに完了すればケリングはヴァレンティノの全株式を取得する機会がある。そして大株主のケリングも、ヴァレンティノの取締役会に名を連ねることになる。ケリングの声明によれば、提携拡大でファッションブランドのバルマン(Balmain)やパル・ジレリ(Pal Zileri)も所有するメイフーラがケリングの株主になる可能性もあるという。
創業63年のヴァレンティノは、25カ国以上で211店舗を展開しており、2022年の売上高は14億ユーロ(約2193億円)だった。バービーがブームになる前に同ブランドはピンクを前面に押し出して話題を集め、クリエイティブディレクターのピエールパオロ・ピッチョーリ氏は、2022年秋には「ピンクPP」のシェードを大々的に取り入れ、セレブリティから人気を博した。
業績が低調でケリングがみせた大きな動きとは?
大きければ大きいほどよいことだ。特にラグジュアリーファッション企業にとっては。
これは、ラグジュアリーブランドのリーダーたちが7月末に決算報告や大型投資に関するニュースを発表した際に発したメッセージだった。各社が発表したトップトレンドは、ブランドの買収、不動産やマーケティングへの支出などである。こうした動きはすぐに利益率に影響を与えているが、それは予想通りである。これらは長期的な成長という名の下で行われたものであり、今後、戦略的な投資を行う際に各企業はさらに大きな利点を得ることになる。
7月27日、ケリング(Kering)は、2023年上半期の決算報告に合わせて、イタリアのラグジュアリーブランド、ヴァレンティノ(Valentino)の株式30%をカタールの親会社メイフーラ(Mayhoola)から取得すると発表した。17億ユーロ(約2664億円)の取引は年内に締結される見込みで、2028年までに完了すればケリングはヴァレンティノの全株式を取得する機会がある。そして大株主のケリングも、ヴァレンティノの取締役会に名を連ねることになる。ケリングの声明によれば、提携拡大でファッションブランドのバルマン(Balmain)やパル・ジレリ(Pal Zileri)も所有するメイフーラがケリングの株主になる可能性もあるという。
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創業63年のヴァレンティノは、25カ国以上で211店舗を展開しており、2022年の売上高は14億ユーロ(約2193億円)だった。バービーがブームになる前に同ブランドはピンクを前面に押し出して話題を集め、クリエイティブディレクターのピエールパオロ・ピッチョーリ氏は、2022年秋には「ピンクPP」のシェードを大々的に取り入れ、セレブリティから人気を博した。
好調なLVMHと業績が低調で経営陣を刷新したケリング
競合他社にくらべて成長が遅れているケリングは、最近は、株主をなだめつつ、グッチ(Gucci)への依存度を軽減すべく、大きな動きを見せている。今年上半期、LVMH傘下のファッションおよび革製品企業の売上高は20%増加しているが、ケリングにとって最大の稼ぎ頭であるグッチの売上高はわずか1%増にとどまった。全体ではケリングの2%増に対し、LVMHの売上は前年比15%増となっている。
ケリングは6月、フレグランスメゾンのクリード(Creed)を35億ユーロ(約5484億円)と報じられる金額で買収し、美容分野への注力を拡大した。一方LVMHによると、同社の香水・化粧品部門は、上半期の年間売上高が2桁増の40.3億ユーロ(約6314億円)に達したという。
7月中旬、ついにケリングは経営陣を刷新し、サンローラン(Saint Laurent)のプレジデント兼CEOのフランチェスカ・ベレッティーニ氏をケリングの副CEOに異動させた。これによってケリンググループの全ブランドのCEO全員が彼女の直属となる。
7月27日に行われたケリングの決算説明会では、グループ会長兼CEOのフランソワ・アンリ・ピノー氏はグッチを例に挙げ、ケリングの業績に「失望している」ことが最近の変化の理由だとした。
「新しいブランドリーダーシップを求める声を何度も耳にしたが、必要だったのは単に人を移動させることではなかった。長期的に運営方法を変えたかった」と同氏は述べている。
不確実な時代には規模が有利に働く
7月末はラグジュアリーファッションのニュースが多かった。ケリングに加え、LVMH、プラダ(Prada)、モンクレール(Moncler)、ゼニア(Zegna)、エルメス(Hermès)が決算を発表した。また、2021年にケリングと合併すると噂されていたカルティエ(Cartier)のオーナーであるリシュモン(Richemont)は、独自に買収を行い、支配的株式を取得したと7月28日に発表した。ハードラグジュアリーグッズでの成功にもかかわらず、リシュモンの最近の買収はソフト・ラグジュアリー分野のもので、2021年にはラグジュアリー革製品ブランドのデルヴォー(Delvaux)を買収している。
ボストン コンサルティンググループ(Boston Consulting Group)のラグジュアリー部門グローバルヘッドであるサラ・ウィラースドルフ氏は、コングロマリットが定期的に買収を行うなど、ラグジュアリー部門の統合が続くと4月に予想している。「ひとつには不透明な時代だからで、そうした不確実な時代には規模があることが非常に有利だからだ」と同氏は述べた。「多くのブランドを傘下に収めれば、ひとつのブランドがうまくいっていなくても余力が得られる。さらに驚異的な購買力を持てる。卸売りパートナーやメディア、あらゆるものとの交渉方法においてもパワーがある」。
ラグジュアリー企業は決算説明会で、北米での継続的な売上不振、アジアでの新たな成長、意欲的な顧客の減少についてコメントする一方で、主に小売やマーケティングへの投資に力を入れており、それが好調な理由を説明している。
LVMHのCFOであるジャン=ジャック・ギオニー氏によると、上半期のLVMHのマーケティング支出は前年同期比24%増と異例の高さだった。これは主にLVMHが主催した複数のイベントと、それに伴う必要なマーケティングや広告によるものだ。その中には、ファレル氏がパリのポンヌフで開催した初のルイ・ヴィトンのランウェイショーも含まれている。ギオニー氏は、今年後半は比較的「静か」になり「頻度もレベルも低くなる」と述べた。ただしLVMHは7月末、2024年パリ・オリンピック・パラリンピックにプレミアムスポンサーとして参加することを発表している。
「ラグジュアリーブランドは、ストーリーテラーであり、イメージクリエイターであり、トレンドセッターだ。それがもたらすものと喚起する共感は、マーケティングとコミュニケーションに依存している」と述べたのは、小売分析会社インテリジェンスノード(Intelligence Node)のマーケティングおよびデザイン・バイスプレジデントのルーシー・ニコルズ氏だ。「ラグジュアリーブランドは憧れを抱かせる存在でもあり、オーディエンスに夢を信じてもらう必要がある。そうでなければ、誰がこんなプレミアムな価格を支払うだろうか」。
ラグジュアリーブランドによる店舗面積への投資
LVMHの不動産投資も「かなり大きな」もので、今年上半期には最大15億ユーロ(約2352億円)に達した。ギオニー氏は店舗購入を「日和見主義」と呼び、計画的なものではなかったが、小売店の賃貸料が上昇していることを考慮すると財務的に理にかなっていると指摘した。
「長年にわたり、投資した資金の大部分は不動産に投資されてきた」と同氏は述べ、のちに「(LVMHの)成長の大部分は実店舗によるものである」と指摘している。また「非常に安全で安定した立地」にある 「卓越した建物」が選ばれてきた。7月初め、LVMHはパリの有名なシャンゼリゼ通りにあるルイ・ヴィトンの旗艦店が入ったビルを購入したと報告している。
LVMHのほかのブランドでは、今年はリモワ(Rimowa)、ベルルティ(Berluti)、マーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)、ロエベ(Loewe)、そしてティファニー(Tiffany & Co.)が店舗に投資しており、ティファニーは4月に五番街の10フロアを改装した旗艦店をリニューアルオープンしている。LVMHは今後3、4年以内に、ティファニーの全店舗を刷新し、LVMHの基準に近づける計画だ。LVMHによるティファニー買収は2021年1月に発効した。
「ラグジュアリーブランドが独特なのは、店舗面積への投資は単に製品を提供するためではなく、製品の発見や提供に関する経験を、特別にキュレーションして顧客に提示することを目的としている点だ」とニコルズ氏は言う。「ラグジュアリー消費者、特に富裕層や超富裕層が、純粋な物理的製品から体験へとますます(支出を)シフトしていく中で、そうした体験に伴う創造性や独自性が(ブランドの成功にとって)もっとも重要になってくるだろう」。
ケリングのプレゼンテーションでCFOジャン=マルク・デュプレ氏が述べたように、「オンラインチャネルでは嗜好性の高い製品カテゴリーを多く露出している」が、苦戦を強いられている。一方、グッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタ(Bottega Venet)など、ケリングの主力ファッションブランドの上半期の売上の80〜90%は、直営店舗によるものだった。ケリングは今年上半期に35店舗をオープンし、総店舗数は約1700店舗となった。
短期的な収益性がどうあれ、必要なら投資を恐れない
ケリングは、特にグッチなどの自社ブランドの「魅力と独占性」を長期的に高めることに引き続き注力している。そのためには、店舗への投資と並行して、マージンを度外視し、マーケティングと顧客体験を倍増させなければならない。
グッチを軌道に乗せるため、デュプレ氏は「短期的な収益性への影響がどうあれ、必要なら投資を恐れない」と述べた。
一方、エルメスのCFOであるエリック・デュ・アルグエ氏は、不動産や店舗を含む2023年の事業投資額は、2022年の5億ユーロ(約784億円)に対し、9億ユーロ(約1411億円)になると述べた。その予算の一部は、米国のロサンゼルスとシカゴのほか、中国、フランス、オーストリアでの出店に充てられる。さらにエルメスは2022年と比較して売上高のより大きな割合をマーケティングに充てるとして、6億ユーロ(約941億円)の投資を計画している。
エルメスの売上高は前年比25%増の67億ユーロ(約1兆505億円)だった。一方、ゼニアとモンクレールの売上高はともに24%増加し、プラダ・グループは20%増加したと報告した。
[原文:Luxury Briefing: Inside luxury’s acquisition spree, from brands to real estate]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)